エピローグ
「…全く。いい大人が料理もできないのはどうかと思うよ?」
その日の夕飯は休日であったため、総一郎の当番だった。
これまで何かにつけて出前やら弁当やらで済ましていたが、実験を手伝ってくれたお礼ということで、ハルが来てから初めて、総一郎は料理をしていた。
しかし、総一郎は当然のことながら、料理のスキルはなく、このままだとごはんが食べられなさそうな様子であった。
桜がゲームをしているのを横で見ていたハルは、ちらっと総一郎のその様子を見て、たまりかねて、手伝うことにしたのだった。
「面目ない。」
総一郎はシュンとしながら、ジャガイモを洗っていた。
料理を進めながら、ハルは今日の実験のまとめを総一郎に聞いた。
「結局、お化けってなんなのかは分かったの?」
総一郎はジャガイモの皮を慣れない手つきで剥きながら、答えた。
「え、えっと、当然、説明できないことが多くて、間違いなくこれだっていうのは分からなかったよ。
例えば、電気的な何かだったとして、その電源はどこから供給されてるのかとか、どうやって、その場に滞留することができてるのかとか、分からないことがまだまだあるね。
というより、現代の科学ではお化けの正体が分かることはないと思うよ。
それくらい非常に高度な存在なんだよ。きっと。
だから、これはあくまで僕の推論だけど、お化けってのは死んでも残る人の「思い」なんじゃないかって。」
「思い?」
ハルは手を止めて、総一郎を見て聞いた。
「今日の実験で、ちらっと話したと思うけど、人間の脳には電気信号が流れていてね。
「脳波」って言って、実際にある周波数の電波を脳が出してるってことが分かってるんだよ。」
総一郎はまだ、ジャガイモの皮を剥くのに手間取りながら、説明した。
「へぇ~そんなのあるんだ。」
「人が死ぬときの未練だったり、憎しみだったりの強い感情が、この世に残るほどの強烈な「脳波」を出して、世界に干渉してるんじゃないかな。
要は人の強い「思い」が生きている人達に影響を与えてるんじゃないかなって思ってるよ。」
総一郎はようやくジャガイモの皮を剥き終わって、一息つきながら、言った。
「なるほど。「思い」か…
じゃあ、桜おねぇちゃんのこの世に残る強い「思い」がなくなったら、消えちゃうってことなのかな?」
ハルは少し悲しそうに総一郎に聞いた。
「そうかもね。お化けの一生ていうのは、「思い」がなくなるってことなのかもね。
よく言われてるそれが「成仏」ってやつなのかな。
けど、「思い」がなくなるなんて、中々、難しいことだと思うよ。
だから、今すぐは消えないんじゃないかな。」
総一郎はハルの頭を撫でて言った。
「…そうだね。
それにあの様子を見てると、本当にそんな「思い」があるのかも信じられないしね。」
ハルはゲームに夢中になっている桜を見て、あきれた顔で言った。
「はは。そうだよ。
結局は推察でしかないんだから、そうかもくらいに思ってたらいいと思うよ。」
総一郎は笑って言った。
ハルも納得して、次の玉ねぎを切り始めた。
が、ふとハルは気になって、総一郎に尋ねた。
「総一郎。そもそもなんで、実験しようと思ったの?
ただ単にお化けのことを知りたかっただけ?」
総一郎は二個目のジャガイモを洗っていた
「ん?
まぁ、興味本位ってのもあったけど、それよりもハルにお化けへの恐怖を少しでも克服してほしかったんだよ。」
「私?」
そう言って、ハルは自分を指さした。
「うん。ハルはきっとこれからもお化けに出会ってしまうだろう?
前も言ったけど、その度に怖いのは想像以上にしんどいと思うんだよ。
だから、ハルにお化けはこういうものなんだって分かってもらえたら、少しは怖くなくなるかなって思ってたんだよ。」
総一郎はハルに笑いかけながら言った。
ハルは自分のためだと分かって、少し照れながら、言った。
「た、確かに、ちょっと怖くなくなった気はしたよ。
その…ありがと。」
総一郎はまたハルの頭を撫でて、言った。
「どういたしまして。」
なんだか恥ずかしくなってしまったハルは玉ねぎをすごい勢いで切り終わった。
そして、切った食材を鍋に入れながら、話を変えようと総一郎に尋ねた。
「しかし、総一郎って本当にお化けを怖がらないけど、子供の時からそうなの?」
「いや、僕だって子供のころは怖かったよ。そりゃ。」
「じゃあ、どうやって怖くなくなったの?」
総一郎はハルの質問に手を止めて、少しう~んと考えた後、ハルに言った。
「それはね。僕が初めて見たお化けの話なんだけど。
まぁ、多分、それは桜さんなんだと思うんだけど、そのお化けがね。
…ものすっごい美人だったんだよ!!
一目ぼれだったね!
それで恐怖よりも、もっと知りたいってなって、それ以来、お化けは怖くなくなったんだ。
むしろ、会いたかったくらいだよ。」
総一郎の話に驚いたハルだったが、総一郎にもそういうところがあるんだと、少し嬉しく思った。
「へぇ~~総一郎も恋とかしたんだね。
お化けに恋するあたり、総一郎っぽいけど。
桜おねぇちゃんのこと好きだったんだ~
確かに頭から血を流してるけど、美人だもんね~」
ハルはからかうように総一郎に言った。
「まぁ、でも子供の時の話だよ。」
総一郎も自分で言ったものの、少し照れている様子だった。
その時、突然、食器と包丁がカタカタと震えだした。
ハルはハッとして、桜の方を見ると、顔はテレビ画面を見ていたので見えなかったが、顔を両手で覆い、肩が震えていた。
「桜おねぇちゃん!落ち着いて!
包丁はさすがに危ない!!」
恐らく、照れているのであろうことが分かったハルは桜を止めた。
すると、桜はふっとどこかに消えて、同時に食器などの震えは止まった。
総一郎は驚くこともなく、震えていたものを見て、考えてる様子で言った。
「やっぱり、感情の高ぶりで意思に関係なく、物が動かせるんだ。
金属製でもないものも動いてたし…まだまだ分からないことだらけだな~」
その様子を見てハルは少し怒った顔で言った。
「…ひょっとして、今のわざと?」
「い、いや!話したことは本当だよ!本当に一目ぼれしたんだ!!
だけど、こんなこと言ったら照れて、何か起こるかなとも思ったことは確かです…
申し訳ありませんでした!」
総一郎は桜がまだいると思ってテレビの方を向いて、頭を下げて謝った。
「はぁ~桜おねぇちゃん、もうどっか行っちゃったよ。
また、来た時に教えるから、ちゃんと謝りなよ。」
ハルは総一郎にため息をついて、注意した。
「面目ない。やはり、慣れない意地悪などするもんじゃないね。
申し訳ないけど、桜さん来た時は教えてね。」
総一郎は珍しく、本当に反省していた。
しかし、反省する総一郎を尻目にハルはその時、桜の弱点を知って、しめしめと悪い顔で笑っていたのだった。
(これから何かあった時はこれで仕返しができそうだ)
終わり




