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お化けの一生  作者: EFG
実験
13/58

ポルターガイスト


「次はもう少し分かりやすいポルターガイストについて実験してみよう!」


 そう言って総一郎はダンボールの中から、二つの皿をを取り出した。


「これは?」


 ハルは頭を押さえながら、総一郎に聞いた。


「これは片一方がプラスチックのお皿で、もうひとつは金属製の飾りがついたお皿だよ。」

「ふ〜ん。なんか金属のはおしゃれだね。」


 ハルはなんとはなしに皿を持って見回した。


「元々、この屋敷にあったものを使うけど、昔は錆びない銀とか、金を使っている食器が貴族の間ではステータスみたいなものだったらしいからね。

 出すとこに出したら、数万円くらいするんじゃないかな?」

「えっ!!」


 ハルは驚いて、そうっと皿を置いた。


「そうですよ。この家の食器類はそういったものが多いです。

 私も一使用人でしたから、食器の類は大事に守ってきました。

 盗もうとした人には天誅を与えてやりましたよ。

 それでも、いくつかは無くなってしまいましたが…」


 そう言って、桜は昔を思い出すように遠い目をしていた。

 ハルは天誅の内容について、怖くて聞けなかった。


「で、今度は何をしたら、いいの?」


 ハルはまた、自分が何かするかと思って、総一郎に聞いた。


「いや。今度は桜さんにこの二つのお皿を動かして欲しいんだ。」

 総一郎は桜にお願いした。

「まぁ、それくらいなら。」


 そう言って桜はカッと目を見開き、二つの皿に集中した。


 すると、金属製のお皿だけが左右に少し動いて、プラスチックのお皿はピクリとも動かなかった。


「ん?こちらのお皿は動かせそうにありませんね。」


 そう言って桜は皿に集中するのをやめた。

 ハルは不思議そうに桜に尋ねた。


「プラスチックのお皿は動かすのが難しいの?」

「そうみたいですね。

 この屋敷にはこういったお皿がなかったので、知りませんでした。」

「桜おねぇちゃんでも動かせないものもあるんだね。」

「直接、触れるようなことは出来ませんからね。

 むしろ、動かせないものの方が多いですよ。」

「へぇ〜そうなんだ。」


 ハルは総一郎に説明した。


「桜おねぇちゃんはプラスチックのお皿は動かせそうにないんだって。

 後、動かせるものの方が少ないって言ってるよ。」


 それを聞いて、総一郎は桜に質問した。


「では、どういったものを動かす事ができるか分かりますか?

 感覚的で構いません。」


 総一郎の質問に対して、少し考えて桜は答えた。


「…そうですね。今まで動かしたことがあるのは、この屋敷にある食器や、リモコンとか…あとは窓くらいですかね。」


 ハルは桜の言葉を総一郎に伝えた。


「動かしたことがあるのは、ここにある食器とリモコンとあと、窓くらいだって。」


 それを聞いて総一郎は確信めいた顔をした。


「やっぱり。

 桜さんは多分、磁気的なものを発生させて、物を動かしているんじゃないかな。

 分かりやすく言うと、磁石のような力を発生させているんだと思う。」


「磁石?

 あぁ~だから、磁石にくっつかないプラスチックのお皿と、磁石にくっつくお皿で試したんだ。」


 ハルは今までよりも分かりやすく、早々に納得した。


「うん。この前、僕には聞こえてなかったけど、桜さんがこの屋敷を出て行ってほしいって話をしているときに突然、周囲のものがガタガタ震えだしただろう?

 その時、動いているのが磁石に反応するものばかりのように感じて、ひょっとしたらって思ってたんだ。」

「…あの時、そんなことを考えてたんだ…総一郎は怖くはなかったの?」


 ハルは少しあきれて、総一郎に聞いた。


「ん?

 まぁ、変だな~とは思ったけど、目の前にお化けがいるんだろうから、こういうことも起こるんだろうな~って。

 それに僕はこう見えて学者だからね。

 分からないことがあったら、原因を考えることを仕事にしてるから、まずは頭がそっちに行っちゃってたね。」


 総一郎はあっけらかんと答えた。


「かっこいいこと言ってるけど…

 総一郎って、変わってるというか鈍感というか…

 きっと、お化けにとっちゃあ天敵だよ。」


 ハルがあきれた顔で言うと、桜もそれに乗っかるように言った。


「そうなんですよ。

 この男はまったく怖がることがないので、自分の存在意義が分からなくなってしまうんですよ。

 困ったものです。」

「桜おねぇちゃんもそうだって言ってるよ。

 総一郎、そういうとこ気を付けた方がいいよ。」


 ハルは総一郎を諭すように言った。


「えぇ~なんだか分からないけど、気を付けるようにするよ。」


 総一郎は何に気を付けなければいけないのか分からなかったが、ハルに答えた。


「と、とりあえず、話を戻すよ。

 桜さんが物を動かしている力が磁力だった場合、簡単に説明すると二通りの可能性があって、桜さんが磁石みたいなものである可能性、正確に言うと磁性体である可能性。

 それと、桜さんの意思で磁力をオン、オフできる電磁石の仕組みで磁力を発生させている可能性。

 電磁石っていうのはすごく簡単に言うと、スイッチONしているときだけ、磁石、スイッチOFFしている時だけ磁石じゃなくなるものだよ。

 とにかく、この二つの可能性があるんだ。」

「ん~~かなり難しくなってきたけど、なんとなく磁石ではないんじゃない?

 それなら、今でも桜おねぇちゃんにコップがくっついてないとおかしいし。」


 ハルは急に難しい話になってきたが、頑張ってついていこうとした。


「そうだね。僕も後者、つまり、電磁石の仕組みで磁力を発生させているんだと思う。

 この仕組みを詳しく説明するのは、ハルが中学生くらいになって勉強すると思うから、やめとくね。

 両者の違いを簡単に言うと、物を動かすのに電流が必要か否かということ。

 磁石は電流を流す必要が無くて、電磁石は電流を流す必要があるということなんだ。

 桜さんが電磁石の要領で物を意識した時だけ動かしているとすると、電流を流す必要があるんだ。」

「電流?って、何?」


 ハルはまた、分からない単語が出てきたので聞いた。


「ん~そうだな~

 電流はその名の通り、電気の流れみたいなもので、僕たちが普段使っている電化製品を動かす時に必要なものだよ。

 ここでは電流は電気なんだくらいで分かってくれたらいいよ。

 僕が最も言いたいのは、桜さんは電気に似た性質のものを発生させてるのではないかということなんだ。」


 ハルは頭をかしげているようだった。

 このままではいけないと総一郎はハルに問いかけてみた。


「もし、桜さんが自分で電気を作れるってなったら、物を動かせる以外に何ができると思う?

 それか、仮にハルが自分で電気を操れるってなったら、何をしてみたい?」


 ハルは唐突な質問に少し考えて、答えた。


「う~~んと…電気つけたり、テレビ点けたり、ポットのお湯を沸かしたり…こういうのを見ただけでできるなら楽かな~」

「そう!そういうことができるんだよ!

 実際、桜さんはテレビをつけたりしてたよね?

 つまり、お化けってのは電気的な何かを発生させてるんだ!」


 総一郎は今日一番の笑顔で話した。


「言われてみれば、家電製品、テレビや掃除機、照明、そういった類のものには干渉しやすいように思います。

 何故だかは考えたこともなかったですが。」


 桜は少し納得した様子だった。

 ハルはそういうものなのかと思い、総一郎に言った。


「桜おねぇちゃんが、確かに家電製品とかはなんか動かしやすかったと思うって。」


 総一郎は嬉しくなって、次の実験に進もうとした。


「じゃあ、次が最後の実験。これには準備がいるから、ちょっと待ってね。」


 そう言って、総一郎は二つの段ボールから、次々と取り出して準備をしだした。



 PBプレイボックスと呼ばれるゲーム機、ノートPC、タブレット端末、これらを取り出して、各ケーブルを接続して、動作環境を整えた。


「よし!準備ができた。

 一応、説明すると、これはゲーム機で、これはノートパソコン、で、これがタブレットだよ。

 皆、大学の友人からもらったお古だけど、使えるはずだよ。

 ハルも自由に使っていいからね。」


 ハルは少し嫌な顔をして、言った。


「実は私、こういうの苦手なんだよね…

 なんというか、ゲームとかパソコンとかでお化けに意地悪されることが多くてさ…

 今までの説明を聞いた感じ、総一郎は桜さんにこれを動かしてみてほしいってことだよね?」


「そうだったんだ。ごめんね。

 今回の実験が終わったら、もう置いとかない方がいいかな?」


 総一郎は実験よりも先にハルを案じて言った。


「いや。大丈夫だよ。

 なんとなくだけど、理由が分かって、そういうもんなんだなってあんまり今は怖くなくなったから。

 それに今は桜おねぇちゃんもいるし。

 というよりも、ゲームとかずっとやってはみたかったから、逆にうれしいよ。ありがと。」


 ハルはその時、ふと総一郎の言葉を思い出した。


「人でもお化けでも、理解できれば怖くなくなるよ。」


 確かにそうだなと、ハルは思わず笑った。


「良かった。こちらこそありがとう。

 じゃあ、実験に進もうか。

 ハルの言った通り、これらを桜さんに動かしてもらいますが、よろしいですか?」

 総一郎は安堵して、恐らく桜がいるであろう場所を見て、言った。


「まぁ、いいでしょう。

 なんでもいいですが、じゃあ、このゲーム機とやらをやってみますか。」

「桜おねぇちゃんがいいって。まず、ゲーム機からやってみるって。」

「分かりました。お願いします。

 まずは、テレビも何もつけていない状態で、起動からやってみてもらいます。」


 総一郎は桜にゲーム機のつけ方などは教えず、一から起動してもらうようにした。

 桜はテーブルの上に置いてあるリモコンの電源ボタンを押した。


 すると、テレビが点き、夕方のニュースが流れていた。


「で、このゲーム機はどうやったら起動できるのですか?」

「えっとね。このボタンを押したらいいと思うよ。」


 ハルは桜にボタンを指さして教えてあげた。


「なるほど。」


 そう言って、桜はボタンを押した。

 といっても、桜は物に触れることはできないため、リモコンの時もゲーム機の時も、指はボタンの奥にすり抜けていったような感じだった。

 

 しかし、画面がニュースのままであった。


「総一郎。ゲームの画面ってどうやったらでるの?」


 これはハルにも分からなかったので、総一郎に聞いた。


「ゲームの画面にしたい場合は、このボタンを何回か押して、「HDMI」って表示が出たら、ゲームの画面になるはずだよ。」


 総一郎はリモコンのボタンの場所をハルに教えた。


「だって。桜おねぇちゃん。」

「ほぉほぉ。」


 桜はそう言って、指定されたリモコンのボタンを押した。


 すると、「Final Story12」のスタート画面が表示されていた。


 総一郎は思わず、声を出した。


「…すごい。

 本当にここにいるかのように操作できているじゃないか…

 想像以上だ…」

「そんなに?

 今までもリモコンの操作とかは普通に私たちと全く同じようにやってたよ?」


 ハルはこともなげに言った。


「今まで、この屋敷の娯楽と言えば、テレビくらいでしたからね。ボタンの操作はお手の物ですよ。

 集中すれば、遠隔で操作だってできますよ。」


 桜は自信満々に言った。


「桜さんもボタンの操作は完璧だってさ。」

「…ハルもたいがい、慣れるのが速いよね…まぁ、いいか。

 同じようにってことはボタンを押しているってこと?

 でも、ボタンが凹んだような感じはしなかったけど。」


 総一郎は少しあきれたが、聞きたいことを聞いた。


「実際はボタンの奥の方まで指はすり抜けてった感じだよ。

 あと、遠くからでも操作してたよ。」

「ほぉ…接点間をショートさせる程度は簡単ってことか…

 いや、違うか…微弱な電流を出力側に流してるのかも…

 これはちょっとハルには説明できないな。

 とりあえず、電気に似た性質をもっているで、今回はOKかな。」


 総一郎は今回は早くも納得した。


「今回はこれで終わり?」


 ハルがなんだかあっけなかったなと思い聞いた。


「いや、出来れば、ノートパソコンとタブレットも使ってみてほしいと思ってるんだけど。」

「桜おねぇちゃん、次、どっち使ってみる?」


 ハルが桜を見て聞いたが、桜はテレビの画面をずっと見ていた。


 その様子を見て、ハルは桜に聞いた。


「桜おねぇちゃん?…もしかして、このゲームやってみたいの?」


 桜は画面から目を離さず、答えた。


「はい。

 この映像は何故だか、私の好奇心をくすぐってきます。

 是非、やってみたいのですが。」


 ハルは少し驚いて、総一郎に言った。


「桜おねぇちゃん、このゲームしたいんだって。どうする?」


 総一郎も意外だと驚いた。


「そうだね。今日のところはこのくらいで終わろうか。

 ハル。操作の仕方教えてあげれるかな?」


「うん。なんとなく。

 じゃあ、桜おねぇちゃん、一緒にやってみようか。」


「よろしくお願いします。」


 これほど素直に教えを乞う桜が初めてだったため、ハルは少し戸惑ったが、なんとなく嬉しかった。


 こうして、実験は桜がゲームに熱中してしまうという意外な結末で、終わりを迎えた。


 続く


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