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お化けの一生  作者: EFG
実験
11/58

お化けの言葉


「実験をしよう」


 お化けの東雲桜とハル達が和解して、一週間程たった頃、ハルの部屋で学校の宿題をしていたハルとそれを横で見ていた桜に総一郎が急に提案しだした。


「急にどしたの?」


 ハルは当然の質問をした。


「いや、桜さんとコミュニケーションができるようになった今、僕はお化けについての実験がしたくてたまらないんだよ!」


 総一郎はやけにテンションが高かった。


 ハルは宿題にも飽きてきていたので、丁度よかったと思い桜に聞いた。


「私は別にいいよ。桜おねぇちゃんはどう?」


 桜は無表情で答えた。


「私も今は正直何をしたら、消えることができるのか分からないので、困ってはいたところです。

 この機会にそれが分かるようでしたら、構いませんよ。

 ですが、ハルは大丈夫なのですか?

 もうすぐ、学校なのにまだ宿題が残っているじゃないですか。」

 

 数日前から自然と桜はハルにおねぇちゃんと呼ばれるようになったが、特に気にしていないようだった。


「だ、大丈夫だよ!もぉほとんど終わってるし。

 それに宿題があんまり進まなかったのは桜おねぇちゃんが邪魔ばっかりしてきたからじゃん!」


 ハルは少しムッとしながら答えた。


「あの時は悪かったですよ。

 その代わりに少し教えてあげているではないですか。」

「半分くらい嘘ついてるじゃん!!」


 二人はぎゃあぎゃあ言い合った。


「まぁまぁ、とりあえず、実験に付き合ってくれるようで良かった。じゃあ、みんな居間に行こうか。」


 総一郎は早く話を進めたくて、二人に言った。




 居間に移動して、すぐに総一郎はハルに言った。


「まずは、言葉についての実験をします。」


「言葉?」

「うん。とりあえず、桜さんに何か一言しゃべってもらいます。

 ハルは桜さんが話している時間をこのストップウォッチで測ってほしいんだ。」


 総一郎はそう言って、ストップウォッチをハルに渡した。


「その後、このノートに桜さんが話した言葉をできる限り、一言一句、同じように書いてくれないかな。」


 総一郎はハルにノートとペンを渡して、頼んだ。


 ハルは渡されたストップウォッチとノートとペンを持って、いつの間にこんな準備をしたんだと不思議に思った。

 そして、総一郎の後ろに何やら2個の段ボール箱があるのを発見した。


「総一郎。もしかして、その後ろの段ボールに入ってるのって、全部実験に使うの?」


 ハルは嫌な予感がして、総一郎に聞いた。


「そうだよ。この時のために色々と集めてきたんだ。」


 総一郎はうきうきした顔で答えた。


 ハルは思っていたよりもボリュームのありそうな実験だと、軽々しく了承したのを少し後悔した。

 しょうがないとため息をついて、ハルは桜に言った。


「じゃあ、桜おねぇちゃん。なんか一言しゃべってみて?」


 桜はいきなりの命令にイラッとした。


「あなたね。人に頼む時はちゃんとした言葉でお願いしなさい。

 礼儀が全くなっていません。」


 その時、ハルはちゃっかりストップウォッチを押して、時間を計っていた。


「う~んと、2.58秒っと…じゃあ、次はノートにさっきの言葉を書いて…」


 そう言って、ハルはノートに桜の言葉を書きだした。

 桜は騙されたと思って、ハルに言った。


「いい度胸です…私をだますとは…覚悟しときなさいよ。」


 ハルはやばいと思って、素直に謝った。


「わ、悪かったって!!ちょっとした冗談じゃん!!

 ごめんなさい。これからはちゃんとお願いするから。」

「まったく。今度やったら、また、あの嫌がらせの日々が始まると思いなさい。」


 桜は無表情でハルに釘を刺した。


「き、気を付けます…」


 ハルはやはり、お化けは怖いなと少しだけ反省した。


「できたよ。総一郎。」


 ハルは計測した時間そのままのストップウォッチと桜の言葉を書いたノートを渡した。


 ハルの様子を黙ってみていた総一郎はノートに書かれた言葉を見て、言った。


「見えても聞こえてもないけど、桜さんの言っていたことが大体分かるよ。

 ハル。桜さんを困らせてはダメだよ…」

「う、うん。分かったって!」


 ハルは総一郎にも小言を言われてしまった。


 総一郎はストップウォッチに記録された数字を桜の言葉の下に追記した。

 そして、ストップウォッチをリセットして、手に持って、ハルに次のお願いをした。


「今度はハルがこの言葉をそのまま言ってみて。」

「私が?なんで?」

「いいからいいから。」


 ハルは訳も分からず、言われた通りにした。


「あなたね。人に頼む時はちゃんとした言葉でお願いしなさい。

 礼儀が全くなっていません。」


 総一郎はハルの話している時間を測定して、ニヤリと笑って呟いた。


「やっぱり…すごい…これは面白い…」


 ハルは呟いている総一郎を見て、早く説明してほしくて催促した。


「だから!結局何だったの?今のは?」


 総一郎は我に帰って、ハルに言った。


「ごめんごめん。ちゃんと説明するよ。

 今、ハルが桜さんと同じ言葉を言った時間は5.86秒だったんだ。」


 そう言って、ノートに先ほど描いた数値「2.56秒」の下に、「春 5.86秒」と書いた。


「あれ?全然時間が違う。どうして?」


 ハルは不思議に思って、総一郎に聞いた。


「これは桜さんは音波ではなく、別の何かで意思を伝えたということだよ。」

「全く、分からん。ちゃんと説明してよ。総一郎。」


 ハルは少しイラッとして聞いた。


「ごめんって。そうだな。まず、言葉をしゃべると音が出るでしょ?

 これは喉を震わせて、空気を振動させてるんだ。これを音波っていうんだ。

 そうして、音波、つまり空気の振動が耳に伝わって、脳に届いて、僕たちは言葉として認識してるんだ。」


 総一郎はできるだけ、ハルにも分かるように説明した。


「うん。なんとなく分かった。

 で、桜おねぇちゃんの場合は音じゃないってことだよね?

 そんなの総一郎に聞こえてない時点で分かるじゃん。」


「そういうわけでもないんだよ。普通の人には聞こえない音もあるんだ。

 音にも種類があって、空気の振動の仕方で違うんだ。

 難しいと思うけど周波数というものがあってね。

 人間が聞き取れる周波数は「可聴域」っていって、案外限られているんだよ。

 例えば、こうもりなんかは人間の聞き取れないような超音波っていう高い周波数でコミュニケーションを行っているんだ。」


 総一郎は楽しそうに説明した。


「へぇ~そうなんだ。じゃあ、桜おねぇちゃんは超音波で私に話してるってこと?」

 ハルはあまり理解ができなかったが、分かった風を装って聞いた。


「いや、お化けの声が聞こえる人は超音波を聞き取れる特別な耳をしているのかとも思ったけど、恐らくそうではないようだ。

 今の実験で桜さんの言葉は普通の人間よりも2倍以上、早い時間で終わっている。

 きっと、ハルにはそんな早口には聞こえなかったよね?」

「うん。普通の速さに感じたよ。」

「ということは、桜さんの言葉を頭が理解するまでの時間が、音による言葉よりも速かっただけなんだ。

 難しいと思うけど、一つ一つ説明するね。

 音の場合、言葉が耳に届いてから、脳に伝えるために一旦、電気信号に変換されるんだ。

 そうして、脳に伝わって、今まで記憶していたメモリと照合して、僕たちは言葉として理解している。」


 ハルは難しくて分からなかったが、「脳」とか「メモリ」とかをかっこいいと思い、少し楽しそうだった。


「言葉が耳に届くまでの時間と、耳に届いてから脳に伝えるための形にするまでの時間、その信号が脳に届くまでの時間、記憶と照合するまでの時間、全てを足し合わせたものが今回の場合、「5.86秒」だったいうわけだ。」


 総一郎はハルにも分かるようノートにイメージ図を描きながら説明した。


「で、仮にこれが超音波によるものだったとしても、恐らく、この「耳」から「脳」までの経路が変わらないから、理解までにかかる時間はそれほど変わらないはずなんだ。

 ということは、桜さんは音を介したコミュニケーションをしているのではないと推測できる。」


 ハルは総一郎が書いてくれた図を見ると、なんとはなくだが分かった気がした。


「なるほど。

 じゃあ、桜おねぇちゃんの場合、違う経路で脳に伝えてるってことになるの?」


 総一郎は少し驚いて、ハルの頭を撫でて言った。


「その通りだよ。ハルは賢いな。」


 ハルはどんなもんだと胸を張った。


「僕が考えているのは、ハルの言う通り、桜さんは音による耳を介したコミュニケーションを行っているのではなく、直接、脳に電気信号の形で言葉を送ってるんじゃないかってことなんだ。」


 総一郎はイメージ図の脳を描いた部分をペンで指しながら、言った。


「お化けが見えたり、お化けの声が聞こえる人の脳には普通の人にはない特別なアンテナがあって、そのアンテナが脳に近い位置に存在するんじゃないかと思っているんだ。」

「アンテナって?」


 ハルは急に出てきた言葉に困惑した様子で聞いた。


「アンテナっていうのはある特定の周波数の信号を受信するためのもので、音の場合で言うと、この部分、耳ってことになるね。」


 そう言って、総一郎は図の耳の部分をペンで指しながら、言った。


「さっき、人間には「可聴域」って言って、特別な周波数しか聞こえないって言っただろう。

 これは耳っていうアンテナがその周波数しか受け取ることができないからなんだよ。

 こうもりの場合は超音波の周波数を受け取ることができるアンテナを持ってるから、超音波によるコミュニケーションができるんだ。」


 ハルは分かったような分からないような顔をしていた。


「ここで分かってほしいのが、アンテナっていうのはそれぞれ特別な周波数しか受け取れないということ。

 お化けの言葉を理解しようと思ったら、お化けが発する特別な周波数の言葉を受け取ることができるアンテナを持っていなければならないんだ。

 それは普通の人が持っていない、お化けと通じることができる人だけが持っていて、そして、そのアンテナが脳により近い位置にあるかもしれないってことが、今回の実験で推測できるんだよ。」


 総一郎は今回の実験結果を一通り、説明し終えた。


 ハルは腕を組んで、イメージ図を見ながら、理解しようとした。


「…要は私はハルに音ではない、別の何かで直接、脳に話しかけているということですね。」


 一緒に図を見ていた桜がハルに要約してくれた。


「なるほど。なんとはなくだけど、分かった気がする。」


 ハルはひとまず、納得した。


「よし!じゃあ、次の実験に進もう。」


 ハルには、総一郎が今まで見たことがないくらいはしゃいでいるように見えた。


 続く

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