お肉が食べたいんです!
朝。鳥の声に目を覚ます。
さて、今日も特訓。
寝る前に受けとった桶に入った水で顔を洗い、鏡を見た。
「うぇえええ!?」
予想できたことではあるが、そこに映っていたのば「僕」ではなかった。
ゲームで使っていたアバターとしての「マモル」だった。
少しカールした金色の短髪。それに青い目。
なかなかにイケてるその姿に、僕は鏡の前で少しポーズをとってみた。
……なにをやっているんだろう。
この宿は冒険者を対象としたところらしい。
それ故に、近隣の人々はなにか困りごとがあると依頼を届けにくるそうだ。
あのゲームのシステムとは少し違うが、これが現実的というものなのだろう。
とにかく特訓をして「依頼」とやらを受けなければならない。
なぜならツケを返す必要があるからだ。
ミルクとパンと卵。ありきたりと言えばありきたり。
しかし、少し食感の違うそれを味わった。
昨日と同じ広場で特訓を始めることにした。
今日はマルシーンは助言をしてくれるようだ。
「お手本」を見せてもらいながら練習をしていると、
「あああああああ!!!! いたあああああああああ!!!!!」
甲高い女の声がものすごい勢いで近づいてきた。
思わずそちらを見る。
黒色のシスターのような姿をした女だ。
「マモルさあああん!!! あたしもこっちにきちゃったみたいですううううう!!!」
泣きそうな顔でそう言う彼女の顔には見覚えがあった。
つい最近あのゲームを始めたばかりのシャイラだ。
シャイラは回復職。あのゲームの設定では教会に所属するシスターということになっている。
何度かクエストをクリアするための手伝いをしていたものだ。
「なんで、シャイラまでここに?」
「それは、あたしが知りたいですっ」
「これから……どうすんの?」
「教会で暮らすことになってるんですけど……」
そう言ってシャイラは少しもじもじとした。
「なに?」
「朝は5時に起きて! いっぱい仕事して! それで……」
「お勤めご苦労様だね」
マルシーンが口を挟んだ。
いや、それ、僕たちの元の世界では違う意味だから。
「それでご飯を食べるんですけど……お肉が!出ないんです!」
「あは、それはそれは切実で」
そう言ってマルシーンは笑った。
仲間になりたそうにシャイラはこっちを見ているが……。
……どうしたらいいんだ、これ。