静かに怒られたのです
ついてくるように、との彼の指示で別の部屋に移動することになった。
「実験室」と書かれた部屋に入ろうとすると、
「待ってくださあああああああい!!」
後ろの方から大声で叫びながら誰かが駆けつけてきた。
この声は……。そう、確かミコトさん。
「マルシーンさん、この人、あのアレでっ!!」
語彙がなにもかもすっ飛んだように慌てている。
「ああ、そうか。 たしかにそうだね」
マルシーンは静かにうなずいた。
「建物を壊されちゃかなわないから、外へ行こう」
そう提案され、表に。塔の裏側には広場があった。
転がっていた、拳大くらいの大きさの石をマルシーンが拾う。
それを広場の中ほどに置いた。
「じゃあ、これ。 魔法で潰してみてくれる?」
どうやら僕の力加減を確認する、そういうことらしい。
それならば、と石へ向けて魔法を放った。
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
予想通り。そう、全くの予想通り。
哀れ石ころ。どこへ消えたやら。というより、広場に大きな穴が空いてしまった。
ふとざわめきを感じて後ろを振り返ると、塔の窓には鈴なりの人だかりができているようだ。
「はぁ、なるほどねぇ……」
マルシーンが穴を見ながらため息を付いた。
「すぎる魔法は……使えないよりたちが悪い」
怒りを抑えたような口調で彼はつぶやいた。
「あ、ああ、これ。 俺、レベルカンストしててっ。 各種ステータスもゴリゴリに鍛えちゃったというかっ」
僕がそう説明をしようとするとマルシーンは訝しげに眉をひそめた。
「レベル??? ステータスってなんだ??」
ん? 話が通じないようだ。
「俺、レベル99なんです。 魔力値も最大まで上げたもんだから……」
「君が言ってることは、さっぱり理解できない。レベルってなんなんだ」
僕はこのゲームの世界に迷い込んだ。そのはずだ。
しかし、この世界ではゲームの設定とは違う部分もあるらしい。
レベルやステータス、そういった概念はないようだ。
「言っていることは理解できないが、状況は把握した。 どうやら鍛え直さないといけないのは事実のようだね」
マルシーンはそういうと再び穴を見てため息をついた。
「その穴。 埋めといてね」
ミコトさんに頼んでシャベルを借りて、ザックザックと穴を埋めることにする。
頑張って鍛えた結果がこうなるとは。ザックザック。
くっそう……こうなったら完璧に鍛え直してやる。ザックザック。
広場の片隅にあるベンチに、マルシーンからの昼ごはんの差し入れが置いてあることに気づいたのは、それから数時間後のことだった。
ギャグで書いていると言いましたね?
そういうことだ。