ようやくご対面なのです
担いでいた荷物の中にあった水を飲んで一呼吸。
いやいや、どうにも腹が減った。
夕食を摂るくらいの余裕はありそうだが、今後のことを考えると節約もしておきたい。
しばらくぼんやりしていると、ドアからノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
そう応えると、メイド姿の女の子が笑顔で入ってきた。桶を持って。
「こんばんは、旅でお疲れでしょうから、これで汗でも流してくださいね」
どうやら桶の中にはお湯が入っているようだ。
そういえば、この部屋には風呂がない。
身体も少し汚れていたのでちょうどよかった。
「あと、これ、ミコトさんからです」
そう言って差し出してきたのは紙包み。
開けるとサンドイッチが入っていた。
「ミコトさん?」
「受付の方です。 『今日だけ特別』とのことですよ」
笑顔で彼女はそういうと、部屋から出ていった。
サンドイッチを一口。
美味い。恐らく材料は僕が今まで口にしたことのないもの。
しかし口に合わないことはなく、満足した。
そして気づけば眠りに落ちていた。
ドンドン!!
激しいノックの音で目を覚ます。なにか奇妙な夢を見ていた気がするが霧散した。
「マモルさん! お約束の時間ですよ!」
この声は昨日のメイド嬢。
どうやら寝坊してしまったらしい。
あわてて起き上がり、昨日の残り湯(というより水だが)で顔を洗い部屋を飛び出した。
メイド嬢に案内されて、再修行のための「師匠」の元へ向かう。
通された部屋には、ひとりの男が座っていた。
不機嫌そうな顔で。
「遅い」
ぶっきらぼうに彼は言った。
一見するとかなり小柄に見える。年の頃だと僕より年下ではないだろうか。
僕は22歳。彼はどうみても15歳程度に見える。
彼が師匠だとでも?
「君が何を考えているかは大体分かるけど」
そう言って彼は立ち上がった。やはり僕より小柄だ。
「こう見えて22歳なんだよね。 まあよろしく」
手を差し伸べてきたので握り返す。
「僕はマルシーン。 よろしくね?」
小首を傾げて彼は言った。
童顔がより童顔に見える。黒い髪に濃い紫色の目が印象的だ。
しかし目力は強く、有無を言わせない雰囲気があった。
彼の姿の秘密については、後ほど知ることになるのだが。
暇なのかって?
暇じゃないよ。