第5話 初依頼と化け物
バトルシーンとか、やられた時のセリフって難しいですね。
文才が欲しい。
次の日となり、陽だまりの宿で朝食を食べていた。
これがまた結構おいしかった。
これでも貴族の元息子だったので、舌はかなり肥えているが、それでもかなりおいしい部類に入る。
「おいしい?」
「ん?あぁ、おいしいよ、ミリーちゃん。」
「こら、私の方が年上なんだから、ちゃん呼びはしない。」
「はいはい。」
ミリーちゃんは陽だまりの宿の看板娘だ。
ミリーちゃんは15歳で今の俺よりも年上だが、前世の俺と比べると年下になる。
意識は前世の状態なので、ついつい、ちゃん呼びしてしまうのだ。
「もう、悪い子ね。」
「ごちそうさま。じゃ、俺は行くから。」
「気をつけて帰ってきてね。」
「分かってるって。」
いつの間にこんなに仲良くなったのかというのは、俺が冒険者ギルドから帰ってきた後、夕食を食べているときにミリーちゃんが声をかけてきたのだ。
その時に年が近いということもあって、仲良くなったのだ。
俺は夕食を食べ終わった後、冒険者に向かった。
冒険者ギルドに入った後、まっすぐ依頼ボードに向かった。
とりあえず、初依頼ということでFランクの依頼を受けることを決めていた。
「最初は薬草採取だよな。」
受ける依頼はFランク依頼の薬草の採取だ。
これは常時依頼なので、受付で申し込む必要はない。
もちろん、ただのナイフでは薬草をキレないので、魔道具のナイフを用意するか、始動呪文を唱えて手でちぎるか、魔法で切るしかないのでFランク依頼とは言え、かなり危険だし、大変なものとなる。
魔物が出る可能性がある森に行くことになるからだ。
「さて、行くか。」
俺は依頼を確認した後、街の外にあるデリアの森に向かった。
薬草自体は魔力を帯びていることもあるし、きちんとどんな見た目をしているかも確認してきたので見つけやすいが、数が少ないという問題があるため、なかなか見つからない。
「案外、少ないな。もう少し奥に行くか。」
奥に行けば行くほど、魔力が濃くなっている。
薬草はどうやら魔力の濃いところに多いらしいので、森の奥に行くのが一番手っ取り早いだろう。
こういうこともあって、薬草採取の依頼はかなり嫌われている。
危険、面倒にもかかわらず、薬草1本で銭貨2枚で報酬が安いという状況だから、それもそうだろう。
後々、知ることになるのだが、森の奥に行く依頼を受けた人がついでに薬草を採取して、小遣い稼ぎするらしい。
「ちょっと暗いな。」
森の奥に行くと、木々が密集していて、光が届きづらい空間になっていた。
視界が悪く、周りの魔力が濃すぎて、薬草自体が判別しづらい状況だ。
薬草採取の依頼が嫌われているというのも納得だ。
「ん?」
薬草を探して、草木をかき分けながら進んでいるとちょっと離れた場所でガサゴソと何かが動いていた。
「『接続、我が魔力は世界に浸透する。』『炎よ、球となれ。』」
俺は始動呪文を唱えて、ついでに『炎球』を手元に待機させておく。
『炎球』は俺が唯一まともに使える攻撃系の第三階位魔法だ。
森に炎を放つのもどうかと思うが、相手が魔物だった場合、まともに効く魔法がこれしかない。
「グルァァ!」
「『放て!』」
出てきたのはただの熊だった。
『炎球』が熊に当たると、熊がボワッと燃え上がった。
「グルゥアァ!」
熊が吠えると炎が熊からはじかれて霧散した。
「はぁっ!?何で!?」
俺は木に隠れながら、全力で森の外に向かって走り出した。
今更、気づいたが、さっきの熊は強力な魔物だったらしい。
森の魔力と魔物の魔力が大きすぎたせいでうまく魔力を測ることができてなかったようだ。
「グルァァッ!」
「くそっ、速すぎる!」
熊は木をガン無視して、一直線に俺の方に向かってくる。
ドカンッ、ドカンッと後ろから木が倒れる音がだんだんと近づいてくるのが、非常に怖い。
「『炎よ、迸れ!』」
『火炎』をアレンジして、威力だけを追求した魔法『炎破』だ。
魔力を暴発させる形の魔法なので、第二階位魔法に分類されるが、瞬間的な火力なら、第三階位魔法の『炎球』よりも高い。
「グルァァッ!」
「くそっ!」
足止めにすらならなかったようだ。
逆に怒りで余計に近づいてきている気がしている。
「痛っ!」
終結呪文を唱えていなったので、さっきから生い茂っている枝や草が非常に邪魔だ。
さっきまでは、魔法でどうにかなるかと思っていたが、俺の最大威力の魔法は全く歯が立たなかった。
魔法がとっさに使えなくなるのは不便だが、今は枝や草の方が邪魔だ。
「『切断、我が魔力は世界を拒絶する!』」
終結呪文を唱えたことで、物理無効化現象が戻ったので、これで枝や草を気にせずに走ることができる。
「くそ熊っ!」
「グルゥァァッ!」
「うわっ!」
途中で根に足を引っかけて、俺はこけてしまった。
こけた痛みはないが、体勢を立て直す間に熊が俺に追いついてしまった。
後ろを見ると、熊が爪を赤く光らせて今にも俺を引っ搔こうとしていた。
「『接続、我が魔力はせっ・・・ぐぁぁっ!」
熊が腕を振り下ろし、俺は爪で切り裂かれ、体が後ろに吹き飛んだ。
何回か地面にバウンドした後、木にぶち当たって吹っ飛ぶ勢いが止まった。
「うぐっ・・・『接続、我が魔力は世界に浸透する!』『炎よ、迸れ!』」
「ルオオォッ!」
「ぐぁぁぁっ!」
本来なら、地雷のような使い方で使う『炎破』を俺の手を起点に発生したため、手が少し炭化してしまったが、命と比べたら、軽いものだ。
俺の左手を犠牲にして、熊に与えた痛打は顔を軽く焼いた程度だ。
鼻が弱点だったので、かなり痛みを感じてはいるようだが。
「・・・くそったれが、これでも無理か。」
熊の顔を焼いていた炎は消えた。
顔の一部が炭化しているが、それでも熊は目をランランと輝かせていた。
「・・・『炎よ、迸れ!』『炎よ、迸れ!』『炎よ、迸れ!』『炎よ、ほ・・・ごほっ!ごほっ!」
どんどん左手が炭化していくが、熊は俺のさっきの魔法を警戒しているのか、顔を近づけようとしない。
『炎破』を連射しても、全て体毛と魔力量に防がれ、鎮火した。
どうやら、内臓が傷ついているようで、手を確認すると血がべっとりとついていた。
「・・・くそ熊め、死んでしまえ。」
「グルォォッ!」
熊が怒り狂い、体全身から赤い光を発していた。
熊が手を振り上げ、俺が死を覚悟した瞬間だった。
「『風よ、渦巻き、纏い、貫け。』」
「グルッ・・・」
緑色の閃光が熊の頭を貫き、熊は目をひん剥き、ドスンッと地響きをたてて倒れた。
俺は何が起こったのか、分からなかった。
力の入らない体に鞭打って、周りを確認するが、すぐそばに人はいなかった。
「な、何が・・・」
俺は銀色が視界の端にちらついたのを最後に俺は気を失った。
お楽しみいただけましたか?
ブックマークや感想、広告の下にある☆マークでの評価をよろしくお願いします。