第3話 12歳とふざけた運命
タイトルって難しいですね。
あれから、4年ほど経ち、俺は12歳を目前にしていた。
どうやら、俺に魔法の才能はなかったらしく、頑張って特訓したはいいが、第三階位魔法を辛うじて使えるだけだった。
魔力量も多いほうではなかったのと、魔法を発動させようとすると何故か魔法が霧散してしまうからだ。
キルアも原因を突き止めることを手伝ってくれたが、結局のところ、何が原因なのかは分からなかった。
まぁ、第二階位魔法まで使えれば、生活に困ることはないので問題はない。
身を守るという意味では、第三階位魔法を自由に使える必要があったが、貴族の息子である俺は守られる身なので、そこにもあまり問題はない。
俺は12歳になるので、ルーディビリア魔法学校に行くことになる。
ルーディビリア魔法学校は、カインズ王国一の学校だ。
貴族の子息や令嬢が多く在籍し、最先端の魔法の学び場であり、社交の場だ。
あまり家の外に出ることがない俺にとって、まともに人と接する場所になることだろう。
「ま、楽しみだなっと。」
俺はベッドから飛び上がるように起き上がった。
すると、ちょうど部屋の扉をノックする音がした。
「誰ですか?」
「リュー、入るよ。」
「兄様?どうしたんですか?」
ノックをして中に入ってきたのは、エドワードだった。
エドワードは今年ルーディビリア学校を次席で卒業した。
エドワードは優秀な魔法師だったらしく、既に第七階位魔法師になっている。
第七階位魔法師は魔法師の国として有名なカインズ王国でも100人もいない。
俺が学校に入る時にエドワードは宮廷魔導士として働くことになっている。
「いいかい?よく聞きなさい、リュー。」
「兄様、どうしたんですか、急に。」
「リュー、いますぐ、この家を出るんだ。」
エドワードは俺の前でひざをついて、真剣な表情でそう言った。
俺は理解ができなかった。
エドワードが家の跡を継ぐために俺を追い出そうとしているというのが一瞬思い浮かぶが、それはエドワードの俺に対する今ままでの態度からそれは真っ先に除外できる。
なら、何があるのか、家の跡継ぎ問題は間違いはないと思う。
多分、俺を傀儡の当主にしたい家臣がいるんだろう。
「兄様・・・何故ですか?」
「それは・・・このラインヒール伯爵家は魔法師として有名な家系なんだ。あまり言いたくはないけど、リューは辛うじて第三階位魔法師になるだろう?ラインヒール伯爵家では、それは認められない。父様達はリューを殺す計画を水面下で運んでいる。」
「えっ・・・」
さすがにその考えは予想外だった。
魔法の実力が足りないだけで殺されることになるとは思わなかった。
よく考えればそうだ。
伯爵家という上位の立場と魔法重視の世界という条件があれば、この結果に気づけるはずだった。
考えが甘かったのか、それとも無意識でその考えを除外していたかだろう。
「僕が荷物を用意する。それを持って、屋敷を出るんだ。国内にいるのはダメだ。レントセリア連合の方に行くんだ。」
レントセリア連合はラインヒール伯爵領と隣接している国で、商人が多く、魔法師の階位による差別が少ない国でもある
「・・・分かりました、兄様。」
「何をしている、エドワード。」
俺は声をした方向を向くと、部屋の入口のところにゼブリストが立っていた。
ゼブリストにさっきの話を聞かれた可能性があるというのはかなりまずい。
俺はとっさに弁解しようとすると、エドワードが俺の肩を強く握った。
エドワードの方を見ると、エドワードは俺を見つめるとゆっくり首を横に振った。
俺から手を放し、俺をゼブリストから隠すように立ち上がった。
「・・・父様。リューと少し話していただけですよ。大事な弟と話すぐらい問題ないでしょう。」
「・・・まぁ、いいだろう。あまり、裏で動くのはやめておくといい。」
「分かってますよ、父様。じゃあね、リュー。」
ゼブリストとエドワードは俺の部屋から出て行った。
俺はもう一度、自分のベッドに寝転がり、さっきのことを考えていた。
これから、魔法学校に入学する予定だと考えていたにもかかわらず、いきなりレントセリア連合に逃亡する羽目になるとは思ってなかった。
「・・・順風満帆に生活できると思ってたのにな。」
――――――――――――――――――――
それから、夜になり、俺は外行きの服のまま、ベッドの上に寝転がっていた。
しばらくして、屋敷内の全員が寝入って、屋敷が静かになった後、俺の部屋をノックする音がした。
俺が返事をせずとも、部屋の扉をできるだけ音をたてないように開けて、エドワードが部屋の中に入ってきた。
「・・・兄様。」
「ごめんよ、リュー。はい、これ、荷物。」
「ありがとうございます、兄様。」
エドワードが渡してきた荷物は思っていたよりもずっしりと重かった。
中を確認してみると、水は魔法で作り出せるので少なめで、主に日持ちするような食料が入っていた。
他には、地図とコンパス、ナイフ、革袋、そして、何か手紙のようなものが入っていた。
「主に食料と、必要そうな道具と路銀と一応、僕直筆の紹介状だよ。」
手紙のようなものはエドワードの紹介状だったようだ。
大貴族の次期当主で宮廷魔法師のエドワードの紹介状なら、レントセリア連合でも役に立つだろう。
「ありがとうございます、兄様。また会いましょう。」
俺は窓から出ていくために、窓枠に足をかけた。
「・・・リュー。」
「どうしたんですか、兄様。」
俺は呼びかけられて、体勢はそのままでエドワードの方に振り返った。
「最後に僕に本当の君を見せてくれないかい?」
「・・・急にどうしたんですか?」
俺は動揺したが、それを取り繕い、いつもと変わらないように意識して、返事を返した。
「今まで、僕達に君が本心を見せてこなかったのは知っているよ。」
「・・・ばれてたのか。」
俺はあきらめて、本来の口調でしゃべった。
「当たり前だろう?僕は君の兄なんだから。」
「・・・俺がリューでなくてもか。」
俺は自身がリューテスラでないことを暗にばらした。
本来なら、言うつもりはなかったが、何故だろう。
もう二度と会うことはない可能性が非常に高いからだろうか。
「それでもだよ。君は君だ、今は君がリューだ。それなら、僕は君を大事な弟だと思うよ。悪人なら別だけどね。」
「・・・そうか。」
思ったよりもエドワードは俺のことを理解してくれていたらしい。
前世のことは、詳しいことまでは思い出せないが、俺は兄弟はいなかったはずだ。
だが、兄弟というのは、とてもいいものだと俺は思った。
エドワードはいい兄だし、リディアもリディアなりに姉として、俺のことを引っ張ってくれようとしてくれていた。
リディアは今、屋敷にいないので会えないことが残念だ。
「最後に本当の君を僕に見せてくれたことをうれしく思うよ。」
「・・・じゃあな、兄さん。」
「あぁ、また会える日を楽しみにしてるよ。」
「あぁ。」
俺は窓から屋敷を出た後、屋敷の塀を越えて、城下町の裏道を通り、こっそり衛兵に見つからないように門の外に出て、レントセリア連合に向かい歩き出した。
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