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神秘の洞窟  作者: しゅむ
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未知の洞窟

外の世界とはなんなのか……。

 俺は運が良い。

 いや、俺たちは既に全ての運を使い果たしのかもしれない。


 信じられない事に外の世界に飛び出した俺たちは神秘の洞窟を発見した。

 さらにその中に入る事にも成功したのだ。


 歴史上、初めて神秘の洞窟に入った俺たちは中の状況に苦戦している。


 洞窟の中の情報が全くない状態では、苦戦するのも無理はないだろう。

 当然、俺よりも先に洞窟に入った仲間たちの死体を見つけるのは非常に簡単だ。


 そして、洞窟の中に入った瞬間から命を削られている感覚がある。

 軽装備の俺たちウォーリアーは長期間の生存を見込めないだろう。


 ゆっくり洞窟の探索をしている余裕は無いが、今のところ洞窟は前に進むしかない広い1本道だ。

 しかし、簡単な1本道ではない。この世でもっとも過酷な死の1本道と言えるだろう。


 俺たちの行く手を遮っているのは、床を含めた上下左右に生息しているスライムだ。


 サラサラの液体のようなスライムや、ドロッとしたスライムまで様々な種類のスライムが生息している。

 そんなスライムの中でも厄介な存在は、俺たちを簡単に殺す力を有している事だ。


 そんなスライムと戦うという選択肢は洞窟に入ってすぐに消えた。


 仲間の死因は酸性のスライムに溶かされているようで、別のスライムに捕まった仲間も急速に動きを鈍くしている。

 動きが鈍くなれば、酸性のスライムの餌食でもある。


 スライムは連携するように俺たちを捕えて、その後は死ぬまで拘束を続けるだろう。

 そんな恐ろしいスライムと戦う選択肢は取れない。


 戦う選択をしたものは豪傑でも勇者でもない。

 愚か者だ。


 豪傑や勇者は勝てる見込みがあるから戦うのだ。


 仮に負けても命が助かるなら、戦う意味もあるだろうが、負ければ死ぬのが確定している戦いに挑むのは無謀で愚かな行為だ。


 スライムと戦えば逃げる事も出来ずに負けて死ぬのだ。


 洞窟に入ってすぐにその事を思い知った俺たちは、早々にスライムから逃げるという選択肢を取り続けている。

 しかし、洞窟を引き返すという選択も取れない。


 次も神秘の洞窟を発見できる保証は無いが、それ以上に俺たちは引き返したものたちの末路を知っているのだ。


 洞窟の発見、未発見にかかわらず、外の世界に旅立ったものたちの少数が、故郷のすぐ傍まで引き返してくる事がある。

 しかし、1度外の世界に出れば、2度と俺たちの故郷に入る事は出来ない。


 外の世界と繋がっている場所付近まで戻ってきたものが情報などを伝える事はあるが、外の世界まで誰かが助けに向かったり、救出などがされた例は全くない。


 引き返しても無駄であれば、過酷な死の道を通って秘宝を目指す方が生き残れる可能性がある。0か1の可能性しかないなら、1に賭けるしか選択肢はない、

 時折、スライムによって捕らえられた仲間たちが押し戻されてくるが、無事なものが引き返してくる事はない。


 まだ息のあるスライムに捕まった仲間を助けに行きたいが、助ける為にはスライムに触れる必要がある。

 そして、スライムに触れれば俺もただでは済まない。


 拘束するタイプのスライムであれば強引に抜け出したり、捕らえられている仲間を助け出せる可能性はあるが、酸性のスライムに触れれば俺も死ぬ事になるだろう。


 どちらにしろスライムに触れてしまえば、秘宝を目指す競争からは離脱する事になる。


 スライムに捕らえられた仲間たちも、助けてくれと懇願するものは居ない。仲間の為に盾になり、壁となった仲間たちは俺たちに先に行くように促している。


 犠牲になった仲間たちの想いはわかっている。

 仲間を助ける為に盾になったのだ。代わりに秘宝を手に入れて欲しいと願う気持ちは痛いほど伝わってくる。


 共倒れが最悪の結果であり、仲間の足を止めるという事は望んでいない。


 スライムに捕らえられた仲間が叫ぶ。

「止まるな! 秘宝を見つけろ!!」


 俺たちは息のある仲間たちを見捨てるようにして前に進む。

 悔しさや無力感を抑えつけるようにして前に進む。


 俺はスライムに捕らえられた仲間を右に避け、左に避けてを繰り返し、時には仲間の死体を飛び越えるようにして前に進む。


 何処を走っていても油断は出来ない。


 突然、上からボトリと落ちてきた大きなスライムが、前方を走っている集団を飲み込んだ。

「ぐあぁぁぁ!」

「ぎゃぁぁあ!」


 俺の前方ではスライムに捕らえられた仲間たちの悲鳴や苦しみの声が響いている。


 俺は落ちてきた大きなスライムを避けるように左に逃げたが、壁に近づいた事でスライムの攻撃が激しくなってしまう。


 俺の近くを一緒に走っている仲間たちも同じようで、スライムの攻撃を全力で回避している。


 しかし、全ての攻撃を回避する事は出来ず、スライムに捕まってしまう仲間は後を絶たない。


 遂にスライムの攻撃が俺に届くかと思われた時、俺の真横に居た仲間が俺を守るようにして捕らえられた。


 俺は思わず振り返るが、捕らえられた仲間が俺に向かって叫ぶ。

「行け! 振り返るな!!」


 俺は失意により一瞬だけ下がった頭を跳ね上げるようにして、再び前を向いて全力で走り出した。


 誰だって仲間の盾にはなりたくない。しかし、避け切れずにスライムの餌食になったとしても、近くの仲間は守れたという結果にはなる。


 スライムに捕まれば命はないが、仲間を守るという役割を全うする事が出来る。

 秘宝を手に入れるのが俺たちの目標だが、仲間を守って死ぬのも悪くない。


 仲間たちに生かされた俺は無駄口を叩かず、愚直に真っ直ぐ走る。

 周りの連中も俺と同じ気持ちなのだろう。誰1人として無駄口を叩かず、神妙な面持ちで走り続けている。


 命を削られている感覚は続いており、ゆっくり周りを観察しながら探索できるような心境ではない。


 幸い1本道は続いており、全力で前に走り続けるだけだ。


 この命が尽きる前に秘宝を見つける。

 その一心で俺は無数の屍を乗り越え、仲間たちに守られて前に突き進む。


 しかし、俺は走りながら前方に違和感を覚える。

 仲間に囲まれて走っていれば、視界を十分に確保する事は難しい。


 もちろん先頭や、集団の端に位置すれば、仲間たちに囲まれているより視界は確保されているが、激しいスライムの攻撃に晒される事になる。


 集団の中に居る俺は見える範囲で素早く上下左右を確認すると、1本道が終わっており、正面は行き止まりになっている事に気が付いた。


 僅かに見えた前方は仲間の死体が集中しており、同時に凶悪なスライムも見え隠れしている。

 そんな前方の行き止まりにぶつかれば、当然スライムのおまけ付きだ。


 前方に見える仲間たちは視界不良の中を全力で走って、正面の壁に気が付かずにぶつかってしまったのだろう。

 スライム付きの壁にぶつかって無事で済む訳も無く、多くのものが死体の仲間入りだ。


 しかし、俺は前方が行き止まりになること以外にも気が付いている。


 前方にある行き止まりの左右には道があり、行き止まりではなくT字路になっているのだ。


 右の道か左の道か。

 俺は後悔のない選択をしなければならない。


 そして、選択する為の時間は殆ど残されていない。


 今は秘宝を得る為の競争をしている真っ最中だ。

 速度を緩めても後ろの仲間に押され、下手をしたら転倒してしまうだろう。足を止めてしまえば、仲間たちに圧し潰されてしまう可能性もある。


 しかし、俺の位置からでは仲間に視界を塞がれて左右の道をしっかり確認する事が出来ず、どちらの道が正解か全くわからない。

 俺だけじゃなく、仲間たちを含めて誰にも正解の道なんてわからないだろう。


 前方が行き止まりである事に気が付いていない仲間も多いが、気が付いている少数の仲間が左右に流れているのがわかる。


 まだまだ行き止まりまで時間はあるが、早めに決断を下す必要がある。

 集団で走っている現状では自分が望む方向に向かって、急な進路変更は難しい。


 決断が早ければ早いほど、左右の道に到達できる可能性は高まるのだ。

 決断が遅れれば、集団に抗う事が出来ず、後ろの仲間に押されて行き止まりに激突してしまうだろう。


 俺は左の道に行く事を決断し、徐々に左の方向に寄っていく。

 その間もスライムたちの攻撃が緩まる事もなく、上下左右から無慈悲な攻撃は続いている。


 多くの仲間たちがスライムの犠牲になる中で、俺は運良く左の道に駆け込むに成功した。


 もちろん俺と同じように左の道に向かう過程で、スライムに捕まった仲間たちも多く、行き止まりの壁に激突してスライムの犠牲になった仲間も多い。


 俺は後ろを振り返らず、前だけを見て走り続ける。


外の世界に関する話はありませんでしたが、もう少しお待ち下さい。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


何でも無い事を含めて、追記や修正をツイッターでお知らせしております。

https://twitter.com/shum3469


次回もよろしくお願い致します。

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