お気楽ダンジョンアタック・プロローグのみ
作者本人がゲーム大好きなので、ゲーム要素を混ぜたくなる衝動にかられます。
「なんだ……これ」
高橋 和人は、目の前にある出来事が理解できなかった。
否。理解したくなかった、が正しいか。
「なんか猫転送装置を思い出して、やってみただけなのに」
床に八角形で貼ったテープの内側。そこがキレイに切り抜かれていた。
その切り抜かれた向こう側には、雲まじりの青い空が存在し、まっすぐ見下ろした先には何か薄黄色く光る正方形の平面が見えた。
「なんだ……これ」
和人は何も理解したくなかった。
~~~
ボクの頭はパニック。ただそれだけだった。
だってそうでしょ?ボクはただの高校2年生。
ただゲームやアニメ、漫画やラノベとかの2次元文化が好きなだけの、インドア趣味な子供だ。
身長・体重・体型、顔の造りだって平々凡々。身体能力はちょっとアレ。
そんなボクの部屋に、急に大きな穴が開いたんだよ?
ここは家の2階だよ?それなのに、床の穴が空と繋がってるんだよ!
パニックを起こして当然だろ!
は?ラノベ好きなら飛び込むだろって?
そんな事はしないよ!だって落ちて死ぬかもしれないじゃん!
下の床らしき所まで届きそうな梯子は無いし、ロープで降りるなんてボクの筋力じゃ無理だ。
だから正解だと思うのは、猫転送装置のテープを剥がして、みなかったことにする。
ぺりっ。
「!?」
テープに手をかけて八角形が崩れると、瞬きする間もなく消えてしまった穴。
ぺた。
「!?」
貼り直すと、再び広がる謎の空。
「これ……猫転送装置を作ると、穴が開くの?」
その様子からこんな仮説が思い浮かんだから、部屋の違うところに幾つか転送装置を作ってみた。
「やっぱりだ。貼るテープは何でもよくて、転送装置を作った所に穴が開く」
ちなみに部屋の外でも転送装置を作ってみたけど、なにも変化はなかった。
「穴が開くのは解ったけど、降りていける手段がない」
問題はソコなんだ。
安全に行き来できるなら飛び込むのもアリだけど、部屋に戻ってこられないなら飛び込む気なんて絶対に湧かない。
どうすれば良いのか?ながーい梯子を買うなんて選択肢は無い。
そんなお金があるなら、趣味に使う。
うんうん唸ってみるけど、良い案なんて出てきやしない。
思わず愚痴のひとつでも溢れてしまうってもんだ。
「なんでこんな奇天烈な事になったんだよ…………あぁっ!!」
溢れた言葉に、とんでもないヒントが隠されていたよ!
そうだよ!エセ江戸時代の天才発明家の子孫が主人公な作品に、似た発明品が有ったじゃないか!!
物は試しだ。
部屋の壁に、適当なテープで猫転送装置を作ってみる。
「……おお、成功だ」
さっきまで遠くに見えていた薄黄色く光る空間が、ちょうど部屋の床と高さが合う位置に来ていた。
光る空間を良く見ると、それは半透明で極めて薄い板に見える物だった。
目測一辺1メートル?位の正方形な板をずらっと並べた感じ。
ここで調子に乗って、体を向こう側に突っ込ませる奴は蛮勇だ。
徹底的に慎重論。
RPGのゲームで攻略本やサイトに書かれた、攻略推奨レベルからプラスでかなり上乗せしてから攻略を始めるプレイスタイルのボクだ。
だから、部屋の隅に立て掛けて、時々振って遊んでいる長めの木刀を使う。修学旅行のお土産品。
全長はこれまた1メートル位の物で、片手だけ使って振り回そうとすると、逆に振り回される逸品。
その木刀で光る板のひとつをつつく。
気分は10フィートの棒で床の罠を慎重に探りながら、手強い迷宮を進む冒険者。
まずは軽く。固い感触。
少しずつ力を込めてゆく。固い感触。
最後には全体重と力を込めて。固い感触。
「これだけやって大丈夫なら、板に乗れそうだ」
木刀は持ったまま、そろりそろりと穴をくぐり、板に足を置く。
そしてまた慎重に、体重を板の上の足へゆっくりと移す。
「うん。板が割れて落ちるとかは、なさそうだ」
ぶつくさ言いながらも、やっぱり慎重に木刀で周囲をつんつんし続ける。
何度か後ろを振り向いて、戻るための転送装置で開けた穴が残っているのを確認する。戻れなくなったら怖いからね。
そのまま進んで、多分真ん中だろうと思う場所まで進むと、この世界に変化が起きた。
『ようこそ“キャラクタークリエイトの間”へ。この空間での1時間は、貴方の世界での30分となります』
目の前で拡張現実みたいな現象が起きて、メッセージウィンドウが開いた。
「なんだ……これ」
ボクの頭にパニックが再び襲来。
でも目は動き続けて、メッセージウィンドウの文字を読んで行く。
『貴方にはこれから、魔物が溢れるダンジョンへ挑戦して頂きます』
「はあっ!?」
訳が分からない。訳が分からない。ボクはそんな危険な事なんかしたくない!
『チュートリアルを開始します。まずはメニューウィンドウを開ける所から』
「待って!?ボク了承してないよ!!」
拒否しようとしても、メッセージウィンドウは構わず進む。
メニューウィンドウの開き方、メニューの操作方法、メニュー内項目の各種役割の説明。ウィンドウの消し方。
ウィンドウの端に、この世界の時間とボクの世界の時間が表示されているのが嬉しい。
イルカがはしっこに現れて、そいつに“お前を消す方法”を質問する。とか言うネタ展開は無いみたいだ。
ちなみにキャラクリメニューもあるけど、灰色になってて今は選べない。
ボクが何を言っても止まらず、メッセージの指示に従うしかボクに出来ることが無いみたいだった。
『ステータス画面を開いて下さい』
「分かったよ!やりますよ!」
言われた通り、ステータス画面を展開。するとこんな事が書いてあった。
名前:タカハシ カズト
レベル:1
ジョブ:ドールマスター(1)
スキル:人形使い(1) 憑依(1) 空間操作(1)
細かいステータス値もあったけど、そっちは割愛。
だって身体測定の数値みたいで、恥ずかしいじゃん。良いだろ、見せなくてもさ。
『ジョブやスキルの横の数字はスキルレベルです。ステータス数値の上昇は、本人の基礎レベル上昇で本人の資質に合わせて、成長します』
「レベルアップ後のステ振りに悩まなくて良いのは、ありがたいかな?」
『貴方に与えた人形使いと憑依のスキルを使えば、ここで創ったキャラクターに憑依して、安全にダンジョンアタックが行えます』
「マジで!?」
それが本当なら、完全にダンジョン探索ゲームのノリじゃん!
『空間操作は道具袋を始めに使えて、成長させれば転移能力等も備わって行き、貴方自身が何か魔法を使えるようになれば、魔法をこの場所から飛ばしてキャラクターの支援が出来るようにもなれます』
キャラに攻撃させながらボクが攻撃魔法を使って、攻撃の手数が2倍!2回攻撃が出来る!
『人形使いは操る人形のステータスにプラス補正を。憑依は憑依した対象のステータスにプラス補正して動かせます。つまり創られたキャラクターに憑依するなら、相乗効果が期待できます』
「公式がエグいスキルコンボを明かすなんて……」
『スキルに関しては、こことダンジョン内でのみ使用可能です。ステータス説明を終わりにして、これからキャラクタークリエイトを行います』
「うん!やるやる!!」
気分は新作ゲームの初プレイ。
やりたくないとか言ってた?知らないよ。
キャラクターに憑依って、遠い未来のゲームであるフルダイブなVRMMOみたいな経験が出来るみたいじゃん。
ゲームが好きなら、一度はプレイしてみたいじゃん!
という事で、明るくなって選べる様になったキャラクリメニューを、メニューウィンドウから選ぶ。
『創ったキャラクターにも貴方とは別にステータスが存在します。創る際に振り分けたステータス値で、キャラクターの資質が変わりますので、慎重にお願いします』
「オッケー」
出てきたキャラクリ画面は、とてつもない自由度だった。
性別・身長・体型・髪型や色・顔の造形・眉や目の形とか色・声・筋肉量・利き腕利き脚・女性キャラならおっ○いスライダーだけじゃなく、ソレの形まで自由自在。
ある程度の雛型もあって、それを叩き台にして仕上げるもよし無から組み上げるもよし。
アレコレ悩んで悩み抜いて、時間の経過に驚いて自室に戻って木刀を片付けて、寝て起きて、学校行って戻ってきて穴をくぐって。
時間をかけにかけてキャラクリする事、計30時間。
時間をかけすぎ?いいや、これからずっと付き合って行きそうなキャラだよ?こだわらないと損でしょ。
それで出来たのは、身長最小・少しだけ膨らんだ胸・空色をした胸元に垂れる、ゆるい2つの三つ編み・髪と同色の大きい垂れ目に困り眉・真ん丸眼鏡の女の子。
折角の機会だもの、女の子になりきって遊んでみたいじゃん!
名前はゲームで良く使ってる、タカハ。名字の一部を抜き取っただけ。ボク自身に似た名前になるから、ほとんど違和感なく受け入れられる。
『次はステータス値の割り振りです』
そのアナウンスを受けて、出てきたのはBP。
『選び直す度に、6~60まで、ランダムで変化します』
「どっかのDRPGかよ!?」
思わず突っ込んでしまうボク。
「それ以前に、選び直すってキャラクリの苦労を繰り返すって事?」
そこに思い至ると、絶望した気分になる。
『BPの再抽選ボタンは、メニュー左上の隅にあります。ご活用下さい』
「親切設計ありがとうね!?」
ありがたいけど。ありがたいんだけどっ!なんで一度絶望させたのか、問い質したい!!
それから更に5時間かけてBP抽選を繰り返して、57ポイントとか言う奇跡を引き当て、タカハのステ振りとジョブ選択、その後の初期スキル選択も終わる。
スキルは3つまで選べて、棍術・鑑定・魔力感知。
ジョブにヒーラー。初期ジョブスキルで聖魔法。
ステータスは殴りヒーラー型。
ソロでやるなら、生存能力を考えないとね。
『選択したジョブですが、一定までジョブレベルを上げれば、ジョブスキルを維持したままこの場所で変更出来ます』
「つくった1体のキャラで遊び続けるゲームで垂涎の、万能キャラを育てられるって事か」
『キャラクターは人形使いスキルの成長で、最大6体創れるようになります。都合に合わせて使い分けて下さい』
「了解」
『キャラクターに死亡ロストは有りません。復活には貴方の世界で2日間を要しますので、注意して下さい』
「おお *いしのなか* に入っても大丈夫とか、なんて太っ腹」
『創り出したキャラクターをこの場所に……』
そこまでメッセージが出ると、ボクの近くでパイプベッドに寝かされた状態でキャラが現れた。
服は黒いワンピースにスキニーなジーパン。革の胸当てを着け胸元にロザリオっぽいネックレスが乗っていて、ベッドに警棒みたいな物が立てかかっている。
そしてもうひとつ。タカハが寝かされている物と同じベッド。
『空いているベッドに寝て、憑依を使って下さい。憑依すると今まで見えなかったダンジョンの入り口が、見られるようになります』
どうやらボクの為の物みたいだ。
『これでチュートリアルは終了です。これから挑むダンジョンを攻略して頂けますよう、どうかお願い申し上げます』
「やれるだけやってみるさ!」
空いているベッドに腰かけて、メニューを閉じr…………。
「明日からね!!」
今日はここまで!戻らないと、本気でヤバい時間だ!!
以降の展開は、最初のボスまでおっかなびっくり。
進んでいくと、キャラクリの間に機能や施設が徐々に追加されていって、色々便利になったり。
ボス戦で苦戦して、大怪我を負う痛みと恐怖を知って、心境の変化があったり。
途中で他のダンジョンアタックパーティーに遭遇して、助けられたり敵対したり、足を引っ張られてやっぱりソロが良い。とかなったり。
現実の生活に微妙な変化が起きて、ちょっと青春してみたり。
タカハでは越えられない要素が出て来て、新しいキャラを創ってクリアしたり。
和人が並列思考を出来るようになって、一度に複数まとめて憑依可能になって多キャラ同時操作をし始めたり。
現実の誰かさんも、実はダンジョンアタックしているのを、知ってしまったり。
操作ミスでキャラを死なせて、死を疑似体験して、しばらく立ち直れず逃げたり。
色々展開すると思いますが、そこまで書く気力が続かないと思いますので、プロローグだけとなります。