17.下水道探索 その2
さて扉の向こう側はやはりチカチカとした僅かな灯りで照らされているだけで視界が悪い。
水音がどこかしらからかピチョンピチョンと立てているけどそれ以外は静かなものである。
どうやら部屋の中の音では影響はないみたいだから問題なく進めそうだね。
私達はゆっくりと下水道の側道へと足を踏み入れた。
…とまあ先頭に立って進んでいるのだけど途中で二手に分かれられる場所があったのでもう片方の側道へ四人移動した。
お茶の介さんからルートを聞いておりこの先の進路で分かれ道が来てお互いに離れる事は無いのを確認済みである。
ゆっくりとゆっくりと音を立てないように真っ暗な下水道を進んでいく。
ライトは私が持っている一つしかない。
どちらの班にも見えるように万遍無く照らしながら進む。
しばらく進むと土管が前に見えてくる。
私はアンズに待てとハンドサインを送ると振り返ってお茶の介さんに向き直る。
私を見ているお茶の介さんの首は横に振られている。
…前回の巨大なミミズもどきの可能性が高い。
別のルートを進むためハンドサインで後退の指示を出す。
すると180度反転して列の順序も逆転させる。
事前に前の合流ルートまで戻るように伝えてある。
サカキさんと吸い殻さんが先頭なら問題なく戻れると思う。
無事戻り終わるとまた別のルートを策定してまた進んでいく。
当然音を立ててはいけないのでなるべく無言で黙々と慎重に歩を進める。
「なあ、ニミリさん。なんでヘルメットをかぶらないで手に持っているんだ?」
小声でお茶の介さんが話しかけてくる。
暇なのか緊張を紛らわせているのか。
けどばれない声量なら問題ないでしょう。
「今の所大丈夫だけど例えば光に寄ってくる敵とかいたらどう?それでなくても暗い所では光源に対して撃たれたりするからね。体から離して持っておくに越した事は無いんですよ」
「撃たれるって…」
…まずい言葉のチョイスを間違えたかもしれない。
「あっちの方でも警備員とか警察官は体から離して持ってるからそれも参考にしてね。それにFPSゲームだとそういった所に目標が確実にあるのだからまずは撃ったりしないかな?」
「俺はあんまりしないけど確かにそうかもしれないな。…確かにまだPKとかは実装されてないけど将来的にはそういうのもあるのかな?参考になったありがとな」
よし、ごまかせた。
私もそういったゲームした事ないんだけどね。
ごまかせたのなら何よりである。
時にまっすぐ、時にジグザグと下水道を進んで行くと大きいトンネルが見えてくる。
ここを真っすぐ行けば目的地のポイントである。
これで今日の私の仕事は終わりである。
そっとため息を吐くと横にいるアンズを見て、また正面を見据える。
…あれ?
アンズが何かハンドサインを送ってた?
慌ててアンズの方をもう一度見る。
灯りに照らされたアンズのハンドサインはというと…。
「空」、「音」?
私は停止サインを後ろに出すと灯りを正面に照らしながら耳を澄ませる。
…確かにブブブと不快な音が空に響き渡っている。
それも複数。
…私の方に近づいて来る?
灯りで照らされた空間には複数の…蚊?
…けど四十センチはある。
大きいね、それにあの数に血を吸われたらすぐにミイラになるね。
その蚊の群れの奥には蛹のようなでかい楕円形の三メートルはある物体が天井に張り付いている。
そいつはしきりに大きい蚊を吐き出し続けている。
「おいおい、あれはまずくないか?あの群れこっちにだけ来てるぞ?」
背中からお茶の介さんの声が聞こえてるけど実際にその通りである。
なぜか私の列にだけ向かって飛んできているのである。
音は立ててない、視認されるなら間違いなくアンズの方にも向かう。
じゃあ…。
視線の先には右手に掲げたヘルメットのライト。
そう言えば蚊とか蛾って光に誘き出されるはず…。
「これかな?」
もうスイッチでライトを消す時間も光を遮る時間も無い。
蚊の群れは目の前で来ている。
「てぃ」
それなら捨てるしかない。
私はヘルメットを掴んだ手を振りかぶりそのまま前の方へ放り投げる。
ヘルメットは放物線を描きながら光をあちこちへ撒き散らしながら飛んでいく。
その乱射する光を追って蚊の群れも進路を変えてヘルメットの方へ飛んでいく。
ヘルメットはそのままチャボンと音を立てて下水の水底へ沈んでいく。
そして蚊の群れは…音を立てて沈んだヘルメットに群がって行く。
水中にあるにも関わらず飛び込んでは口元にある細長い鋭い針でつつき、串刺しにして穴だらけにしてスクラップに変えていく。
それを見ていた私達は無言でその光景を眺めていた。
しかしその光景もバキンとライトが割れる音共にシャットダウンされる。
すぐさま真っ暗になり何も見えなくなる。
「おい、こんな真っ暗でどうや…」
「大きい声は出さないで。さっきと同じように反転して少し戻りますよ」
そう言うとまた180度反転して元来た道を戻って行く。
チカチカとした灯りで視界は悪いけど、黒一色の世界から脱出した事で一息つく。
「何だあの虫は?」
「はい、小声で喋ってくださいね?この辺りもまだゾンビが下水の底にいると思うからね?」
「…えーと、これからどうするんだ?」
要件だけを話して来たという事は理解できたという事でいいと思う。
さてとどうするかだよね?
私は逃げる原因となった後ろを振り返る。
まだ羽音はかすかに聞こえるけどこっちに近寄ってくる様子は無い。
灯りは一切無く真っ暗闇である。
多分あの羽虫共は周りの灯りも軒並み壊してしまっているせいかな?
この道は危険すぎて使えないね。
「お茶の介さん、この先は危なくて使えません。この先へ行く別ルートはありますか?」
「ああ、この先じゃなくて少し左から回り込めば遠回りになるけど行けるぞ」
「了解、そのルートで行きましょう」
アンズがこちらを見ているのでハンドサインで変更予定を伝える。
頷いた事から了承したのを確認して再び目的地へと向けて進み始めるのだった。
評価いただきありがとうございます。
現在コロナで娯楽が欠如していると思われますのでこれが一助になればと頑張って更新します。
…だが続きはまだ考えていない。