6.下水道の目覚め
アンズのハンドサインの内容を告げるとサカキさんが考えこむ。
「スキルにないのか…妙といえば妙な事だと思うが…。」
こちらでも考えこむ人が続出である。
しかし、進むか退くかしかなく調査に来ている以上は進むという方針になるよね?
それとも敢えて避けるのかな?
「けどスキルのレベルって1だったっすよね?完全じゃない可能性が高いんじゃないっすかね?」
その可能性も十分ある。
けど何か変なのよねこの土管。
穴は丸くて奥が見えない。
コンクリート質の外観であり、淵からはドロドロと水が流れている。
向こう側を見るとアンズも何か違和感を感じるのか土管を上へ下へと舐めまわすようにじっくりと観察している。
やがて我慢ができなかったのかブラックさんが隙間をぬって先頭へと移動する。
「とりあえず進むしかないんだから今回は俺が一番乗りさせてもらうぜ。考えてたって仕方ないだろ?」
それはごもっともな意見である。
そしてその意見をサカキさんも了承する。
「そうだな、今回はブラックが行きたいなら行ってもいいが…この先どうなってるかわからないから気をつけろよ?」
「おうさ。」
小声での相談が終わると二人とも土管に向かって歩いていく。
既にやる気満々なのかブラックさんは土管の淵に手を置いて登り終わっている。
向こう側と歩調を合わせなくていいのかな?
そう思い左を振り返るとアンズが慌てて手を振っている。
他の三人も引き越しである。
えーとよく見えないけどあれは待てって事だよね?
置いていかれるぐらいではアンズはあそこまであわてないよね…何か見落としてるのかな?
アンズのジェスチャーは…、口の下に線を引いて…口紅?、違う…流れてる?
それをヒントにもう一回土管を見る。
…下だから垂れてる、うん下水が流れてるだけだから問題な…?
あ、そういう事かな!?
「サカキさん、ブラックさんを戻らせてください。あそこはまずそうです、と言うよりもそれはまずそうです。」
「まずいってなんだ第一もう先へ進んで…。」
そう話していた最中である。
突如下水道の中に風が吹き荒れる。
いや、下水道で風がいきなり起こるなんてことは無い。
土管に空気が吸い込まれているのだ。
「お、おぉ!?うわぁーーー!」
先に土管を進んでいたブラックさんは土管の奥へと吸い込まれていく。
その後声が聞こえなくなると下水道に吹いていた風は止む。
どうやら土管が吸い込む風であったようだ。
風がやむと共に金属の刃が土管の淵全てに現れジャキンと閉じてしまう。
『Kuxoxoxoxo---!!!』
土管から奇声があがり薄暗い下水道全体をぐらぐらと揺らがす。
揺れるたびに土管が壁からめり上がり、土管の横の壁の中からは爬虫類のようなごつい腕が現れる。
ライトの灯りに映った腕は丸太ぐらいの太さで四本の鋭い爪が付いている。
腕は土管とくっついており、腕を振り回しながら壁から這い出ようとしているのである。
「な、なんだこれは…!?」
飛び出てきた土管は固形ではなくなっており、むしろ軟体…グネグネとよく曲がっている。
何というのかなロールプレイングゲームでよく出てくるワームとかいうミミズっぽいやつだ。
ただし今回は少なくとも手が二本…クロールのように回転させながら体を動かしている。
その手は土管とくっついておりどうやらミミズのようにくねくね移動するのではないらしい。
「全員逃げろぉ!」
サカキさんが叫ぶと共に全員後ろを振り向いて脱兎のごとく走り出す。
土管の化け物に注目しがちだけど下水からはゾンビが結構な数立ち上がり始めている。
そりゃああれだけ化け物が叫んで、地揺れを起こせばまあこうなりますよね。
立ち上がったばかりのゾンビを押し倒し、かき分け私達は一目散に逃げだす。
しばらくバシャバシャと走った所でふと不思議に思う。
あれ?あの土管の化け物が追ってこないね?
興味心からそっと後ろを振り返る。
すると土管は前足を器用に動かしながら…後ろ足を壁から這いずり出そうとしている。
全身埋まってたから出るまでに時間がかかってたのね。
そして…今からが本番であるという事かな?
土煙を上げながら土管の化け物…いやワームがこちらを向き…そして走り出す。
足を動かすたびに下水道全体を揺らし、口は大きく開きっぱなしのまま後ろから迫ってくる。
口の大きさは土管の時よりも遥かに拡張されており、およそ四メートル下水道の隙間が無いくらいびっしりと広がっている。
これは全部丸呑みにする気であり…逃げ場が無くまずいと思う。
意図的に途中のゾンビをまとめて蹴倒し障害物にしようとしたけどお構いなしに口に放り込みながら突き進んでくる。
しかも八メートルはありそうな巨体、早さが違いすぎる。
「ねえ、…次の打つ手はありますの?」
息を切らせながらいつの間にかジャバジャバと横を走っているアンズから愚問を聞かれる。
さっきのを見ていたはずのアンズはプランBを所望のようである。
そんな物あるわけないじゃん。
「さっき見た通りじゃないかな?ヘルメットも投げつけたけど止まらないし後一分以内に私達全員あれの腹の中じゃないかな?」
言葉で飾っても意味が無いので率直に応える。
段々と下水道の揺れと迫ってくる足音が大きく響いてくる。
もう丸呑みまでの時間はあまり残されていないだろうね。
この調子だとどうやら保守部屋にたどり着ける人は皆無で終わりかな?
いや待った?
「あ、もう一個だけ手段があったよ?」
「何々?ニミリすごいわね。もう打ち止めと思ってたわよ?」
それはそうだ手持ちの道具も無いのにぽんぽんと手段が増えますかっての。
だがしかし試してみる価値はあるかもしれない。
「うん、まずアンズがあのミミズのような化け物の口の中に飛び込む。そして中で暴れてみるのはどうかな?」
アンズが笑顔のまま頬だけ引きつらせている。
この時間が無い中で考えた中では上出来なアイデアに何か不満があるのかな?
「それは別にニミリがやってもいい事ですわよね?」
「私は腰を痛めていてできそうにないのでアンズに譲るよ。」
「普通に全速で走っている時点で嘘とわかりますわよね!?」
そんなぎゃあぎゃあと漫才を繰り返す私達を他の男性陣はあきれたように見ている。
まあこれは諦めてのやけくそのコントみたいなものなので許してほしいかな?
人間ベストを尽くしてもダメな時はダメなのだ。
下水道の壁が派手に壊れる音に加えて地鳴りが激しく背中に迫り、そして…
『残念ながらあなたはゲーム内で死亡しました。 規約に基づき十分間のログイン制限を実施します。』
予想にたがわず全員揃って奴のあるかわからない胃袋の中に納まったみたいだ。




