16.6日目終戦
後ろからガツンガツンと殴られる音の頻度が上がっており、無理やり扉がこじあけられつつあるが、今私達は小さな穴の方を注視している。
さて…穴の奥で何があったのやら?
背中から来る振動で視界は揺れているけどじっくりと見ていると穴の下を何かが動いて出てくるのがわかる。
…と言うかヘルメットが勝手にあるいてますよねこれ…。
さっきアンズが見つけたランプ付きのヘルメットのうちの一つで間違いないだろう。
じゃあ何で動いているか?
このゲームには二種類のタイプが存在している。
プレイヤーかそうでないかだ。
そう考えるならこれはプレイヤーではない。
よって…。
『Gixiii-----!!』
ヘルメットは地面を蹴り勢いよくこちら一直線に飛び跳ねてくる。
ヘルメットの後ろには細長い尻尾が付いており、これを叩きつけて飛んだのかな?
そして飛行するヘルメットの下には…丸い円状の口がありその中にノコギリのような歯がぎっしりと並んでいる。
そこまで来ると狙いなんて明らかだね。
私はさほど慌てるでもなく右手を振りかぶり、飛んでいるヘルメットをテーブルの足で横凪に叩き落す。
ガツンというプラスチック音と共にワズンさんの足元に落ちたヘルメットは…かぶる方を上にして落ちてギチギチと気持ち悪い動作を繰り返している。
多分ひっくり返って元の体勢に戻ろうとあがいているのだろうけど…そうは問屋が卸さない。
私は両手でテーブルの足を構えるとそのまま口の中央に上半身の体重をかけて突き立てる。
尖っているテーブルの足はヘルメットの下に潜んでいた化け物に突き刺さり、緑色の液体を噴出させる。
『Gi?Gi?Gixi?!』
じたばたと暴れるけどだんだんと動きが鈍くなっていく。
それではととどめとばかりに左足を持ち上げてテーブルの足の上に落とす。
いちかばちかでやってみたけど偶然にも的中し、テーブルの足はさらに化け物の口の奥へと穿っていく。
『Gi…』
やがて緑の血を撒き散らしてもがいていた化け物の動きも緩慢になり…停止する。
ふぅ…てこずらせてくれる。
まあこいつが出てきたってことはアンズはこいつにやられたってことかな?
…そして持ち帰れるものが一つ増えてしまったようだ。
私は横を見てすっかり腰が引けているワズンさんを見る。
最後の一仕事は彼にしかできないのだ、もう一回喝を入れる必要がありそうだね。
「ほらワズンさんおめでとう。仕事ができましたよ?」
「へ…?」
呆然としている…という事は難しい事は言わずやる事を明示してさっさとやらせた方がよさそうだ。
私は今仕留めた化け物が突き刺さっているテーブルの足と化け物の死骸を持ち上げワズンさんに手渡す。
引きつった顔をしているけどまあ強引に丸め込もう。
「ワズンさんは当然化け物を仕留めて持ち帰ったらポイントになるのは知ってますよね?やる事は簡単ですよ。それを持って穴に入って吸い殻さんにそれを投げ渡すだけですよ。わかったらさっさと移動ね!」
我ながらしらけるぐらいに力業で丸め込むとワズンさんはふらふらしながら立ち上がる。
そしてとうとう抑えきれなくなった扉が押し倒されゾンビの群れが室内に入ってくる。
…しまった。
道連れ用の武器使ってしまったんだった。
こっからどうしようかな?と考えていると
「あのニミリさんは?」
こちらを振り向いて聞いてくるけど、この状況で聞くかな?
人間としては合格だけどまあやる事をやれ…と言いたいけどここはオブラートに包むことにする。
「足折れてるから最初からハシゴ登るの無理だったからね。私の役割は最初から殿って決まってるのよ。ほら、それを無駄にしないようにさっさと行きなさい。」
「けどベストを尽くすなら…。」
ああ、どうしてこう男ってグッドエンド至上主義というかロマンチストが多いのだろうか?
私は深くため息をつくと一息にセリフを吐き出す。
「確かにベストは尽くすものだけどね、けど人間ベストを尽くしても駄目な時は駄目なのよ。失敗してもいいからさっさと行きなさい!」
その言葉を聞くと意を決したようにワズンさんも奥へと向かって歩を進める。
最後に振り向きざまに一言残して。
「わかりましたっす!姐さんもご武運を!」
私は手のひらをヒラヒラと振って奥へ消えていくワズンさんを見送る。
…今何か変な事言ってなかったかな?
まあいいか?
姿が見えなくなると踏ん切りをつけてすぐさま最後の時間稼ぎを開始する。
数の暴力に負けて扉はこじ開けられ、テーブルも数の圧力で強引にどかしながら部屋に侵入してくる。
ぶくぶく太ったどざえもんのゾンビたち…、予想以上に気持ち悪い…。
時間を稼ぐならまずは機動力を奪うしかない。
そうなると…。
「足を取って…こかす!」
最初に侵入してきたゾンビのぶよぶよした足を両手でつかみ…まずいうまくこけてくれない。
ならばどうするか?
仕方ないので進行方向に逆らうように体を移動してうつ伏せになる。
そのまま体重を足にかけて下へ下へと力をかける。
すると先頭のゾンビはバランスを崩して倒れ始める。
…私の方へ向かって。
「げ…!?」
ゾンビはそのまま私の上へ倒れこむと背骨に体重を全部かけてくる。
「げふぉ!?」
潰れたヒキガエルのような息を吐き出し肺が潰れたように息苦しくなる。
背中が重い…。
辛うじて顔を上にあげると倒れたゾンビの後ろから入って来たゾンビも…先に入ったゾンビにつまづいて倒れようとしている。
「いや、待った待った…。これドミノ的に次から次へと?」
そんなギャグ的な展開は無いだろうと思ったけど、どうやら私の最後はギャグだったようだ。
次のゾンビもバランスを崩して私の上に倒れ込み、さらにその後ろからものしかかられ…。
私はそのまま圧死した。
『残念ながらあなたはゲーム内で死亡しました。 規約に基づき十分間のログイン制限を実施します。』
機械的なメッセージがまた流れる。
おのれ覚悟はしていたけど化け物に食い殺されるのではなく潰されるのは予想外だった。
私はヘッドギアを頭から外すとそのまま居間に向かい冷蔵庫の扉を開ける。
キンキンに冷えたお茶をグラスに注ぎそのまま一気に飲み干す。
カァーー!と溜めた込んだものを吐き出すと気分は楽になる。
しまった、またゲームにのめり込みすぎて熱くなってしまっていた。
これは反省しなければいけない。
そう考えていたら母が居間に入ってくる。
「あら。今日はゲーム余裕をもってやめたのね。時間を守れたのは初めてね。」
「何を子供みたいに…。時間ぐらい守るわよ。」
母は苦笑しながらこちらを見てくる。
…信用無いね。
「まあ、終わったわけではなく一時休憩してるだけなんだけどね。」
「え…?」
母は不思議そうに首をかしげると壁にかかっているデジタル時計を指さす。
時刻は八時四十五分を表示している。
…って十五分しかない?!
ペナルティで後五分しかないから実質十分?
これはまずい…。
「大丈夫よね?」
念を押してくる母に対して私はコクコクとうなずくしかなかった。
ゲームにログインしなおすとマイルームへと移動する。
そのままコミュニティールームに扉からさっと移動すると一人を除いて全員揃っているのが確認できた。
上座に座っていたサカキさんが気づくと朗らかに笑いながら手を振ってくる。
「話は軽くは聞いたぞ。随分な冒険だったようだな。大体そろったし早速情報の整理を…。」
「すいませんその事なのですがこちらの都合で今日はこれ以上時間が取れないので私は失礼させていただきたいのですが?」
相手の話をシャットダウンして自分の伝えたい事をまくしたてる。
サカキさんはおやっとした顔をするとコンソールで時刻を確認している。
「もうこんな時間か…。わかったまた次にやるとしよう。明日は参加できるかな?」
「まあ大丈夫と思いますが。」
「それはよかった。では明日同じぐらいの時間に集合してほしい。皆も結構疲れたと思う。今日は解散して仕切り直そう。明日の集合場所は招待状のメッセージを入れておくからそこから参加してくれ。あぁ当然今日手に入れた情報は他言無用で頼むよ。」
「ワズンにも後で伝えておく。それじゃあ戻っていいぞお疲れさん。」
「ありがとうございます!」
そう言うと私はそそくさとマイルームに戻ろうとする。
そこへアンズが割り込みをかけてくる。
「ねえニミリ、私ヘルメットに頭かじられたのですが何か言う事はないですか?」
「中身を確認しなかったアンズが一番悪いでいいんじゃないかな?時間が無いからそういうのも明日ね。それじゃさいなら!」
時間は…後二分!?
私はマイルームに戻ると慌ててすぐさまログアウトした。
結果、私はゲーム三日目にしてようやく親に怒られずにゲームを終わらすことができたのだった。




