11.前準備
アンズの指さされた先にある排水溝、そこにはめ込まれている鉄格子は黒ずんで錆びついて汚れ切っているけどしっかりと拒絶を示すかのように閉じられている。
まあ封鎖された原因となる化け物の侵入口なんて金網を越えてか排水溝からかそれとも給水口か、プールを封鎖していることを考えるならば後半の二つという事になるのだろう。
「給水口もあったのだけれど下向きな上に細いから人間は入れないのではないかしら?」
次に指さされた先を見ると…なるほど、飛び込み台の横に丸い口が下に向けられている。
なるほど小型の化け物ぐらいしか通行できなさそうだ。
「とりあえず側へ行って確認してみるか?」
吸い殻さんの発言に反対するわけではないけどあまり行きたくなかったからアンズに押し付けたのがあるんだよね。
プールって水を抜いて掃除してないとほら…プールの底には見たままにあちこちに黒ずんだぶよぶよの物が付着している。
私も含めて水の抜けたプールの底に足をつける。
ぐにょっと変な物を踏んだ感触だけは背筋に冷っとするものが走るぐらい気持ち悪い物がある。
それでも一歩一歩踏み出していきながら鉄格子の前まで移動する。
「ここも鍵がかかってるっすよ?」
「そうだな。ごつい南京錠だな。…ところで聞くけどこいつもピッキングで開けれそうか?」
ふむふむ…ロッカーと違って鍵穴も狭いけど…まあなんとかなるでしょ?
ああ、両側同時に圧力かけながらだから二本使って…。
私は鍵穴を見てから目測でヘアピンを変形させガチャガチャと南京錠をいじり始める。
そして二分後…。
カチリという音と共に南京錠が外れた。
「本当に開けちまうんだな…。というかやけに早いな?」
吸い殻さんに言われて気付くけど確かに早い。
ダイヤル式より早いのではないだろうか?
大分前に羽山さんに仕込まれて使う機会なんか頻繁には無かったはずなのに体が覚えていたという事だろう。
外れた南京錠は重力に従い落下し…私の手のひらの上にのる。
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【南京錠】
シリンダー式の南京錠
タイプ「F8492」の鍵で開錠可能
重量:約?グラム
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これも取得アイテムのようだ。
鍵が無いから閉じる事しかできないだろうけど用途は色々とありそうだ。
さて鉄格子はというと、ワズンさんが早速、南京錠で閉じていたつっかえを外して開いていく。
キィンという鈍い金属音を出し、先が全く見えない暗い道が新たに出来上がる。
「ではここを進んでみるという事ですね?」
わくわくしながら発言するアンズを私と吸い殻さんは恨めし気に見る。
どうしてこんなにわくわくしてるんだこいつは?という意味で恐らく心中は一致している事だろう。
やがて吸い殻さんは溜息をつきながら話をまとめに入る。
「まあ進むしかないだろうな。あくまで調査が目的なわけだし時間がある以上は一度見てみるしかないだろう。」
…やはり行くらしい。
こんな暗い所を進まなければいけないとか…全く気が進まない、気が休まらない。
昔のRPGの勇者はよくもまあ暗い洞窟とかへ躊躇なく入ることができるものだ。
素直に感心する。
「では早速っすか?」
「いや、その前にだけど…ニミリさん。その両手にふさがってるアイテムは一度置いてきた方がいいんじゃないか?アイテムロストは怖いだろ?」
確かに両手いっぱいでは行動が不自由だし一度置いてきたいのはやまやまなのだが…。
「戻るといってもここはセーフエリアじゃないですよね?入口から戻るしかないわけですけどいざNPCと顔あわせをするとリスキーかなと思いまして。」
「確かに没収とか言われたら結局意味がないっすからね?一度少量で試してみるのはいかがっすか?」
なるほど一品だけにして実験するというのは悪くない考えだね。
それを採用しようかなと思っているとそこへ吸い殻さんがまったをかける。
「確かに興味深いが試してみて没収されるだけならまだましだが、モノジーみたいに不法侵入で拘束されるというリスクがある。そうなると時間を無駄にされかねない。まあそこでなんだが君達接触しているという事はフレンド登録済みだよな?それなら片方が戻ればいいという事になるし、手が無いということは無い。」
…ほうほう何かいいいい手があるのだろうか?
私達は吸い殻さんに連れられて一旦プールサイドに上がった。
移動した私はなぜかアンズを上に乗せ肩車している。
おかしいなぜこんな重労働をしているのだろうか?
「セーフエリアへは体全体が入っていなくても最低腕だけでも入っていればエスケープの操作は可能だ。だから金網の間、または柵の上から手を伸ばせば可能だよ。」
金網はまあ細くて腕が入らず指だけではコンソールが開けなかった。
そこで次善の策として柵の上の鉄条網の間から腕を出して操作させよとしているわけなのだけど…。
「アンズ、重いんだからさっさとコンソール出しなさいよ。」
「重いって言わないでよ!今やってますわよ!」
まあ何と言うか上で適度に暴れられているのでふらふらして中々うまくいってないのである。
しっかりと両ひざ抱えているので下が不安定なのが原因ではないはず…ないはずである。
じゃあ私が上になってやればいいんじゃないかって?
アンズが肩車の下の場合カエルのように潰れる姿しか予想できなかったのよね。
そして上の私はコンクリートに勢いよく顔をぶつけて…想像力が豊か過ぎるだろうか?
アンズの競泳水着の中にアイテムを詰め込んだ事は影響はない…はずだよね?
「あ、じゃあ男の俺が変わりに下になるのはどうっすか?フレンド登録して是非に…。」
…おやワズンさん、言いたい事は最後まで言い切った方がいいですよ。
そんなに顔を強張らせていないで思い切って。
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、何も!」
アンズの一言でとどめをさされたように氷像のように固まってしまう。
…ええい根性の無い。
しかしさっきのセクハラまがいの発言で気持ちが据わったのかアンズのコンソール操作はうまくいったようだ。
「あ、開きました。それでは一度戻ってまた来ますね。少し待っていてくださいね。」
そうアンズが言うとヒュンと肩の上から感触と重さが消えるのだった。
話が進まない。
淡々と進める能力がほしいです。