4.学校からの風景
「まあ、詳しくは現地で見て説明した方が早い。とにかくnormalワールドへ行ってみよう。」
接続時間も気にせず促されるままにやって参りましたnormalワールド。
ここもheavenワールドと同じように開始位置は学校のエリアであり床が水色に光っている事からセーフエリアと思われる。
heavenワールドと違うのは青空ではなく灰色の空。
違っている点と言えば…セーフエリアを囲うように鉄の壁がそびえ立っていることだろうか?
その壁向こうからは何かの大合唱が聞こえる。
…アンズさんや目をらんらんと輝かせるのはやめてください。
品性を疑われかねませんよ?
「まあ一目見ればわかるのですが…とりあえずあの防護柵の上に登ってみましょうか?」
サカキさんに促されて我ら八人は壁に備え付けられている階段を使って登って行く。
雰囲気を促すためか警察官や軍人のNPCが多数配置されている。
…銃奪えないかな?
まあ問題を起こすのは最後の手段だ。
促されるままにとりあえず防護柵の天辺にたどり着く。
天辺は城壁のように壁の上を歩けるようになっていて角には監視所のようなものが設置されている。
そして下を見下ろすと。
『u------------』
『a---------』
まあ道路が全く見えないぐらいに老若男女様々なゾンビがひしめいているではないですか。
なるほどこれは外に出れない。
出た途端袋叩きのごとくあっという間にやつらのお仲間入り…はこのゲームでは無いか。
即死間違いなしであろう。
「すっごいですねー!何を考えてこんな素敵な配置にしたのでしょうか?」
「あの運営のやる事だからわからないとしか言えないが…彼女やけにハイテンション過ぎないか?大丈夫か?」
大丈夫です、問題しかありません。
私はにやけて隙だらけになってるアンズの後頭部をペシっとはたくいてすぐに正気に戻す。
「壁周りはこの状態でね、どこか抜ける方法は無いか探すのが目標だ。」
なるほどからめ手を探すのがメインとなるわけですね。
この群れを誘引する方法、または別ルート、または別の移動手段になるのか?
そう考えていた私達の後ろから別の声が聞こえてくる。
「相変わらず裏技ばっかり探しているよな?サカキよ。」
「何の用だ?脳筋のモノジーさんよ?」
後ろから登って来た不躾なこの男、どうやらルームオーナーのお知り合いのようである。
「脳筋言うなし?俺はそこまで馬鹿じゃねえぞ?」
「未だに掲示板のあちこちにお前の名前入りで証拠が残ってるじゃねえか?」
「あっ、あれはだな!?」
「一部女性に大人気とかよかったじゃないか?」
「うるせえよ!」
まあ漫才はどこか別の所でやってほしいというのもあるけど何か面白い事でもしたのだろうか?
少し気にはなったけどそこまで話は進まず同じパーティーメンバーらしき方たちが登ってきて必死に制止している。
肩で息をしながらお互いに見つめ合うとどちらもいったんは落ち着いたのかようやく話が進み始める。
「相変わらず力業で突破を考えているのか?」
「おうよ。前回は十二人で最寄りの建物まで三分の一の距離まで行けたんだ。今日は五倍の五十人を用意した。これならいけるぜ。」
どうやらあのゾンビの群れに飛び込んで強引に突き進むらしい。
男らしいと言うべきか馬鹿というべきかアンズ好みの展開と言うべきか…。
そういやさっきの埋まったルームも五個だった。
ひょっとしてさきほどのメンバーかな?
「あのモノジーさん…突っ込みたくないんですけど集まったの六十人ですからね?」
「やかましいわ!なんか俺が算数できないみたいに言わないでくれ!…と言うわけでサカキよ、今から俺達の華々しい成功を見せてやるから楽しみにしてろよ!」
そう言うと次々と後ろにいた人たちを壁の上に並べていく。
当然のように全員武器は持っていないようだ。
外階段もついているにはついているが途中でバリケードが敷かれておりそこをまたいで降りていくことになるんだけど…。
あのモノジーって人なんで一列に並ばせてるんだろ?
「ねえニミリ、何で一列に並んでるの?最初は先制で打撃与えて数減らした方がよくない?」
「あるいは階段と別なのを使用して複数から行くとか陽動要員をわけるとか試行錯誤はできそうな気はするけど…?」
そんな私達の会話が聞こえたのだろうか?
モノジーさんがこちらを見てチッチと指を振る。
「いや戦力の分散は愚策だしこの多さだと数を一時的に減らしても解決にはならない。前回もズバーンと行って最初だけ調子が良かったがそこまでだった。そこでだ戦国時代の武将こと上杉謙信が用いた車椅子の法を用いることにする。」
…?
戦国時代に車椅子ありましたっけ?
戦い方の名前もそんなのではなかったような?
「かの御仁は同一地点に何度も何度も新手を繰り出し突撃させることで陣中突破の道を切り開いたらしい。それに倣って我々も次々と新手を繰り出して突破していくのだ!」
周りを見るとうちのパーティーメンバーどころかモノジーさんのパーティーメンバーも絶句している。
何だろうこの作戦成功する道筋が見えないんだけど?
「せめて一列はやめませんか?ある程度厚みは必要かと…。」
「まあとりあえずやってみてるぞ!一発成功するかもしれないしな!」
パーティーメンバーの言葉は強引に流し、自信満々にモノジーさんは指示をだしに戻って行く。
本来は放っておいて調査活動を始めるべきなんだけど…結果が気になって私達は誰も動けなくなってしまった。
ある意味恐ろしい才能である。
やがて準備が整ったのかモノジーさんの怒声が響き渡る。
「よーしEチームから一列になってどんどん降りて行け!前がやられたら後ろのがさらに前へ出て後へ続け!理論的にはこれを続ければ何人かは近くの建物にたどり着けるはずだ!」
前の方に並ばされていたEチームらしきプレイヤー達からとまどいやブーイングがモノジーさんに発せられる。
そりゃあ最初の人達完全に捨て駒ですって宣言されたようなものだからね?
しかし文句をを言おうが階段の中央で一列になっている以上プレイヤーの接触制限で上へ戻ることができない。
あるのは指示通りバリケードの上を乗り越え階段を降りていくか階段から落ちるぐらいである。
後ろから指示され続けたせいか先頭のプレイヤーがやけくそになってゾンビの海に向かって飛び掛かって行く。
最初は殴り蹴りで押し込んでいくがやはり物量の差もありすぐに掴まれて引きずり込まれ沈んでいく。
その沈んだ人の犠牲を無駄にしないよう後ろの人が続きまた同じ距離で同じ地点で地面に引き込まれ食事にされ光って消えていく。
…半分のプレイヤーがいなくなっただろうか?
進んだ距離はほんのわずかである。
それに対しモノジーさんは前線を鼓舞し続ける。
「さっきより二十センチは進んでいるぞ!押し込め!どんどん押し込め!精鋭のBチームが後に続く!行けるぞ!」
そして鼓舞の効果はあり先ほどより一メートルは進むことができたようだ。
しかし縦に伸びた分、横はがら空きである。
左右からゾンビに押しつぶされせっかく押し上げたプレイヤーは全てゾンビに食べられている。
なんと言いましたっけ?
挟んで消すというパズルゲーム、それのプレイヤーとゾンビ版を見ている感じである。
そしてBチームが半分消えて、とうとうモノジーさんが動き出す。
「あいつらの働きを無駄にするな!行くぞ!」
モノジーさんは自ら先頭に立ちAチームを引き連れて階段を駆け下りていく。
しかし繰り返される光景は全て同じであった。
新手が出た直後だけは優勢に進むけど少し時間がたつとすぐさまゾンビに捕まれ引きずり降ろされ消えていく。
モノジーさんも最後のBチームプレイヤーに噛みついていたゾンビを諸共に殴り飛ばし力任せに進んでいくが…やがてゾンビの群れの中に消えていく。
「まだだ!まだ終わらんぞーー!」
その叫びの後にゾンビの足元から光って泡のような粒子が出たことから多分お亡くなりになったのだろう。
やがてゾンビたちも何かに群れることなくそのまま通常通りの挙動不明なふらふらした彷徨いに戻って行く。
最後の光が発せられて残っている人が誰もいないとなると…合計六十名のプレイヤーが散って行ったようである。
振り返ってパーティーメンバーを見てみると…まあ苦笑している人、あきれている人、馬鹿笑いしている人、恍惚な愉悦に浸っている人とさまざまである。
…おっと恍惚な人はこのままではいけない。
私はアンズの頬を強めに引っ張り、正常な顔に戻すまで四苦八苦するのであった。
休みが…切実に欲しいです。




