3.ルーム『学校周り脱出調査部屋』
コンソールのスイッチを押すとマイルームの扉がヒュンとSF映画のように上にあがって開き別の空間と接続される。
開いた先はマイルームと違い金属質の壁があり中からは人の気配がする。
どうやらマイルームとコミュニティールームが直接接続する仕組みみたいだね。
顔をひょっこりと出して中を覗いてみると中央に長テーブルと複数のパイプ椅子が設置されており、男性プレイヤーが六名座っているのがわかる。
「やっと来たみたいだぜ?元から不人気なんだから条件もうちょいと緩和しておけば…っておんな!?」
仰け反っていた男性プレイヤーがこちらを確認するとパイプ椅子をひっくり返しそうになり持ちこたえる。
女性だと何か悪いのだろうか?
怪訝な顔をしてプレイヤー達を見るとその様子に気付いた奥の男が苦笑しながら答えてくれた。
「いや、すまないな。ここのルームは収穫があるかどうかもわからない不人気なうえに入室条件として「eazy」以上の生還者実績を取得しているで絞らせてもらっているんだ。それをまさかクリアしている女性プレイヤーがいると思わずびっくりしただけだ。」
「あ、そういうことですか?」
…アンズは生還者実績持ってなかったような?
オープン記念イベントの生還者実績があったからひっかからなかったのかな?
「まあとりあえず座ってくれ。そろそろ他のプレイヤーの時間の都合上待つのもいっぱいいっぱいだ。ここらで締め切るとするよ。」
そう言うと奥に座っていた男性プレイヤーはコンソールを操作している。
何か設定をいじっている物と思われる。
そしてひとしきり操作が終わるとこちらに顔を向けてくる。
「君達…アンズさんとニミリさんだね?このルームは初めてだろうから少し簡単に説明させていただくけどいいかな?」
私とアンズはこくりとうなずくと先を促す。
「このルームはnomalワールドのセーフエリアから出るための方法を調査することを目標としている。よってアイテムは持ち込む必要はないし義務もない。基本は分かれて一時間ぐらい調査して最後にこのルームに集まって情報交換を行って解散。情報の拡散と調査のさぼりだけはNGとさせてもらっている。何か質問はあるかな?」
アンズが手をあげている。
私もあるけどまあアンズの質問をまずは聞いてみよう。
「セーフエリアから出るためと言いましたけど出るのが難しいのでしょうか?それとも不可能なのでしょうか?」
「まあ一回だけ力技で行けそうになったことはあったんだが、それ抜きでは不可能と言うしかないな…ひょっとしたら君たちはnormalワールドへ行ったことが無いのか?」
私もアンズもコクリと肯定する。
その反応に奥の男は顔に手を当てる。
「あちゃーそうとなると先に現状把握からかな?」
「そうだねサカキさん。そうなると今回はどう分けます?三、三、二で男三人、女性二人の計三組で行きます?」
「それだと女性二人が何をするか困るとかになりかねないから案内をつけたいところだが…。」
「じゃあ男性一人女性二人っすか?」
「俺はハーレムパーティー構成など絶対に認めんからな!」
「サカキさんに同じく!じゃあ男性二人の女性一人?」
「同時に入ってきたところを見るとお二人さんお知り合いでしょ?それを割いて男性二人付けるのは、その下心が…。」
「本当にやましい事を考えつくのほど後ろめたいというか気が付くというのは本当だな…。」
「てめぇやるかこら!?」
…ワイワイ盛り上がって何か漫才して話が先に進んでないよね?
相変わらず進展がないのか男性の衣装はTシャツ短パンから一向に変わっていない。
その夏を先取りした格好も加味されて本当にガキの喧嘩を見ているようで見苦しい。
そんな私達の冷めた目に男達が気が付いたのかコホンとわざとらしく咳払いをする。
「では今回は男性四人と男性二人女性二人の二組に分かれて行動するとしよう。女性の二人が含む組はnormalワールドは初めてという事なので案内してもらいながら調査に加わってほしい。」
「まあ妥当なところかな?お二人さんもそれでいいかな?」
「ええ、構いませんよ?」
ようやく構成が決定してさあゲームに移ろうか…そういった流れは次の瞬間ぶった切られることになる。
「ではお二人と組むのは俺でいいよな?」
「ずるいぞ!俺だって女の子ときゃっきゃしたい!せっかくのパニック物なんだぞ!」
「調査にそんな要素はないぞ!だから清廉潔白であるルームオーナーであるこの私が…。」
「ルームオーナーなら真っ先に辞退すべき…。」
「水着をチョイスしている時点で相手も…。」
…下心も丸出しな会話に私達はすっかり取り残されてしまったようだね。
そんな事はさくっと決めてほしい物である。
横に座ってるアンズなんか目の下をヒクヒクいわせていらっしゃるじゃないですか。
そういう事は現実で努力しなさいよと突っ込みたい。
男達が言い争う事約五分。
激しく叩かれる机の音、立ち上がる際に吹き飛んで倒れるパイプ椅子、とどまらない怒声。
疲れ果てた男達の虚しい戦いの末どうやら組み合わせは決定したようだ。
「お見苦しい所をお見せしました。組み合わせは【サカキ、ブラック、お茶の介、シマムラ】の組と【吸い殻、ワズン、アンズ、ニミリ】で行こうと思いますがいいでしょうか?」
ここで拒否してまた漫才の再演を見るというのも心惹かれるものがあるけど、アンズの心証は私も含めて最悪になるだろう。
もったいないかなと思いつつも承諾をする。
「それでいいと思います。」
「ありがとうございます。なお取得したものについては各自持ち帰りで清算するような事はありません。ですが、あくまで調査が目的のためそちらをおろそかにしないようお願いします。」
「了解しました。」
「それで最後にお伺いしたいのですが…、どちらがアンズさんでどちらがニミリさんになりますでしょうか?」
…そう言えば全然聞かれていないし名乗ってもいなかったね。
ルームオーナーがコミュニティールームメニューの表示で名前を確認しただけだからどちらがどっちかわからなかったのかもね?
けどそう言うのは最初に聞いておいて欲しかったかなと思う。
私はアンズを指さして答える。
「彼女がニミリで私がアンズです。」
そのままイライラが募っていたアンズに突っ込みとは思えないぐらいに頭を強めにはたかれたのは自業自得だったのかもしれない。
無念ですが正月休みは本日で終わりになります。
期末に向けて忙しくなるため更新頻度は遅く・停滞することが予想されます。
ご了承ください。