12.お茶会の終わり
「もう、お父様も私が招待したのにいつも途中で呼び出して迷惑をかけて…。止めてるんだけど聞かなくて毎回付き合わせちゃってごめんね?」
「うん、大丈夫いつもの事だし気にしてないよ。」
私のお財布にもかなり優しい商談なのでむしろこちらがメインと言っても差し障りはない。
…こんな事はうっかりと公言はできないけど。
あの後乱入して来た杏子に連れ出されて今はお茶会の続きである。
近況であったり、大学の話であったりとまあ色々と話せば話すほど話題というのは後からどんどんと掘り返されてくるものであり和やかに続いている。
気が付けば朝に来訪したはずなのにもうそろそろお昼にさしかかろうとしている。
「ニミリ、今日はお昼こちらで用意しても大丈夫よね?」
「いや、そこまでお世話になるわけにはいかないでしょ?私はこのまま切り上げて帰る予定だけど?」
「せっかく来たんだから気にしなくていいのよ?」
優しく笑っているように見えるけど、私にはごまかせない。
顔の頬が一見さんにはわからない単位で若干引きつっている。
何か後ろめたいことがあるのは確定で、時間に関わるとなると…さっきの情報の裏付けにかまをかけさせてもらおうかな?
「そういや、外でヘリコプターの音したんだけど?あれ杏子の家の奴の音よね?誰か帰って来たの?」
「な、何の事かしら?」
声色までごまかせなくなってきたようである。
しかしそれよりも真実は他の人から暴露されることになる。
「奥様が戻られたのでしょうか?予定よりもかなり早いですね?」
杏子の後ろで待機していたメイドの伏木さんが首をかしげながら言葉を漏らす。
「それに奥様はお車で外出のはずで…」
言葉を続ける伏木さんを杏子はすごい恨めし気な目で睨んでいる。
そりゃもう隠したい事を暴露されたらこうもなっちゃうよね。
私としては羽山さんじゃなくこの人に変わってもらって本当に助かった。
さて裏付けは簡単に取れたし杏子がそのつもりなら私もそれなりの対応をしなければならない。
恨めし気な視線で伏木さんを睨んでいる杏子に私は言葉をかける。
「杏子…私を嵌めたね?」
自分の声とは思えない底冷えした雰囲気で話しかける。
慌てふためく杏子はこちらへ向き直ると引きつった笑みで回答してくる。
「ほほほ…。まあ嘘は言っていませんよ?お母様が今いないのは本当ですし、いつ帰ってくるか聞かなかったニミリの確認不足ですよ?」
「今日はいないと電話で聞いたような気がするけどね?最初から私も生贄にする気だったんでしょ?」
「お母様がね、久しぶりに私を着せ替え人形にしたいと言うのですよ?お母様の事ですからきっと丸一日は拘束されるのは目に見えているではないですか?それならニミリも一緒ならどうでしょうと提案したら半日…午後からで終わるというのですよ。」
なるほど、お友達を着せ替え人形として売ろうとしましたかこの人は。
私の中で方針は決定した。
後はタイミングだけだ。
「どちらにせよここから無事脱出するのはニミリには厳しいと思いますわ。友達を助けると思ってあきらめていただけないかしら?」
周囲に視線をやると杏子の後ろにはメイドの伏木さんが一人、けどこの人が知らなかったことを見るとこの事情を知っていたのはごく一部のはず。
ならば意思疎通ができていない点を突くのが一番かな?
「そうだね、さすがにこの屋敷の厳重さは知っているからね。」
そう言うと私は降参とでもいうように両手を天井にあげて頭に手をかける。
話がこじれそうだと思っていた伏木さんも私の所作を見て随分と油断してくれている。
杏子は…まだ疑心暗鬼かな?
長い付き合いだしまだ警戒は解いていないようだけどもう遅い!
「ではお祭りの開始といきましょうか?」
私は両手をサイドポニーにまとめあげている髪飾りのピンに手をかけ引っこ抜く。
ピーン
金属音が同時に二回鳴る。
そのすぐ後に私の二つの円形の髪飾りはテーブルの上にゴトンと落ちて転がる。
それを見た伏木さんは慌てたように動き出す。
「爆弾!?お嬢様!」
「あ、ニミリから目を離して…」
伏木さんはバッと杏子を押し倒して抱え込むように地面へ伏せる。
それを見届ける事もなく私は部屋の外へと駆け出して扉を閉める。
「ニミリのブラフです。早く追…」
パパーン!
杏子の声が聞こえたような気がしたけどそれ以上言葉を続けるのは難しいでしょうね。
ごめんね今回は単なるブラフじゃなくて胡椒を詰めてみました。
可愛らしい二種類のくしゃみを聞くとそのまま廊下を駆け出した。
とりあえず第一関門である杏子の部屋の脱出は完了である。
「お嬢様の部屋で物音がしませんでしたか?」
「すぐに向かいましょう!」
音を立てたおかげか杏子の部屋に使用人やメイドさんが集結している。
おかげで行き違う人は多いけど行く手を塞ごうとする人はほぼ皆無である。
呼び止められた時も
「お客様どちらに向かわれるのですか?」
「杏子の部屋で事態発生!杏子が呼んでいるので至急向かってください!」
こう返すとまあ馬鹿正直に向かってくれる。
お仕事に熱意があり大変結構であると言わざるをえない。
この隙に一階まで階段を駆け下りる。
そして玄関に向かって一直線に…とはいかないようだ。
「おや友里様、昼食の準備中のためもう少しお部屋でお待ちいただきたいのですが?」
使用人が二人、メイドが一人廊下を塞いでいる。
毎回のように騒ぎを起こしていればそりゃあ慣れている人もいるよね?
「急用ができましたので帰ろうと思っているところです。」
そう返すとお互いに苦笑して肩をすくめる。
「またいつもの奴ですね?申し訳ありませんが私達も雇われの身のためお嬢様に協力しますが…それにしてもいい加減他の使用人達も慣れてほしいものなのですが…教育が足りませんかね?」
「無駄話をして時間稼ぎをされるわけにもいきませんので私は失礼しますね?」
ここで時間を食うわけには行かないので私は窓から外へと飛び出す。
庭へ出た私は着地するとすぐに辺りを見回す。
そこで建物の側に置かれている私のカバンを見つける。
どうやら約束通りの場所に置いておいてくれたようである。
「友里様?外での駆けっこでは私達には勝てませんよ?おとなしく投降していただけないでしょうか?」
廊下からはそんな声が聞こえてくるけどそんな事は百も承知である。
私はカバンから折りたたみ自転車を取り出して組み立てる。
幸い組み立て自体はあっという間に完了した。
そして私はそのまま庭へ向けて自転車を走らせるのだった。




