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アンノウンディザスターオンライン  作者: レンフリー
3日目~5日目 ゲームをプレイしない日々
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11.杏子の父

「私の可愛い杏子へ群がる害虫(くそむし)が来ていると聞いた!杏子無事か!?」


相変わらずテンションが高く気迫あるダンディな偉丈夫。

間違いなく杏子の父親ですね。


視界を乱入者から正面に戻すと完全に怒っている杏子が目に入る。


「父様?私の来客中にノックもせずに部屋に入ってくるのは不作法ではありませんか?」


「そうは言っても羽山から連絡を受けたぞ?なんでも下種な輩が可愛い娘の貞操を狙っていると聞けば…って二味君じゃないか?」


ようやく私に気が付いたのか少しクールダウンされる…はずもなくさらに暴走を開始する。


「は!?という事は二味君が杏子の貞操を狙っているというのか!?いや確かに男性でなくてよかったと思うが女性同士というのはいかがなものだろうか…。」


「そういう事実は一切ございません!まあニミリならありかも?とは思いますけど。」


いや、そこは完全に否定してください。

私はそっちの気はありませんよ…無いはず。


「ウームそう考えると案外ありかもしれないな。」


「まあそれは置いておきまして、誤解はもう解けたはずですわね?そろそろお戻りになってはいかがでしょうか?」


杏子は必死に追い出そうとしているけど、杏子の父は一瞬こちらに視線を向けてくる。

私が右目を閉じる(あいずする)とそれを確認したのかすぐに視線を杏子の方に戻す。


「しかし先ほどの不審者の報告の事もあるし、杏子にそのような下心を抱かせる以上やはり取り調べが必要だな。ちょっと部屋まで来てもらおうか?」


「また、父様はそんな勝手な事を!毎回付き合わされるニミリの事も…。」


「いいですよ。それで誤解が解けるなら問題ありません。」


そう言って私は席を立つ。

私の言動に杏子はテーブルに突っ伏しずっこける。

お嬢様としてその所作はいかがなものであろうか?


「ニミリも毎回乗らなくていいのですわよ?どうせ父様の疑心が晴れることなどないのですから無視していただければ…。」


まあ毎回邪魔が入る上に迷惑をかけているように見えるのだ。

杏子もうんざりしているのだろう。


「よかろう!では着いて来たまえ!」


そう言うと部屋を悠々と退室して行く。

私もそそくさとその後をついていく。

一瞬視線を後ろにやると杏子はテーブルに突っ伏したままである。

過去について来そうなことはあったけど毎回丁重にお断りされているせいかもう待っているのが当たり前のようになっているのである。


「…まさか毎回いかがわしいことしているという事はありませんよねご主人様?」


伏木さんのこの一言に杏子の父はずっこける。


「せんわ!」


「そこは安心していいんじゃないかな?あの杏子の母がいるんですよ?疑わしきが発生した時点で吊るされてると思いますよ。」


「そうですわねそこは心配していませんわ。やった次の日には遺体(なきがら)になっているでしょうから。」


「いや流石にそこまでは…あいつならやりかねんな。安心せい。そろそろ行くぞ。」


そして私はいつも通り杏子の父の後を付いていくのだった。



相変わらず広い屋敷である。

ここまで徒歩およそ五分…こんなに広くて生活は面倒ではないのだろうか?

さて大きい扉を開けるとそこは書斎になっている。

部屋に入るとバタンを大きな音が鳴り、後ろではいろいろと電子音がピッピと鳴っている。


「よし、各種センサーは作動させた。これで誰か近寄れば事前にわかるはずだ。」


「下手に鍵をかけたりすると怪しまれるから仕方ないですね。」


杏子の父は書類が積まれた大きい木製のデスクの席に着くとこちらを正面に見据えてくる。

私も当然向かい側から向き合った状態で軽くにらみつける。


「さて覚悟はいいかな二味君?こちらはこれ以上とない物を用意しておいたよ?恐れおののくがよい。」


「ふん…軽くひねりつぶしますよ?」


さてと、ここからは戦争の時間だ。

十年にも渡るこの戦い、いい加減けりをつけたいものだ。


お互いに懐に手を入れ…スッと引き抜く。

あちらは茶色の封筒…こちらは水玉の可愛い封筒。

それをゆっくりとそっとお互いの前に置く。

手を放すとお互いの前に置かれた封筒を手に取り封を切り中身を取り出す。

そして中から出てきた写真を手に取りつぶさに拝見する。


「ふぉぉぉーー!?これは!?」


「ほぅ…なんと?」


若干正面の方がうるさいような気がするけど少し放っておこう。

写真に写っているのは穏やかな笑みを浮かべながらカップを手に取る杏子である。

お茶会の最中らしく上品な姿であり、斜め上から撮影したのか姿もよく映えている。


「素晴らしいですね。光加減も完璧ですし被写体が自然かつ優雅で美しい。」


「そうだろう!私の自信の一枚だよ。」


「…そう言えばあまり近づきすぎると杏子に察知されてませんでしたっけ?どうやってこれ撮ったのですか?」


「四階からぶら下がり望遠レンズを使ってね。何タイミングを逃さないことに関してはもう慣れっこだからな。」


恐ろしく変態的な行動力で撮影したものらしい。

けどそれに見合うだけの見事な一枚だねこれは。

私も深くうなずく。


「しかしだ、これはどうしたことだ?いつもの可憐で華やかな杏子とはまるで正反対、しかしながらこの穏やかさと幸せさの競演!これも正に至高!」


こちらも隠し玉を用意したのだ、これで反応が薄かったら正直へこんでいただろう。

こたつでどてらを着ながらよだれを垂らして寝落ちをしている杏子も撮影には苦労した。

起きるか起きないかぎりぎりのところまでカーテンを開けて日差しを入れて光加減もばっちりである。

そしてこの幸せそうなだらしない寝顔、まさに完璧なコントラストと言える。


…まあ原因はお泊りがしたいとわがままを言った杏子の自己責任なので私は全く悪くないよ?


両者共お互いの写真を並べ見比べる。

どちらが優れているとなると…正直判断がつかない。

自分のを推せたらいいのだけどそれにしては杏子の父の写真は見事すぎる。

それは相手も同じらしく二つを見比べうめき続けている。


やがて重々しい空気の中決断の時は訪れる。


「…この勝負引き分けだな。」


「今度こそ勝ったと思ったけどこれほどとはね。」


「いや決着がつかなくても当然かもしれんな。これは陽の究極と陰の至高というまさに対局に位置するものと私は考える。これに判定をつけることができるはずがない。いやできようか?」


「うーん確かにその通りかも…いや残念。」


どうやらまだこの戦争は続くようである。

次回持越しともいうが本当に残念である。


「で、この写真どうします?」


「…いつもと同じ値段で構わないかね?」


「多少色を付けてもらえれば嬉しいかな?」


「うーむ、あまり金の流れを変えると感づかれかねん。どうだろうここはこういう情報では…。」


その後も杏子の父との交渉は進む。

そして商談がまとまりつつある時にデスクの横からブーブーと警報音が鳴る。


「誰か来たな?成立でいいな?」


「問題なし。条件の履行はよろしくね。」


そう言うと杏子の父は写真を二枚とも書棚の隠し金庫に入れてロックしてしまう。

何という早業(はやわざ)…。


「…ちなみに元データも送付してくれると助かる。」


「…ロックをかけたいつもの共有フォルダに置いておくね。パスワードは前の奴に杏子の誕生日をハッシュ値とかければいいから。…では始めますか。」


商談は終わりまたデスクを挟んで杏子の父と向かい合う。


「お前のような奴に娘の貞操は渡さんぞ!」


「杏子を解き放て!彼女は人間だぞ!」


「いや、杏子を解き放ったら危ないからな!主に私達が!」


「それはそうだけど!」


こうして私達はこの場をごまかすための意味のない罵りあい(ちゃばん)を始めるのだった。

二日目はお休みです。

三日目はまた有明に行ってきます。

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