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アンノウンディザスターオンライン  作者: レンフリー
3日目~5日目 ゲームをプレイしない日々
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10.杏子のお部屋訪問


伏木さんを先頭に私達は三階の廊下をコツコツと進んでいく。

窓から見える風景は緑の芝生で覆われており…その先は金属製のフェンスが張られている。


…相も変わらずのどかさの中に物騒な物を仕込んでいるのは間違いないだろう。


やがて汚れの無い白い扉の前に立つと伏木さんがノックをする。

コンコンという乾いた木の音が鳴ると中から声が聞こえてくる。


「ニミリが到着したのですね?そのまま入ってもらって構いませんよ。」


そのまま伏木さんが一礼して扉を開ける。

すると中にいたのはお嬢様らしい装いに包んだキラキラした湯島杏子(おじょうさま)…ではなく、高校時代のだぶだぶのジャージに身を包んだ髪の毛もくせ毛が付きっぱなしの湯島杏子(だらだら)さんである。

まあ羽山さんに案内させていた時点で私にはある程度予想できていたから問題はない。

しかし伏木さんは顔を上げた途端に予想外の光景が広がっており引きつった顔をしているじゃないですか。


「お、お、お嬢様!お客人がいらっしゃってるのにその恰好はどういうことですか!?」


腹の底から放たれた伏木さんの叫び声が部屋の中に響き渡る。

その勢いにびくっと杏子がうろたえる。


「え、なんでです?今日の担当は爺やのはずでしょ?」


やはり羽目を外す気満々でしたか。

羽山さんは杏子には激甘だから目をこぼすので大抵おちゃめな事やらかすからね。

今日もそうだと思ったのが運の尽きだったね。


「羽山さんは急用ができて担当が変更になりました。それよりもです!その恰好はどういうことですか!?」


「えーとですねこれはですわね。」


「いえ、言い訳は無意味ですね。今すぐ着替えてもらいます!こちらの不手際で大変申し訳ありませんが二味様は部屋の外でお待ちいただいてよろしいでしょうか?」


まあなるとわかっていたので私はすぐさま了承する。

決して杏子をさっさと見捨てたわけではないよ?

そのまま部屋を出て音を立てないように扉を閉める。

まあ、いい物が見れたという事で私にも良き収穫となったことは大変喜ばしかった。




十分後…。


「お待たせしました。お嬢様の準備が整いましたので入室いただいて問題ありません。」


私も色々と周囲を観察して時間を潰していたので待たされたという感覚は無かった。

一礼して入室すると今度はきちんと品のある装いに身を包んだ杏子がふくれっ面をして席についていた。


「お嬢様…そのようなお顔は。」


「むぅ…それよりも伏木さんはお茶の準備をお願いします。ただでさえお待たせしてるのですから。」


「…かしこまりました。」


一礼すると伏木さんは部屋を後にする。

残ったのは不機嫌な杏子とにこやかに微笑んでいる私だけである。


「ニミリ…よくもはめてくれましたわね?」


「仕方ないんじゃないかな?私にも予想がつかない展開だったからね。羽山さんもそりゃあ優先順位変えますよ?」


「はぁ…私の運が無かったという事でしょうかね。」


困ったように頭を抱えてかぶりを振っているけど、何か変だね?

いつもならもっと噛みついて来るような…こちらの気が滅入るぐらいに恨み言をぶつけるような気がするけど?


「遅れましたけど、ニミリよくいらしてくださいました。ごゆるりとおくつろぎになってください。」


「くつろげるとは思えないけどおじゃましていますー。」


そんな軽口で言葉を交わしていると伏木さんがお茶とお菓子を乗せたワゴンを押してきて準備を始める。

部屋に設置された丸い白テーブルの上にお茶とお菓子を次々にセッティングしていき、手際の良さが際立つ。

やがて椅子が引かれると私と杏子はその椅子に座し対面する。


「まずはせっかく来たのですからお茶で舌を潤してくださいませ。」


「やっぱり高い茶葉使ってるの?」


「当家から見たら高いかどうかはわかりませんから気にしなくて大丈夫ですわよ?」


その言葉に私は紅茶を口元まで寄せるとカップに口をつけてそのまま離した。


「味の方はいかがです?」


「うーんよくわからないね。」


カップをそのまま元の位置に戻すと私は話を続ける。


「そう言えば聞きそびれてたけど私が熊にやられたあの後どうなったの?」


「あの後ですわね?ふとましい方はセーフエリアまでたどり着いた後助けに行こうか迷っていましたけどそれよりもニミリの頭がかち割られる方が早かったですね。当然無理して遺品の回収なんてせずにそのままエスケープさせていただきましたわ。ああ、荷物は私が預かってますので明日お渡ししますね。」


「そんな物より母の怒りゲージを下げるものが欲しいです…。」


「ふふふ…それは無理そうですわ。そう言えばニミリはあの時何をやったのですか?熊が一瞬にして骨になったようですけど?」


「ああ…あれね。何故か洗剤かけたら溶けて骨と皮だけになったのよ。」


「…何か弱点だったということでしょうか?」


「まあ記念イベントの資料にあった倒せる手段に洗剤が該当したんじゃないかな?確認しようがないけど。」


話しの合間に私はお茶菓子に手を伸ばそうとして…やっぱりやめる。

杏子の側に控えている伏木さんはその事に少し首をかしげている。

杏子は苦笑いしてこちらに話しかける。


「遠慮せずに食べていただいて問題ありませんよ?」


「それよりも気になったんだけど、門の前にいた人みたいなのってよくいるの?」


「門の前…?それが爺やがここにいない理由でしょうか?伏木さん何があったのかしら?」


「不届き者が出ただけにございます。既に滞りなく処理中のため問題は無いと思われます。」


「そう、それなら安心ね。ニミリにも迷惑かけたようですし厳重に…」


杏子が話をしているその時である。

廊下の方からドタドタと足音が近づいて来る。

杏子は完全にげっそりとした顔をしており、伏木さんもあきれたように顔をしかめている。

これはあの方がいらしたかな?


そしてノックされる事なく部屋の扉が勢いよくバーンと開け放たれるのだった。

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