28.閑話 記者から見たオープン記念イベントの風景 その3
---坂本視点-----------------------------------------------------------------
『ではドラゴンホースさんにZDチケットを使用していただきましょうか?このチケットこのメインイベント会場でしか使用できないよう設定しております。』
「えーお持ち帰りできないんすか?情報独占しようとしたのに残念っす。」
うそに決まってるじゃん、こんなに他プレイヤーに見せつけれる場を放棄するなんてもったいないっす。
いやぁー四時間も待ってた甲斐があったもんす。
『チケットの使用はコンソールに使用の「はい」「いいえ」が表示されますので「はい」を選択してくださいね。』
そんなの言われなくてもわかってるってVRMMOの常識じゃん?
まあこっからは俺っちの一人舞台だし文句は言わないのが大人ってもんすね。
「うぃーっす。じゃあ会場の皆さん、申し訳ないっすけど美味しい所は俺っちがいただいていきますね?ごめんねー。」
会場のあちこちからひがみのブーイングが殺到する。
ひがみをあげてないのは限定品から何が出るのかの期待っすかね?
どっちにしろ上に立たないと味わえないこの視線と優越感は本当にたまらないっすね。
さてと早速虹色に輝くチケットのコンソール画面を開いてみるっすか。
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【ZDチケット】
オープン記念イベントの各会場1枚限定の特殊チケット
使用することにより効果を発動する。
本アイテムの使用に際し、責任は他者に一切負わない事に同意したものとします。
使用しますか?
はい
いいえ
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当然、はいを押しますよねー。
さて、何が出るっすかめ?
特殊なアイテムっすかね?
莫大なゲームマネーかもっすね?
やっぱ他プレイヤーをぶっちぎれるような強力なものがいいっすね。
そんな期待に応えるが如く俺っちの頭上には大ボリュームのアイテムが降って来たのでした。
『残念ながらあなたはゲーム内で死亡しました。 規約に基づき十分間のログイン制限を実施します。』
---安藤視点-----------------------------------------------------------------
…あれ?
どうなったのでしょう?
チケットがまばゆく虹色に輝くと共に坂本さんがいなくなりました。
いえ、よく見ると赤い物が壇上に飛び散っている事から潰されたのでしょう…か?
では、何に?
と思って恐る恐る視線を上に向けていく。
坂本さんを踏み潰した物体…生物は…。
まず直接踏みつけている足…トラック並みの太さでずんぐりとしており、恐竜のように鱗で覆われた真っ赤な四本足ですね。
胴体はずんぐりとふとましく赤い毛皮で包まれている。
腕は六本、筋肉質で丸太のような太さであり、それぞれの腕に凶器を所持している。
下の二本で大型ダンプカーぐらいの物が先についているハンマーを所持しており…あ、電気でも流れてるのかハンマーの部分がバチバチ鳴ってますね。
中の二本はそれぞれに見たこともない銃を持っている。
左側は昔のガトリングみたいなもので銃口は戦車の主砲ぐらいはありそうで…右側は近未来の大砲のような…家ぐらいの大きさの穴が開いている大口径な物である。
上二本はレーザーブレードをそれぞれ装備しているみたい…何か効果音がものすごい鳴り響いている。
そして頭は三つあり、左がティラノサウルス?中央が山羊?右がイルカのようだ?
どれも怒っているような顔をしており非常に迫力がある。
そして全長は二十メートル付近はあるでしょうか?
あまりの事にプレイヤー達は呆然として何も発せず行動もしません。
私も呆けて観察していたぐらいです。
そして化け物は大砲のような武器をメイン会場の中央に向けて…発射しました。
バシュゥゥという効果音の後にメイン会場の中央部が爆発しました。
ビーム型の兵器か何かでしょうか?
まぶしくて目がくらんでしまいましてよく見えません。
さらに煙が舞っているのか咳き込んでしまいます。
そしてようやく目をこすりながらなんとか目を開けて状況を確認してみると…、
煙が上がっている中でたくさんの壊れたテーブルや血の付いた焦げ付きカバンがあちこちに飛び散っていることです。
…あれ?
攻撃されたという事でしょうか?
『FUGUOOOOO----!!!!』
三つ首の化け物が咆哮をあげます。
そして会場が混乱に包まれました。
何が起こったのかわからずに呆然と立ち尽くすプレイヤー。
運営に文句を言うプレイヤー。
とにかく逃げるプレイヤー。
大きく分けて三通りでしょうか?
私はと言うと化け物の迫力に負けて及び腰で後ろへと後ずさりしています。
そんな空気を割るように雰囲気にあわない陽気な運営のアナウンスが流れます。
『こちら「nightmare」以上用に開発中のボスであるサタン君です!いやぁーすごい迫力でしょう?憤怒をモチーフにしていろいろとデザインしてみました。皆様にお披露目する機会ができて本当に良かったと思います。』
「ふざけんなよ!第一イベント期間中は安全じゃなかったのかよ?!」
プレイヤーの怒声に運営のホログラムは首をかしげます。
そしてアナログ時計を大きくホログラム上に表示させます。
表示時刻は「20:52」です。
『案内では「20:30」までがイベント期間となっておりそれ以降はエキシビションとなっています、よって何の問題もありません。』
「ちょっと待て…」
『では引き続きサタン君とご歓談ください。あーちなみにZDは「残念」「でした」の略称になります。それではまたの機会にー。』
運営のホログラムが完全に消え、後には馬鹿でかい怪物…運営が言うサタン君が取り残される。
煙が晴れてきたイベント会場の中央部を見た所、残っているプレイヤーは一人もおらずあの能天気なコメントはきっと本気なのでしょう。
サタン君は咆哮をあげると壇上から踏み出し暴れ始めます。
ガトリングガンを斉射し始め、ハンマーで手当たり次第に地面を叩き潰し続けます。
轟音と共に地響きがとどまることなく続きそれに呼応するように悲鳴がやみません。
しかし時間がたつにつれプレイヤーの数が急速に減り取り残されるカバンの数が増えていくのはわかります。
まるで虐殺劇を見ているかのようです。
「ちょっと…こんなの聞いてない。」
私は後ろを振り返って…エレベータがちょうど何基か来ているのを確認しました。
とりあえずこの場から逃げないと!
そう思うと私は呆然としているプレイヤーをよけながら開いていた一基に飛び乗ります。
そしてそのまま閉めるボタンを押して一階のボタンを押します。
運良く誰も乗ってこずに開くボタンを押されなかったせいでしょうか?
ガチャンと扉が閉じるとそのままウィーンとエレベータはゆっくりと動き始めます。
「何で閉めたんだよ!まだ乗れるだろ?」
先に乗って尻もちをついている男性プレイヤーから文句をつけられます。
あわてて周囲を見回すと三人しかのっておらずエレベータの中はがら空きです。
でも出発してしまった以上後戻りはできません。
隣の方からはかすかに懸命に収容しようと頑張っている大声が聞こえます。
「早く乗れ!満員になり次第扉を閉めるぞ!」
「あと十人は乗れる待ってくれ!」
「わ、待つな早く閉め…」
グシャァーーン!
何かが大きく潰れる音共にかすかに聞こえていた大声は聞こえなくなり、私達が乗っているエレベータよりも先に地面に落下して砕ける音が連続して響き渡ります。
他のエレベータの末路を予想するとさっきまで文句を言っていた男性プレイヤーも私も引きつった顔になりそのまま無言になってしまいます。
私も腰が抜けてぺたんと地面に尻もちをついてしまいました。
「すまん悪かった。ナイス判断だったみたいだ。」
少し時間が経過したところで、力無く男性プレイヤーが謝罪してきます。
しかし、私としてはこのエレベータも本当に安心なのか落とされないのか不安になります。
「何にせよあの化け物から逃げきったんだからもう終わりでしょ。よかったよかった。」
言葉を一言も発していなかったもう一人の男性プレイヤーからの声を聞き、それもそうかと納得する。
そこまで意地の悪いゲームの運営もないでしょう?
あれだけでも十分に意地が悪いと言えるけどもう終わったことです。
今回の出来事はゲームの記事のためのいいネタになったという事で割り切ろう。
今を思えばあのサタン君とやらを撮影しておけばよかったな。
幾分か気持ちがリラックスして落ち着いたところでエレベータの表示ランプは一階を表示する。
そしてチーンという電子音と共に扉が開く。
「じゃあ悪いけどお先に。」
一言だけ発した男性プレイヤーが一人エレベータの外へ飛び出していく。
尻もちをついていた私達はショックだったのか出遅れてしまいました。
でも後はエントランスから抜けるだけである。
ここで少し遅れたぐらいで…。
そう考えていた直後に男性プレイヤーの悲鳴がエレベータの外から響き渡ります。
私はおっかなびっくりハイハイの状態でエレベータの入口から外をのぞきこみます。
すると先に出た男性プレイヤーが刃物で滅多刺しにされているのではないですか!
刺しているのは多数の女性型のロボットみたいなものであり、無機質に男性プレイヤーに視線を向けている。
そして電子的に男性プレイヤーが消えてしまうと今度はエレベータ内のこちらに視線を向けてくる。
…今を思えばここで扉を閉めていればまだ可能性はあったのかもしれない。
けど呆然としていた私達はそれをすることなくガチャガチャという迫ってくる音に悲鳴を上げて驚いて腰を抜かしてしまい、そのままエレベータ内にロボットの侵入を許してしまいました。
その後はお約束として例外無くロボット達に刃物で刺されます。
男性プレイヤーの方が大声をあげてわめいていた分ロボットの数が集中し、すぐに電子的に消えていってしまう。
私の方も腹を刺されておりもう長くはないですから五十歩百歩ですね。
というか痛いから一思いにやってほしかった。
けどただで死ぬのももったいない。
せめて画像の一枚ぐらい撮影してやろうとカバンからカメラを取り出し、ロボットたちに向けてシャッターを切る。
するとシャッターを切る音は鳴らずに、代わりにポンという破裂音が鳴りレンズから蛇のぬいぐるみが飛び出していくではないですか。
…え、どういうこと?
唖然とする私の眉間に刃が突き立てられ、そのままゲームとの接続は途切れました。
ただ、その直前に開いたアイテムのコンソール画面には…。
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【蛇さんカメラ】
撮影ボタンを押すとファインダーから可愛い蛇さんが飛び出します。
いたずらグッズとして最適
重量:2kg
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…前言は訂正しなければならない。
ここの運営は性根が腐りきっている。
そして翌週の「VRゲーム通信」の一番の人気記事が「特典チケットの踏まれ心地!」だったこともかなり遺憾である。
補足説明:撮影したとしても撮影媒体をエスケープエリアから持ち出さなければSS及び動画は取得できません。