23.オープン記念イベント -地下駐車場 その2-
『警告、これよりイベントマップ全エリアの緊急排煙を行います。風の流れが強く空気が薄くなるためプレイヤーの皆様はご注意ください。』
そこはお約束通りでなくてもよかったのに警告音声と共にけたたましい警報音がブーブーと垂れ流しだ。
こんなに馬鹿でかい警報音が流れてるとなるとこの部屋へ敵が寄ってくるの濃厚だろう。
私もカバンを肩にかけドアを出て他三人に合流しようと駆け出す。
…ん?
さっきの音声はイベントマップ全エリアとか言ってたっけ?
まあ私には関係ないことだしどうでもいっか。
ドアの外に出ると風が上へ吸い込まれるように流れていて足元がおぼつかなくかつ少し息苦しく感じる。
それでも効果があるのか煙も段々と晴れてきており、足元の様子が段々とクリアになってくる。
私も先に行っていた三人とも一緒に身をかがめて様子をうかがう。
煙がどんどんと天井に吸い出され、視界がクリアになった所に姿を現したのは…茶色いでかい動物でした。
「まさか熊だったとはね。」
「俺はワニと予想してたんやけど外れてたわ。」
「私は空を泳ぐサメかなと。」
アンズ、そんなサメはいな…いやここの運営ならそんなのも敵に用意していそうで怖い。
それでは煙が完全には晴れていないけど状況確認といきますか。
「アンズ、全体としてはどんな感じかな?」
「えーと、正面に二頭、左側に一頭。全部茶色の熊…熊だけど?」
アンズが首をかしげている。
熊なら走る速度は速いはず。
早めに手を打たないといけないのに不明瞭な状態になっている。
「アンズ落ち着いて見たままでいいので言葉にしちゃって。」
「えっとね、熊は多分ゾンビ。少なくとも正面の二頭は下が無いです。」
アンズの声を聞いて私も首をかしげる。
そしてプリペンもふとっちょも頭をあげて熊の様子を確認する。
確かに熊だけどこっちへ向かってくるのにクロールのように前の腕だけを動かしながら低姿勢で近づいて来る。
多分このせいで煙の下で見えなかったのだろう。
頭は…片目が無い。
口も裂けており不気味さが増している。
それでもって下は…、確かに下半身が無い。
内臓を上半身にぶら下げながら引きずっているようだ。
「ゲームでよういる這いずりゾンビやなくて這いずりグマというたとこか?」
それで間違いないと思う。
となると待ち伏せタイプの敵と考えるのが一番かな?
『Guooo---------!』
隠れている物も無くなったせいかクマ達がこちらに向けて雄たけびを上げる。
ふとっちょ君は尻もちついてびびってるし、アンズもプリペンさんも顔を引きつっている事から効果は抜群と言えるだろう。
山の中であったら私もそのまま死んだふりをしていたいところだ。
けど今はゲームなのでサクサクと勧めないとね。
「はーい、アンズ起きて起きて!」
とりあえずアンズを正気に戻すところから始める。
私はひきつった顔のアンズの頬を何度もビンタする。
数回たたかれるとアンズも目の色が元に戻り反応するようになる。
「ちょっと、ニミリ起きてるってば。」
よし、アンズは正常に戻ったね。
後は…まあなるようになるし面倒見る義理もないから知らない。
「相手は三頭!這いずっているせいで動きは遅いから、右の壁際を走り抜けてセーフエリアに向かうよ!走れ!」
私はアンズの手を取ってまずは右端に向けて走り出す。
プリペンさんも走り出した私達の後を小走りに追い始める。
ぽっちゃりくんも何とか追おうとしているのは見えた。
ちらりとクマ達の方にも視界を向ける。
私達の動きに合わせて頭を動かしているけど…動きはやはりとろい!
右端に到達するとそのままセーフエリアに向けて駆けだす。
「はぁはぁ…、ニミリ…全速力駆け足はつらいです。」
「このまま走り切れば勝ちだしがんばってね!このゲーム今後もこんなのばっかりだよ?」
アンズの抗議は却下だ。
セーフエリアまで残り二十メートル…いける!
そう思っていた私にアンズの悲痛な声が耳に響き渡る。
「ニミリ!後ろ!」
…後ろ?
まさか熊が追い付いてきた?
そう振り向いた私の目に映ったのは、空を飛ぶバイクであった。
バイクも敵だっけ?
しかしこちらへ回転しながら飛んできてるという事は…。
「あの熊、さてはバイク投げてきた?!」
足で追いつけないからといって飛び道具を使うとは卑怯な…。
私はとっさにアンズを頭から抱え込むそのまま床に身を投げ出す。
そして時間がたつと共にバイクのぶつかる音と苦痛な声が響き渡る。
けど衝撃に備えていたこちらには痛みはこない。
…はて?
身を起こして目をあけるとわき腹を抑えたプリペンさんがうずくまっている。
もしや…?
「まさかと思いますけど私達とバイクの間に体入れたんですか?」
私の問いに苦悶の顔を浮かべているプリペンさんは親指をぐっと突き上げる。
うん、だいぶ余裕がありそうだ。
「あほですかね?ゲームなんだから事故った人は見捨てて脱出すればよかったのに。」
「ひどいなお嬢さん。まあやりたいようにやっただけやし後悔はないで。」
ぽっちゃりくんも追い付いてきたようで心配そうにアンズと一緒にプリペンさんを取り囲んでいるけど、生憎私達は感動劇場をやっている時間は無い。
また何か物が飛んでくるとは限らない。
「あんたら俺置いてさっさとエスケープしときぃや。それで解決やで。」
あぁ…この人…。
こういう馬鹿は本当に困る。
私は溜息をついてカバンを開ける。
引っ張れそうな物は…靴ベラぐらいしかないかな?
プラスチック製だしまあ壊れないでしょ。
靴ベラを取り出しアンズとぽっちゃりくんへ靴ベラを二個ずつ投げ渡す。
渡された二人は何のことやらさっぱりという顔でこちらを向いている。
説明は必要だね。
「プレイヤーの直接接触はできないからプリペンさんを運ぶために間接的に引っ張る必要があります。さっき一緒にカバンを投げたことから間接的には接触できるはずなので靴ベラをプリペンさんが掴んで二人はそのままセーフエリアまでひきずってください。」
本当はプリペンさんのバールがあればそっちの方がよかったんだけどバイクにぶつかった時だろうか?
手元には無いし辺りにも無い。
探す時間がもったいない。
「それでニミリはどうするの?」
うーん二人に引きずらせて私は涼しい顔で冷やかしながらセーフエリアまで無駄話をする。
そうできたらいいんだけどねー。
「いやーあいつら引き付けないと安心して運べないでしょ?ちょっとダンス躍って来るね。あ、アンズ悪いけど私のカバン持って帰っておいて。」
アンズにカバンを渡すとそのまま私はクマたちの方へ歩き出す。
後ろで慌てているのは雰囲気でわかるけどさっさと行けと指示を出しもう振り返らない。
まったくあんな馬鹿やられたらこちらもやりたくなってしまうではないか。
熊達も近づいて来る私に気付いたのか投げる目標を私に切り替え、手に掴んだバイクや車のドアをこちらに投げつけてくる。
馬鹿正直に私を狙ってくれるので避けやすい。
放物線を描きながら飛んでくる飛来物を私は停車している車に身を隠しながらかわしていく。
飛んでくるたびに車が壊れ、ひしゃげていくけど私は無傷だ。
投げても効果が無いと判断したのか腕を交互に前に出しながらクマ達がこちらへ少しずつ迫ってくる。
まずい迫力がありすぎて怖い、身体がすくんでしまいそうになる。
私は頬を叩いて気合いを入れなおす。
「さぁて熊三頭は贅沢だけど…一緒に踊ってもらうからね?」




