21.オープン記念イベント -地下駐車場 その1-
非常階段を下りた先にある地下エリア。
こちらもぼんやりとした人工的な灯りがついており、中の様子はうっすらと確認できるみたいだ。
ゆっくりと音を立てないようにそっと扉から半分顔を出して中の様子を確認する。
ついたり消えたりする白い人工的な灯りに断続的に映し出されるのは多数の車とタイヤが見えないぐらいに蔓延している白い煙である。
そして煙が途切れた一番奥にある駐車場の下ろされた待機バーの向こう側には水色に光ったエリアが存在する。
あそこがセーフエリアという事だと思う。
小声で状況を相談する。
「さしずめ地下駐車場といったところやろか?しっかし目的地見えるのはええんやけど、結構距離あるな。」
「白い煙で足元が確認できないけどそこに何かいる可能性が…、いやひょっとしたらそれもブラフか…。」
「ニミリ、あそこ。車が一台壊れて血のりが付いてます。」
アンズの指さす方を見ると確かに車が一台だけボンネットが上から潰されたようにひしゃげており、その周囲に血のりが付いている。
「先行して逃げたプレイヤーがあそこでやられたのかもしれないね。煙が無ければ遺品のカバンが見えて確定かもしれないけど…今の段階だと推測だね。」
「相手の正体がわからんっちゅうのは厄介やな。」
小声であれこれと三人で相談してあーでもないこーでもないと計画を少しずつ立てていく。
そんな私達へ後ろから不意に大きい声が響き渡る。
「ちょっとぉ!何ぐずぐずしてんのよ!さっさと行きなさいよ!」
何のために小声で話しているのか全く理解できてないのかな?
確かまだPK機能は実装されてないとかだったっけ?
実装されてたら即座に処理できるのにといらいらしてた所で隣の男も腕を組んだまま隣の女性プレイヤーに同意する。
「確かに、ここで安全を確認すれば上の人達もここから避難できるようになる。早く行くべきだと思う。」
何度もうなずきながらこれが正解だと満足しきった顔をしている。
うん、ゲームだから許される所業かな?
許されるなら私もその面におもいっきり拳を叩きこみたい。
「あー、じゃあ先逝っていいで?止めへんからな?」
プリペンさんがどうぞどうぞと扉の先に案内するように手をかざす。
それに対して後ろの二人は驚きをあらわにする。
「一緒に行かないんですか?まとまって行動した方が安全だと思うのですが?」
とりあえず会話のボリューム落とせや、何に反応するかわからんのやぞ?
…しまった心の中にプリペンさんの言葉遣いが侵食されてしまった。
「ええ、私達はここで様子を見るのがいいと思っていますので貴方達の考えとは異なります。意見に相違がある以上は別行動が望ましいと思いますのでどうぞお先に進みください。」
アンズも丁寧に先を促している。
私も最初から扉の先を黙々と指さしてお前ら行けと表現しているので拒否しているのは伝わっているはずだ。
行きたい、あるいは先に行かせたいと思っていた二人は苦虫を潰したような顔をしている。
やがて女性プレイヤーがしびれを切らしたのかまたわめき始める。
「ねぇこんな臆病なの放っておいてさっさと行こうよー!」
「そ、そうだな。俺達は上のプレイヤー達の為にも進まなくちゃいけない。よし、行こう!」
そう言うと二人は堂々と地下エリアに入っていく。
中の様子を確認していなかったのか、腰の部分までかかる白い煙に最初だけびっくりして足を止めていたが、それでもおっかなびっくりずんずんと進んでいく。
「た…ただのこけおどしの煙だな。この程度でびびるわけないだろ!」
「だよねー!早く抜けちゃお!」
大声を立てながら足音も隠さず身も隠さないで無警戒に歩いていく。
…すごくいいエサだね。
団体行動にならなかったことを心より感謝したい。
やがてセーフエリアまで後半分といったところだろうか?
状況に変化が見られた。
「結局見掛け倒しだったよねぇー?」
「本当だな!なんともないじゃないか!?」
大声で会話を続けているのは変わらないが、男性のほうの足元の方でわずかに何かが動いた。
「まあ俺達と違ってあいつら弱虫だか…。」
その言葉は最後まで続くことは無かった。
足元で動いていた何かは風を切る大きい音を立てながら男性プレイヤーを通過する。
通過すると共に肉がさける音が鳴り響き、男性プレイヤーは真横へ吹き飛び駐車している車へ衝突し、そのままめりこみ消滅していく。
あっという間の出来事の後に残ったのはめり込んだ車に残った男性プレイヤーのカバンだけである。
女性プレイヤーの方は何が起こったか把握できていないようで吹き飛ぶ前の彼の方を見てきょろきょろしている。
「あれ…え、ちょとぉ…どこに行ったの?」
あたふたと慌て始めたけどもう…いや最初から遅かったのだろう。
女性も煙も下へすっとフェードアウトしてすぐに私達の視界から消えてしまった。
そして煙の下からはバリボリと何か肉と骨をかじる音が豪快に聞こえてくる。
「ちょ、やめ!食べないで!」
煙の下からは悲鳴が聞こえてくるけど次第に悲痛な叫びに代わり、最後は白い煙の中に電子的な光が舞った。
駐車場の中に頭を入れて覗いて見ていた私達は溜息をつく。
とりあえず私の所感としては…。
「だめだね、相手の正体が全くわからない。もうちょっと派手に公開して逝って欲しかったかな。」
「わりときついこと言うな。まあ煙の下に危険物がひそんでるのがわかっただけでもよしとせなあかんのちゃうか?」
このままだと方針としては車の上をぴょんぴょんと飛び跳ねて行くという危なっかしいものになりかねない。
それとも他に何か手はあるかなと考えていた私の肩にちょんちょんと指が置かれる。
アンズの方に顔を向けると駐車場の一角を指さしている。
「駐車場に入らないとわからなかったけど、入口のすぐ真横に何か部屋がありますよ。」
階段からしか見ていなかったから気づかなかった…いや視界に入らなかったけど確かにコントロールルームか駐車場の受付か詰所か、そういった部屋とドアがある。
部屋があるとわかるのはガラスで部屋の中が見えているためだ。
ガラス越しに見てみるとモニターのようなものがあるし今の状況で何か使えるものがあるかもしれない。
「どないすんのや?」
どうせ行き詰っているのだからここは思いきってしまっていいのかもしれない。
私はアンズとプリペンの方を振り向くとにっこりとほほ笑む。
「意図的にわざと正面だけしか見ていないと気付かないよというような位置にわざと配置してあることだし何かあるんじゃないかと私も思う、だったら制圧しましょ?」