20.オープン記念イベント -非常階段-
あーもう怖かった。
罵声浴びせられて蔑まれるように注目されて精神がごりごりすり減ってしまった。
ただでさえアンズにつきあって日々精神をすり減らしているのに…いやこれもその一環なのかな?
右手の手中には元NPCのお姉さんの頭部がある。
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【未確認機械の残骸】
未確認機械の残骸(頭部)
保存状態10%
重量未測定
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アイテム認識のコンソールが出てきたことからきっと総合研究所に納品できるのだろう。
ふむ。
頭部があれば問題ないな、よし君は今日から総合研究所送りだ、ゾンビの数を数える新しい仕事だぞ。
…あまりにも馬鹿らしいことを考えていたね。
さっさと次の行動を移さないといけないのに本当に我ながらお馬鹿すぎる。
「アンズ、拡声器貸して。」
「はい、どうぞ。」
アンズから手渡された拡声器のスイッチを入れて周囲に伝える。
「よろしい諸君!完璧な勝利だ!戦利品はどっさりと落ちているので回収し放題だ。もう持ち主も戻ってくることは無いので遠慮なく持っていこうではないか!」
事態が終わって冷静になったのだろう。
私のあおりに答えてプレイヤー達がどっと歓声をあげる。
もう遺品のカバンを開けて中身を回収しているちゃっかりとしているプレイヤーも既にいたけど、私の声を聞いた残りのプレイヤーも我先にと周りに落ちてるカバンに殺到する。
「さらに情報サイトを見ればわかる通りこういったエネミーを倒して持って帰ると新しいエリアへの進入権や貴重なポイントがもらえるよ。こちら三体しかないから早い者勝ちだよ!」
私が機械の頭部を掲げるとカバンをあさっていたプレイヤーやまだ固まっていた人形に殺到する。
うわぁ…ものすごい引っ張り合いだ。
大岡裁きがあれば間違いなく二人で引っ張り合っていたところにさらに二人乱入してきて四肢裂きになっていることだろう。
…いけない想像してたら気持ち悪くなってきた。
さて、私とアンズのすることは決まっている。
まずはプレイヤー達を煽ることには大成功した。
アンズの方を向いて非常階段の方を指さすと…無言でこちらにうなずき返す。
私達は地面に群がっているプレイヤー達をそろりそろりと避けながら非常階段に進んでいく。
これはうまくいったかな?
そう思った私はあさはかだった。
「ちょっと待ってくれ!君たちのおかげで助かった礼を言わせてくれ!」
礼なんていらないし、声が大きいよ!
こいつは確か私達が倒した人形に馬乗りにされて斬られる寸前だった男だったっけ?
注目を浴びたくないので静かにしてほしい。
私はあいまいな笑顔を浮かべてひらひらと手を振った。
よし、これで終わり。
さあ次へ行きましょうか。
「ちょっとぉ!せっかく彼がお礼を言ってるんだからちゃんと会話しなさいよぉ。」
横の女性がこちらのおざなりな対応に文句を言ってくる。
カップルでゲームでもしてるのかな?
…すごく面倒すぎる。
注目を集めたくないのにおのれ。
アンズもこちらを見てくるけど、非常階段の方を指さして回答する。
無視しようというこちらの意図は伝わったのかアンズは先に既に扉が開いている非常階段へ入っていく。
呼び止められた私も非常階段に入りそっと扉を閉じるのだった。
…で、解決したかと思うとそんなことはなかった。
「ちょっとぉ?扉閉めて逃げるとか何考えてんの?お礼言われたんだからちゃんと大したことじゃないと返答しなさいよ!」
しっかりとこの二人組も後から入って来たので私は溜息と共に扉を閉めなおした。
しかしなんで回答内容まで指定されなければいけないのだろうか?
解せぬ。
「すいませんそういうつもりじゃ…なんで謝ってるのこっちなのにお前はそんな強気なんだよ。少し落ち着けって。」
男の方はまだましだったみたい。
よくはないけど。
さて、ようやく非常階段まで移動できた。
ここは一階と地下エリアを繋ぐだけでのぼり階段はない。
無機質なコンクリートと煌々と白く光る灯りが寂しさをかもし出している。
「それで、お嬢さん。気になった点があるんやけど確認させてもろうていいか?」
いつの間にやらプリペンさんもちゃっかり非常階段へ移動している。
…そういや借りたもの返していない私のせいかもしれない。
まあここでの会話は問題ないと思う…多分。
「いいですよ。けど歩きながらになりますよ。後、拡声器ありがとうございました。」
拡声器をプリペンさんに返却する。
電池はアンズからの好意でそのまま入れっぱなしにしてある。
そのアンズは先行して様子を見ながら階段を下って行ってもらっている。
なんだかんだで異常なことへの察知は結構高いと個人的に思ってる。
「時間がもったいないつうてたけどなんかわけあったんか?」
アンズが階段の下からこちらを見上げて苦笑いしている。
さすが私の友である、上に置いてきたカカシ達のことも察しているのだろう。
「まあ急ぐ理由としてはあそこにとどまればとどまるほど危ないという事なのよ。プリペンさんはエントランスから少し離れた抽選会場行ったよね?」
「ああ、行ったで?なぜかコシヒカリが当たったけどな。」
お米か…タワシよりいいな。
うらやましい…ではなくて。
「あそこNPCのお姉さんどれぐらいいたっけ?」
「結構おったなぁ、種類が全部違って眼福やったわ。確か…。」
そこでプリペンさんの顔が陰る。
やっと気づいたかな。
「そうざっと見ただけで数十体は列整理やってたのよね。確かにあの先非常口から出られるとしてもエントランスと同じ状態になってると考えると…。」
「ああ、その数の暴力で襲われるわけか。でもメイン会場にほとんど人行ってるわけやから…そういうわけか。獲物いなくなったらエントランスにその数が殺到してくるわけか。」
「まあ恐らくとしか言えないけどそう言う事、だからあそこからなるべく早めに離れたかったのよね。」
アンズがこちらを見て困ったような顔をして首をかしげている。
あの顔は、あれそういう事だっけ?という顔だ。
…私何か見落としてるかな?
「そう言う事なら上の人達危ないじゃないですか!?すぐに知らせに行かないと!」
おぉ…なんという正義感。
私にはまぶしすぎる。
「うん、伝えてきてもいいよ?けどまだこちらも安全と決まったわけでもないよ?」
私の言葉に男性プレイヤーとその彼女がほうけた顔でこちらを見返してくる。
少しは自分で考えてほしい。
「運営がわざわざ用意したエリアに障害がないわけがないと考えるのが一番かな?悪いけど上のプレイヤー達には時間稼ぎになってもらおうかなって考えてるのよ。貴方たち二人がその中に加わるのはこちらとしては一向にかまわないよ?」
ひょっとして階段にも何かしかけがあるんじゃないかと私もアンズも割と注意深く階段を下りている。
プリペンさんですらきょろきょろと変なところはないかと確認しているぐらいだ。
暢気にしゃべってついてきているだけの彼らがうらやましい。
しばらく無言になって階段を下りていくと先行していたアンズが最後の階段の中腹でかがんでいるのを確認する。
階段の先は扉になっておりあの先が地下エリアという事だと思う。
私はアンズに確認のため声をかける。
「アンズ、気づいた点は?」
「そうですわね、地下エリアの扉も開いているという所でしょうか?」
やっぱりさっきのエントランスでの混乱の時に地下に逃げた人もいたのだろう。
そして成功したか失敗したかは…私達には関係ないことである。
「それと床から白い煙が漂っているところでしょうか?匂いはしないけど触れても問題はありませんでした。地下エリア内の視界は暗そうですね。」
事前に情報がもらえるだけで先に行ってくれた方には感謝しないといけない。
では脱出に向けて多分最後をがんばるとしますか。