17.オープン記念イベント -エントランス その3-
「ごめんねアンズ、せっかくのメインっぽいものをすっぽかさせちゃって。」
「いいのですよ、ニミリ。それは私も納得したうえでひきあげているのですから。」
私達は今下りエレベータの中である。
まさかイベント終了予定時間の後にメインを持ってくるとは。
どちらにせよ駄目であったのは変わらないけどこれだったらもう少し真面目にやっておくべきだった。
「それに最後は私に気を使って、わざわざいろいろと寄り道して回ってもらってますよね?」
…まあ、ぎりぎりなら親に怒られないかな…最悪十分ぐらいなら苦笑いで許してくれるかもという打算からの妥協を使用させてもらった。
不良品を掴まされてるかもしれないけどとりあえず物資量はお互いのカバンに七割は詰め込まれている感じだ。
「まあその通りなんだけど…、下心見透かされてるようで逆に恥ずかしいね。」
「ニミリとも長い付き合いなのですからそれぐらいはわかりますわよ。」
そんな日常会話をしながらもエレベータは下って行く。
チーンという電子音が鳴り響くと重たい扉が左右に開く。
「さて、早速で悪いけどさっさとログアウトをさせ…?」
エレベータから降りてエントランスに入った私達の目の前には人混みができていた。
はて、エントランスに人混みができるような出来事は無いように思うけど?
ひょっとしてどこかの同人即売会よろしく交換会をエントランスで始めたとか?
…上へ行けばいくらでも回収できるのにそれはないだろう。
「これだと通れないですよね?何があったのでしょうか?」
「せやで、何かトラブルが発生したっちゅう話や。」
横を振り向くとちゃらい男がこちらに笑顔を向けている。
確かここへ来た時に会った…?
「ペンペンさん?」
「ちゃうちゃう、俺の名前は…いやそっちの方がペンギンっぽくて可愛らしうて人気出たかもしれんな。これはまちごうたかもしれんな。」
思い出した。
そうそうプリペイドさんだ。
夜のお仕事をしてるっぽいいかにもお金にうるさそうな名前だったはず。
「それで何のトラブルかわかりますか?」
「ああ、見たほうが早いんやけどとりあえず入口が封鎖されてしもうたらしい。」
プリペイドさんが指さした方を見るとNPCのお姉さんにプレイヤーが食って掛かっている。
「なんで入口にシャッター降りて出れないんだよ!?こっちは帰りたいんだよ!」
『大変申し訳ありません。こちら機器の故障ではないかと思われます。現在原因究明中につき今しばらくお待ちください。なお、本当にお急ぎの場合はその旨を私達に申し出てください。強制エスケープ処理を受理します。その場合、手持ちの荷物は放棄していただくことになります。』
「ふざけたこと言ってないで早く何とかしなさいよ!」
まあ男性プレイヤーも女性プレイヤーも方々から罵声を浴びせている。
これがNPCじゃなく接客だったら…うん病んでしまうね。
接客業は私には無理かもしれない、将来の就職先の選択が一つ消えてしまったようだ。
「とまあそういうわけで入口から出られんちゅうことや。」
「強制ログアウトした人とかいるんですかね?」
「数人はしとったで?他の奴はもったいなさからかずっとあんな風にごねてるんや。まあ俺も仕事やから早めに切り上げようと思って来たらこの通りや。もう少し待って回復せんかったら俺も強制ログアウト頼もうかと考えてるわ。」
「夜のお仕事ですか…それはご苦労様です。」
さて、私もアイテムの放棄とかしたくないけど強制ログアウトしなきゃだめかもね。
そもそもNPCのお姉さんの位置まで近寄れるのかな?
誰しも前ばかり向いていてこちらを気にはしないだろうしかき分けて進むこともできなさそうだ。
「じゃあ、アンズ悪いけど私は強制ログアウトしてくるね。」
「おお、お嬢さんもするんか?じゃあ俺もついでにやっとくか。」
そう私とプリペイドさんが動き出そうとした時である。
フロアにピンポンパンポーンという電子音が鳴り放送が鳴り響く。
『ただいま時刻が20:30になりましたので連絡致します。繰り返します20:30になりましたので連絡致します。』
二回繰り返されると放送はぴたりと止んだ。
NPCのお姉さんに食って掛かていたプレイヤー達は復旧したのかと一時放送を静聴していたが、関係が無いとわかるとまた食い掛りを再会した。
なんか変だよね?
「ねえニミリ、今まで時間だけの放送なんてあったかしら?」
そうなのである、似たような物としてはメインイベントの呼びかけの時だったかな?
時間が来たからお知らせをして参加してもらう。
これへの必要性はわかる。
…じゃあ今回は何のためのお知らせ?
『時間になりましたので業務を次のシークエンスに移行します。』
NPCのお姉さんの口調が接客の口調から無機質なロボットのような口調に変わる。
これは何かわからないけどはめられてる…気がする!
「アンズ!念のためこっちへ!」
私はNPCのお姉さんから距離を取るようにアンズの手を強引に引っ張る。
そして次の瞬間、NPCのお姉さんに最も近い…食って掛かっていたプレイヤー達の頭が宙を舞ったのが目に入った。




