16.オープン記念イベント -6Fメイン会場 その5-
非常にマッシブなおじさん達と別れて私とアンズは人混みの中を進む。
目的地は中央のテーブル。
さすがに弾薬箱を抱えてナイフを抱えてとなると両手で持てるのはこの辺りが限界である。
アンズも入れ物が欲しいという事で合意を得て確保に向かっている。
そろそろすいているのではないかと他のプレイヤー達と時間をずらしてカバンの確保に向かったつもりだったけど私達の予想通りには行かずまだ人混みは解消していなかった。
まるでバーゲンセールのように取って掴んで引っ張りあうという地獄絵図が目の前で繰り広げられている。
少し時間をかけて場所を詰めていき、なんとか中央のテーブルの一角を確保して場所を取ることをできたが、アンズはカバンを手に取らずに首をかしげている。
「ねえ、ニミリ。カバンってどういうの選べばいいのでしょうか?」
「そりゃもう個人の趣味で…って、アンズはお嬢様らしい小さいカバン以外使わないか。わかった。」
とりあえず周囲を見回すとカバンを手に取って広げている人がいっぱいいるので例にしながら解説していく。
「まずは背負うタイプ、リュックサックや登山カバンや最初に配られたナップサックのような奴だね。背に背負うから大容量を持ち運びやすいという利点があるけど背中にあるから物が取り出しにくいというのが多分難点じゃないかなと思うね。これが一番ポピュラーでとりあえずこれ選んでおけばいいんじゃないかと思うよ。けど昔ながらの登山カバンはここではお勧めしないかな?」
ちょうどいい例があったのでアンズの視線を登山カバンを背負った男性プレイヤーに促す。
混雑をかき分けようとしているが横に広がったカバンの分体積を取ってしまい他プレイヤーと接触しないよう壁ができて進路が阻まれて全く思うように動けていないのである。
「容量は大きいんだけどその分プレイヤーと行き違いできなかったり、後ろの事に気が付けなかったりとデメリットも大きいと思うのよね。よって大きすぎるのは考え物かな?」
コクコクとアンズが頷いているので次の解説に行こうかな。
「次は肩にかけるタイプだね。ショルダーバッグと呼ばれるのかな?ボストンバッグや旅行鞄とかかな?」
「あ、これならわかります!大抵ゾンビ映画で逃げる時肩にかけながら銃を構えている時のカバンですよね?」
うきうきな笑顔でこちらに答える。
アンズはそういう覚え方をしているのか。
スクールバッグとかそういう…ああ、アンズはもう電子教科書だったから使ってないのかな?
「次に手提げタイプかな、提げ袋やビニール袋なんかはこちらに分類されるかな?けど手がふさがっちゃうからこちらは関係ないかもしれないね。後は首に下げる袋や腰につけるポーチがあるみたいだけどそこは小物みたいなものだと思うので好みに合わせて確保してね?」
「なるほど私はショルダーバッグで探してみますね。」
「最後にだけど…長く説明した後で申し訳ないけど調整によっては背負いタイプとしても肩にかけるタイプどちらにも使えるのが多いからね。それを探せば選択の問題は解決するよ。」
私の最後の一言にアンズがうなだれる。
「ねえニミリ、それ最初にそれを探せと言ってくれたらよかったのでは無いでしょうか?」
「ごめん、私も説明の途中で思い出したのよ。今回は悪意はないよ。」
ついでに思い出したことをアンズに伝えておこう。
ナイフや弾にも不良品を混ぜ込んできていたのだ、カバンにもあると確信して警告しておく。
「それとねアンズ。さっきの見てたからわかると思うけどカバンも善し悪し確認しておいたほうがいいよ。」
「善し悪しって…どういう風に見ればいいでしょうか?」
…正しいカバンの見かた?
日本の商品に不良品なんかそもそもほぼ存在しないので不良品の見分けなんかそういえば私もしたことがない。
「とりあえずカバン開いて裏向けて手を入れて広げてみたらいいと思うよ?後は底とか側面は叩いて強度確認すればとりあえずはいいんじゃないかな?確認が漏れるとああなっちゃうから注意してね。」
私の指さした方ではカバンに物を次から次へと詰め込んでいるが、入れた物がそのまま底から抜けていくというプレイヤーがちらほらと…いや割とたくさんいる。
これは油断してたら私達も同じようになりかねない。
どうせゲームオーバーになるとカバンもロストするのだ。
予備も含めていっぱいあったほうがいいので気合いを入れて多目に確保することにしよう。
私とアンズはしばしカバン探しに集中した。
数十分後…。
私のカバン探しは終わった。
穴開きやほつれがあるカバンの非常に多いため、とにかく選別すると時間がかかった。
一番大きいサイズのカバンに他のカバンや手持ちの荷物を全て放り込んだ結果が以下のとおりである。
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【スポーツバッグ(極大)】
黒革でできたスポーツバッグ
容量が大きく紐の調整で背負うことも肩にかけることも可能
中身:革のショルダーバッグ 2個
ナイロン製のリュックサック 3個
9ミリ弾の箱 2個
サバイバルナイフ 3個
重量:不明
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アンズには大きすぎると動きにくいと言ってしまったのに肩かけの大きいカバンを選んでしまった。
まあ、形はある程度押し込めるのでそこまで邪魔にはならないでしょう。
アンズの方もカバンを探し終わったようで、肩にカバンをかけている。
「では次は何を探しに行きます?」
「うーん、次は…」
と私達が考えこんでいると先ほどの挨拶と同じ運営からの音声が響いて来る。
『皆様ご歓談の最中に誠に申し訳ありません。ただいまオープンを記念した豪華な景品を準備しております。二十分後に配布しますので皆様楽しみにお待ちください。』
ほぅ…、限定という言葉に私は弱い。
何が出るのかゲームに興味が無くても気になって仕方ない。
「へー、豪華な景品だって。」
「物語だとここですごい特典もらって大活躍とかありますよね?ニミリも狙ってみます?」
そういうのって狙えるものなのだろうか?
配布というからには全員に配られるような気がするのだけど。
まあせっかくの特典だしもらえるように移動しようと提案をしようとしたその時だった。
頭に外部からの音声が流れ込んでくる。
≪こら、ゆり!もうお父さん帰って来たわよ。そろそろゲーム切り上げておきなさい。どうせすぐには終わらないんでしょ?≫
外部からの母の声にあわててシステム時刻を確認する。
20時15分…。
もうこんな時間だったんだ。
「ごめん、もう時間だからゲーム終わらせないと駄目みたい。」
「あら、もうそんな時間なんですね。わかりました。」
「アンズは私に合わせなくても、最後まで参加しててもいいんだよ?」
「確かに気にはなりますけど…、一人でプレイするのもあまり気乗りしないので私も終わることにします。」
うーん結局こちらの都合に付き合わせっぱなしになってしまった。
少し申し訳ないけど二日連続で約束破りは後が怖い。
「じゃあせっかくだしエレベータまで適当に詰め込んで帰りますか?」
「そうしましょうか。自分で選ぶよりひょっとすれば楽しいものが詰まっているかもしれないですしそれも面白そうですよね。」
私達は周りの喧騒は気にせずにわいわいと雑談しつつ途中のテーブルの物を適当に物色していく。
そしてそのまま下りのエレベータに揃って乗りこむのだった。