3.チュートリアル
『これよりアバターでの操作に切り替わります』
ふわっとした感覚と共に無機質な空間へと着地する。
鏡がないので顔は確認できないが下を向くといつもの私のよりも少し膨らんだ胸を強調する執事服が目に入る。
うん、アバターは上手く作成できてるみたいだね。
『ここはあなたのマイルームです。初期設定では四畳スペースが提供されます』
私の部屋より少し広いぐらいかな?
見渡すとドアみたいな物とその横にコンソールが設置されており、それ以外は何もない。
壁も床も天井もだけど先ほどのチュートリアルのように電子の波が表示されている。
「マイルームなのに何もないんですね?」
『マイルームに初期から設置されているのはマイルームの扉およびゲーム世界へのアクセスコンソールのみになります』
どうやら見たままの通りだ。
壁を触ってみると波紋のようなものが響くあたりきちんと仕切られているのはわかるが…これはあまりにも可愛げがない。
『マイルームに設置する物はゲーム中に取得、あるいは課金サービスを利用する事で取得可能です』
課金か…杏子に誘われただけなので今の所その予定はない。
長続きするとは思えないしそろそろ四周年のポータブルゲームの記念ガチャにも備えなければいけないし…。
『マイルームも拡張が可能です。こちらはゲームの実績解除または課金サービスによって可能です』
だから課金の予定はありませんってば…。
少ししつこいと思っている私の心の中をシステムが読み取れるはずもないためチュートリアルを淡々と続けられる。
『最初に専用コンソールの説明をさせていただきます。マイルームではログアウトとGMコール専用機能のため外部コンソールが表示されます。コンソールが表示されたらそのままボタンを押してください。ログアウトはマイルームでのみ使用可能です。ゲームを終了させたいときはこちらを選択ください。GMコールは迷惑行為等が発生した際に選択ください。GMが適時対応させていただきます』
私は他のゲームと同様にコンソールを表示させる。
表示されたコンソールには項目がログアウトとGMコールしかない…本当に簡素すぎる。
『次の段階へ進みます。マイルームで体を動かしてみてください。屈伸、伸脚、背伸び、飛んで、頭の回転、手の振り等、ゲーム操作に問題がないか確認をお願いします』
まるで朝の体操みたいなメニューだね。
とりあえずまずは体を一通り動かしてみる。
屈伸、伸脚と足もきちんと曲がるし伸びるし問題は無し。
背伸び…うん、手が上に伸びるしちゃんと背中と胸に張りが出るところもきちんとリアルである。
そして飛んだ時に私は驚愕した。
…胸が縦に揺れるですと!?
産まれてこの方ボリュームが小さくて揺れるなんて感覚初めてだった。
それが今ぽよんぽよんと揺れている
牛乳飲んでも大きくならないし揉んでも大きくならないし諦めていたこの感覚、私はいま猛烈に感動している。
私もうこれでゲームクリアでいいかもしれない。
…しまったまだ始まってすらいなかった。
ただでさえ晩御飯後という遅れがあるだ、これ以上は杏子の状態が怖くなる。
一通り動作を確認するとチュートリアルの音声が鳴り響く。
『体の動作に問題はないでしょうか?気分が悪い場合はログアウトまたはGMコールをご利用ください。体の動作に問題がある方はコンフィグから再度アバターの作成を行うことができます。なお、アバターの再作成はチュートリアル中にしか選択できませんのでご注意ください』
異常はあったけど問題はなかったので次へ進もう。
『次の段階へ進みます。このゲームは基本的な流れとしてオープンワールドでの探索、マイルームへの帰還の繰り返しになります』
…それはちょっと単調すぎないかな?
他に何かないものだろうか?
少しだけ確認させてもらおうと私はチュートリアルを遮る。
「ゲームではオープンワールドとマイルームしかないという事ですか?」
『許可が下りた他のプレイヤーのマイルームへは移動可能です。またイベント時のみ発生する特別フィールドは期間限定で移動可能です。他にも実績によって解放されるエリアや未実装項目としてミーティング用のコミッションルーム、オークションエリア、カジノエリア等が今後実装予定です』
なるほど訪れる人なんかいないでしょうしマイルームは基本放置で問題なさそうかな。
『チュートリアルを続けます。オープンワールドには様々な資源が配置されており、持ち帰ることができます』
ブンという電子音と共に私の足元にペットボトルが出現する。
私が手に取ろうとするとコンソールが表示される。
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【水入りのペットボトル】
500ml入りのペットボトルに水が入っている。
重量:約500グラム
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『取得可能な資源はこのようにコンソールが表示されます。コンソールの表示内容はプレイヤーが取得した情報やスキルによって変更されます。ではこれからスキルを試してみましょう』
ペットボトルの横に一冊の本が出現する。
こちらも手に取ろうとするとコンソールが表示される。
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【水道局配布の水質管理パンフレット】
二十世紀の水道局のパンフレット
水質基準の目安の参考にはなる。
取得可能スキル1:水質調査 Lv1
スキル1取得確率:100%
重量:不明
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『スキル書を手に取り使用してください。使用後はスキル取得系のアイテムはロストしますのでご注意ください』
手に取って使用ボタンを押すとパァーっと光パンフレットが消えていく。
…こういうのって使用したら消えるものだっけ?
本とか一度読むと消えるとかシュールすぎる。
『ではもう一度ペットボトルを確認してみてください』
私はもう一度ペットボトルに手を当てる。
またコンソールが表示される。
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【汚水入りのペットボトル】
500ml入りのペットボトルに泥水が入っている。
飲むと高確率でお腹を壊す。
重量:約500グラム
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こんな罠アイテムも設置されているのか。
…腹を壊すってVRMMOだとどういう表現になるんだろう?
少し興味深いので試してみたくなる。
『確認できましたか?次の段階へ…ってふたを開けて飲もうとしないでください!そこはチュートリアルには含まれていません』
気が付いたら私は飲もうとしていたようだ。
ゲームだから大丈夫だろうと思って気楽にしていたがよく考えたら泥水なんかおいしくないはずである。
止めてくれたチュートリアルには感謝したい。
『次の段階へ進みます。このようなアイテムを手に抱えて持って帰るというのは非効率です。また手がふさがるため咄嗟に反応できなくなります。そこで一般的にはカバンや袋を利用します』
ペットボトルが置いてあった場所にまたアイテムが出現する。
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【布のナップサック】
布でできたナップサック
容量は小さいが紐で調整可能なため背負うことも手に提げることも可能
中身:未確認
重量:不明
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なるほど運搬用のアイテムもあるということか。
運搬要素が重要ならば何気にこのゲームではトラックが最強なのかもしれない。
まあ乗り物があるかどうかはわからないけど。
私はナップサックを手に取ると先ほどのペットボトルを中に放り込む。
するとナップサックが以下のように変化した。
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【布のナップサック】
布でできたナップサック
容量は小さいが紐で調整可能なため背負うことも手に提げることも可能
中身:汚水入りのペットボトル 1個
重量:約500グラム
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『無事収納できたようですね。では入れたアイテムを取り出してください』
指示に従いナップサックを覗き込んで取り出そうとする。
そこでチュートリアルから待ったがかかる。
『はい、そこで停止してください』
覗き込んでサックの中しか見えないんだけど…。
いつまでこうさせられているのかな?
『持ち物の確認をしている時は視界はそちらへ集中してしまい周りの状況が確認できなくなります。では後ろを見てください』
覗き込むのを止めてゆっくりと後ろを振り向く。
そして私の顔の目の前には血染めのピエロがケタケタと笑いながら立っていた。
「ぎにゃぁぁ!?」
私は驚いてあたふたとバランスを崩して尻もちをつく。
何これ?!
めっちゃ心臓に悪いんだけど!
私が過呼吸になって落ち着くと、チュートリアルの続きが流れる。
『このような事になりかねないので持ち物を取り出したり整理するときは安全な場所ですることを推奨します』
説明が終わったのか割れる音と共にピエロが電子的に消えていった。
このゲームは趣味が悪いな…心臓に悪い人はここでショック死しかねないよ。
『気を取り直して次の段階へ進みます。オープンワールドではマイルームへ戻る方法は二つあります。一つはセーフエリアでコンソールのエスケープを押すことです。マイルームのログアウトがエスケープに差替えになっているため迷う事はないと思います。エスケープは床が薄い水色に光っているエリアで選択することが可能になります。もう一つはやられてしまったときですね、こちらは初期衣装アイテム以外全て遺品としてその場にロストしますのでご注意ください。また、デスペナルティとして十分間強制的にログアウトしていただきます。これはゲームの内容と健康への配慮のため一度リフレッシュしていただく必要があるためです』
あーこれが先ほどの説明になるのね。
先取りして時間を使わせてしまい少し申し訳なくなる。
『最後にですがオープンワールドへのアクセスはドアの横のコンソールよりアクセスします。試しに操作してみてください』
コンソールに触れると「ワールドアクセス」「ステータス確認」「マイルーム管理」「マイショップ管理」「オークション管理(未実装)」「ヘルプ」という項目が出る。
『「ワールドアクセス」から難易度を選択するとオープンワールドへ移動することができます。「ステータス確認」はスキル確認および容姿変更(課金サービス)が可能になります。スキル確認はここでしかできないため忘れないようお願いします。その他については「ヘルプ」を参照してください』
なるほどここを選択するとオープンワールドへ移動と…、はてこのドアの意味は何かあるのでしょうか?
一通りコンソールを操作して動作の確認を終えるとチュートリアルが締めくくりに入る。
『当、アンノウンディザスターオンラインでは「heaven」「veryeazy」「eazy」「normal」「hard」「veryhard」「nightmare」「hell」の八種類の難易度のオープンワールドを用意しています。上の難易度になるほどよりスリリングに、また下の難易度にはない要素が盛り込まれていますので是非チャレンジしてみてください』
うーんまずは難易度が一番低い「heaven」からかな?
まずは杏子と合流してからだね。
やはりゲームの始まりだけあって少しだけワクワクしてくる。
『尚、「nightmare」「hell」については今後実装予定になります。この二つの難易度では直接PKが可能になりよりエキサイティングになる予定です。ご期待ください。以上でチュートリアルを終了致します』
…そういうのは実装してから難易度が八種類あるという宣伝文句にすべきじゃないかな?
出社前に駆け込みで投稿
帰宅後にもう一度見直そうそうしよう。