12.最前の補給エリア
結果的には…彼等は彼等、私達は私達。
ただ計画通りに作業をしてくれるのであれば私としては口を出す事は控えたいスタンスは変わらない。
よって全てはマキちゃんの責任であり、丸投げにしておけばいいと結論を出す。
だったら私達は…当初の予定通り観光だね。
補給エリアに何があるか直接確認をして必要そうな物を独自に確保しておかないと。
「じゃあ私達も補給エリアに行ってくるから作業は勝手に進めちゃっていいよ」
「了解しやした!あっちで会長に会ったらよろしく伝えてください。あ、そこのお姉さん」
『これ以上何…?まさか基地の破壊を中止してくれるとでもいうの?』
彼は私との話が終わりと判断すると、トボトボと死んだ目をしていた歩いていた基地司令のサポートユニットに声をかけていた。
まあイベント内容については彼等も読んでいるはずだし滅多なことは無いでしょ?
そう判断すると私達3人は後の事は気にせず補給エリアに転送する事にした。
「いえ、今あなたが向かっている中央の倉庫も取り壊す予定なので端の倉庫にしてください」
『ふ…ふぇぇーーん!』
だから、予想よりもさらに基地が壊されると知ったサポートユニットが座り込んで号泣していたのは…私は知らないし知る必要も無かった。
「おい、こっちに用があんだ!あ、こら割り込むな!」
「けちけちするんじゃねえよ!つうかそこどけ!」
「道塞がないでよ!邪魔よ邪魔!」
補給エリアに転送されると…人混みと怒声が自然と目と耳に入ってくる。
恐らくプレイヤー同士の接触ができないからこんなに滅茶苦茶な混雑になってるんだと思うけど…これはできれば解消して欲しいな運営さん?
…いやいやこれは予想外だよ?
一番危険な場所だからここには人がそれほど多くならないだろうと思っていたんだけど、どうやらそれ以上に物欲に取りつかれた人が多くいたみたいだね。
さて、こうなってしまうとこれは迂闊に動けない…というか正面と左手はもう駄目だね。
右手は何とか移動できそうだけど、何があるかわからないし行って戻ってこれなくなったらそれが一番困る。
どうしようかと悩んでいると…
「ニミリ~。こっちにサプライエリアのマップがありますよ?」
ウメの声がする方に振り向くと大きな立て看板がある。
事前にどこに何があるかわかった方が計画が立てれるし…いいもの見つけてくれたね。
私とアンズはそれに気づき近寄るとゆっくりと眺める。
まず混んでいる方角…左手は銃火器、軍用品といったものがメインに設置されているみたいだね。
ちなみに戦車やジープ、ヘリ等の軍用の乗り物もここに集まっているらしい。
なるほどここに人が殺到するのは納得できる。
では正面はどうなのかというとこちらは2段構成になっているらしく、手前側はこのゲームに置いての便利なグッズや電化製品がメインで設置されているらしい。
便利なグッズとしては書店が設置されているらしいけど…そういえばサカキさんが確かスキルを修得するための本をイベントの景品として交換したと聞いたような気がする。
だとしたらそこにはスキルを修得できたりするような便利な物がたくさん置かれているのかもしれない。
電化製品は一見需要が低そうだけど、ドローンや防犯グッズ等有用そうな画像が並べられているため…これを目当てに人がなだれ込んだ可能性がある。
さらに正面奥にはイベントスペースのような場所があり、そこには補給エリアの目玉商品が設置されるらしい。
こちらは随時更新されるらしく…後になればなるほどいい物が設置されると書かれている。
間違いなく…正面はこれのせいで混雑を起こしていると思う。
こんな所に突っ込んだら、仮に幸運にも物が確保できたとしても…帰ってこれなくなってしまって今日の時間を全て棒に振りかねない。
右手は…資材・工材・日用品を取り扱っているらしく軍用に属さない一般的な乗り物もこちらに配置されると書かれている。
多分マキちゃん達は目的からしてこっちに向かっているはずだから私達が行ってもあまり意味は無いかもしれない。
ちなみに入口であるここは屋台や飲食店などの食料品を取り扱うものがびっしりと両側に所狭しと出店している。
まさかイベントの準備段階でこんな所を利用する人は…と思って見てみたけどちらほらといるみたい。
屋台ではなく飲食店のテーブルを確保して…食べながらあれこれ相談している人の姿がガラス越しに確認できる。
「ふ…こんな所でまだ計画を立てているなんて、事前の準備が足りない証拠ですわ」
アンズ…恰好つけて言うのはいいけど、今回は全部私に丸投げしたよね?
計画すら立ててない人が言っていいセリフじゃないんじゃないかな?
…それに私達も物見遊山の気分でとりあえず来ただけだから彼等と余り状況は変わらないと思うよ?
予想外の事態でこれからどうしようか判断ができず、こんな事を考えていると持ってきていた無線機からザザザと雑音が入ってくる。
ちょうどやる事に困って手を付けられずにいたのでこれ幸いと手に取って応答する事にした。
「はい、どちら様?」
「蒔…じゃなくマキ。ニミリは今どこにいる?」
「今補給エリアの入口だけど…人が多くて面食らってる所。どうにかしたいけどこれはどうしようもないから困ってる」
「おー…じゃあ今は手が空いてる感じ?悪いけどそっちに車を運転できるの何人いる?できるならトラックとか運転できたたらありがたいんだけど?」
私はできるとして…運転させたくない人が一人とこっちの国での免許は無いけど軍用ヘリですら操縦できる人が一人だからまあ大丈夫でしょ?
「とりあえず三人共いけるけどどうしたの?」
「予定が無かったら悪いんだけどさ、先に返した三人に資材運んで欲しいの。そうしたら今日の分あっちの作業も更に進むからさ」
「そういう事ね、わかった。入って右の方にいるんだよね?」
「うんうん、そこからさらに右手…の方で作業始めちゃってるから、トラックも確保させとくね」
とりあえずはやる事が決まってほっとする。
ここでアンズが馬鹿な事を言い出してあの人混みに突貫しようなんて…言わないとは思うけど言い出した日には地獄だからね。
ベストではないけどベターな方向に落ち着けそうでよかった。
「わかった。今からそっちに向かうね」
「こっちが予定外の事始めちゃったせいで手伝わせちゃってごめんね。それとなんだけど…こっちも人が増えてきたから来るんなら早くした方がいいかも?」
マキがそう言い終わると無線機の通信が切れた。
行動が決まったので後はやるだけ…と思っていたんだけどこの時の私は迂闊だった事にすぐに気づいた。
周囲でも同じように立ち往生している人がいるのにそこへ聞こえるように話をしてしまい…情報を垂れ流して注目を浴びている事に。