8【閑話】イベント開始を見守る運営
イベント開始後の運営視点となります。
未来軸の話となりますがここで挟んでおきたいと思います。
「課長…襲撃イベント開始の時間です。予定通り第一波の投入を開始します」
「うん、予定通り進めてくれたまえ…負荷の方は問題ないですか?」
「問題ありません。許容内でラグも発生していません」
「そりゃあ十分にテストを重ねたからねえ。君達も十分にやってくれたし問題無いと信じていたよ」
帰ってくる答えに二課の課長は満足気に頷きながら眼鏡の位置を正す。
実は初めて動かす時間の倍速システムであり、規模もこれまでにないほど大きく内心はドキドキと怯えていたのだがそんな事はおくびにも出さない。
正直な所、会議で他の課の尻拭いのお鉢が回ってきた時はジャーマンスープレックスでもかましてやろうかと内心いらだっていたが、その感情も辛うじて紳士的に抑え込んだ。
それがよかったのかは定かではないが、他の課の積極的な協力を得る事はできて何とかイベント開始にこぎつける事ができた…が!
元々はお前等の設定ミスが原因だからな?
だがそれを自覚し協力的な態度だったのはまあぎりぎり許せる範囲だろうと何とか怒りを抑え込み続けていた。
…過去の事で怒り続けても仕方ない、まずはイベントが無事開始できたことを喜ぼうと課長は頭を切り替える。
「第一波、一万のポップ完了しました」
そんな風に内心葛藤していると第一波のポップがどうやら完了したようだ。
第一波は一番ポップ数が多いが、内容は大したことが無く軽いジャブみたいなものだしまあお祭り騒ぎをプレイヤーの皆様に楽しんでいただけるでしょうと考え、課長は次の指示を課員に飛ばす。
「一番画像映えしますのでこの部分の録画をお願いします」
「わかってますよ課長…って一部交戦が開始されました」
「は?」
いやいやプレイヤーの基地までだいぶ距離がありますし、そもそも基地エリア以前に補給エリアにも到達する時間でもない…流石に見間違いじゃないですかと課長は考えるがそれも次の報告で否定される。
「これって来るまで待てずに前に出て来たみたいです。だいぶ全力で撃っていますけど…このペースで撃って弾が足りるのでしょうか?」
「足りんだろうな…何考えてるんだ?」
課員の言う通り…第一波は見せかけのよわよわゾンビが9990体…そこに驚かし要素の変異ゾンビが10体で構成されている。
その10体は脅威かもしれませないが他は素手でも対応可能なぐらいなのだと困惑する課長。
だがそこから最も現実的な予想を頭に浮かべるとそれを口にする事にした。
「確かに少しは驚いて浪費してくれるかもと期待していましたがまさかここまでとは…血の気が多いプレイヤーが多かったという事ですかね?」
「そういえば倒した敵の争奪戦もいまだにやっている所もありますからねえ、難易度の高い所に行けばいいのに…そういうのもありますし課長のおっしゃる通りかと…だから最前に陣取っているとも言えるのかもしれません」
この後、次のポップの合間に補給エリアで幾分かの補充は可能でしょうが明らかに時間も補給量も足りないのではないと考える。
…確かに補給するアイテムの質は上げていく予定ですが…量を増やす事はしませんよ?
プレイヤーへの未公開の情報とはいえこの計画性の無さ…これは最前線基地エリアは崩壊が早そうだと課長は予想する。
そしてそうなると…その分、後方にある基地に緊迫感が出るだろうし…これはこれで逆にいい展開になるかもしれないとと課長は判断する。
「いいでしょう。予想と違う点があるのはそれだけ面白いという事です。イベント自体に問題は起こっていませんのでこのまま続行。まあプレイヤーの皆様はだいぶ苦しくなるのでしょうがね」
その後は課長の予想通り「最前線基地」エリアのプレイヤーの弾薬消費率は90パーセントを超え、倒されたゾンビは7割…残りの3割はこのまま「前線基地」エリアへとなだれこんでいく。
この後プレイヤーはさらに苦しくなっていくだろうが、そこからどうするか見ものだと課長はワクワクしながら期待を向ける。
「あの…一つだけよろしいでしょうか?」
モニターを見ていた課員の一人が声を上げ、それに耳を傾ける。
何か問題が発生したのか、それならば早々に対応しなければならないだろうと。
「何か?」
「はい…最前線の基地の一つなのですが…倒したゾンビがゼロで全く消耗もしていない所があります」
…課長は耳を一瞬疑ったが、まさかバグでも発生したのだろうかと考える。
慌ててその課員のモニターの前まで歩いていき情報を確認すると…課長は満足そうに笑いだした。
「いやいや安心した。ちゃんとこちらの意図を汲んでやっているプレイヤーもいるじゃないか。…だがこの規模はすごいな。こちらの理想を遥かに超えた事をやっている」
「課長…褒めるのはいいですけど、このプレイヤー達…先日E.U.関連で騒ぎを作った張本人ですよ」
その課員の一言で、喝采していた課長の内心は急速に冷え込む。
…その後深く息を吸い込むと真顔で自分の席に戻っていった。
こいつ等はここでもまたやらかしてくるのか…まさかな?
そうぼんやりと考えると課長の頭の中で要注意リストに即時ピックアップされたのは言うまでもなかった。