82.私が落ちた後の事
「のうわぁあああああああああ!?」
私はゲームから現実世界へと戻った途端、羞恥のせいで自然と悲鳴を上げてしまう。
諸悪の根源であるクソ鳥は地面に叩き付けて始末したけどアンズは明らかに私の死因が何か理解していたし…痛みのフィードバックなんてどうでもいいぐらいに今は口封じがしたくなってくる。
「こら友里!何を騒いでいるの!?夜も遅いんだから静かにしなさい!」
そして理不尽な事に母からも怒られてしまうし踏んだり蹴ったりである。
…いや怒っている内容は正論なんだけどね?
私は反論もせず軽く謝罪を返すと深く溜息をついてVRのヘッドギアを取り除く。
すると横で寝ているシャーリーが目に入ったので覗き込んで見ると…シャーリーの頬がにやけている。
…こいつも気付いたよね?
あまりにもニヤニヤしているからほぼ間違いなさそう。
少しむかついたのでこのまま口の中に納豆かワサビでも放り込んでやろうかと思ったけど流石に容疑の段階でそれはかわいそうなので思いっきり柔らかい頬をむにむにといじり倒す事で我慢し、ゲームに戻れるまでの時間を過ごす事にした。
そして時間が経過してゲームに戻ると全員が揃っていた。
順番的にはE.U.ビル内での回収チームが最初に、その後アンズ達が私が帰ってくるほんの少し前に生還して、最後に私がたった今戻って来たという事らしい。
アンズがこちらをみていい笑顔で手を振って、ウメが含み笑いをしていたので後で制裁をくわえるのは確定として…何故かカメルさんが死にそうな顔をして椅子に座ってダウンしていた。
何か変な攻撃でも受けたのかとも考えたけどここへ戻ってきている時点でケガも病気もゲームのシステム上自動的に回復しているはずだよね?
桃さんが話しかけて必死に介護しているけどカメルさんの虚ろさは変わらないのでかなり重症のようだ。
『これには全く深くない事情があるんですよ』
どこにいたのか緑色のボール状の生物がいつの間にか私の足元におり話しかけてきた。
「あ、生きてたんだ?」
『その言い方はひどくないです?いやひどいと言えばあっちのほうがひどいんですけどね!?なんなんですあの人は!?』
どうやら無事回収されていた私のサポートユニットはアンズに向かって蔓を使って差しながらまくし立ててくる。
その慌て具合を見て…私はようやくカメルさんがこうなった原因がわかってきた。
「あー…カメルさんはアンズが操縦するヘリに乗って帰ってきたんだ?」
「ああ…気の毒な事にそういう事だ」
すみっこの方に座っていたブラックさんが顔を逸らしながらこう答えた事で私は自分の考えが正しい確信を持った。
「あら?私はきちんと操縦して皆様を無事に送り届けたのですから問題はありませんよね?」
この話を聞いていたアンズは圧をかけながら近寄ってきたけど、残念ながら3+3は33と答えるような狂人の言葉は到底信用できない。
私は植物ボールを抱え込んで覗き込むとしっかりと命令した。
「私がビルから落ちた後、何が起こったのか正確に話しなさい」
『了解です。あの後落ちたご主人様に大笑いしていた方がいましたが時間が無いという事で皆慌て始めてすぐに二手にわかれてヘリコプターという機械に乗り込んで飛び立ちました。男の人はウメさんのヘリコプターに乗って、カメルさんと私はアンズさんのヘリコプターに乗りました』
うん、私の推測通りの話であり違和感は全くない。
何でこの植物ボールは平然としているのかは気になるけど今はどうでもいい。
問題はこの後アンズがどんな事をやらかしたかなんだけど…。
「こっちのヘリは問題無かったぞ…ただそっちは…その何と言うかだな…」
二択の選択に勝って運よく被害を逃れたブラックさんは何とかフォローしようとしているみたいだけどフォローのしようがないぐらいにひどかった事しか伝わってこない。
『何をとち狂ったのか空中で宙返りを始めて何故かマッドスタンプの足元を高速でくぐりはじめたんですよ』
「マッドスタンプ?」
「大通りを歩いている泥の巨人の事だ…実際に足元をくぐっているのを見たしな」
ブラックさんが補足してくれたおかげで何とかイメージができてきた。
…うんどんな絶叫マシンよりもひどそうだ。
安全性も保障されていないからなおさらにね。
『その後現地の飛行型の生体兵器が襲い掛かってきて…』
「ヘリに武装が付いていないのに何故か格闘戦を始めたんだよ。最終的には上についている回転している所で頭の無い鳥をバッサリと切断して返り討ちにして…」
『最後は地面にぶつかる勢いで急着陸して終わりです』
私が考えているよりも想像以上にひどい事になっていた。
単なる輸送ヘリがドッグファイトをしてローターで切断して化け物を倒すとか本当に何をやっているのかな?
「あらやだ…ニミリこのような事を真に受けないでください。私は普通に操縦して戻って来ただけですわ」
アンズがこの二人?の言っている事は誇大だというように否定をするけど、そんなはずはない。
私がじっとアンズを見つめると少しずつ目をそらし始め、あさっての方向を見ながら口を動かし始める。
「ニミリ?友達の言う事と他人とNPCが言う事…どちらが信用におけるかわかりますわよね?」
「いやいや、そこに被害者もいるでしょ?もう明らかなんだからあきらめなさいって」
「彼女は…きっと高所恐怖症だったのですわ。だからつらくてふさぎ込んで…」
「あんたの操縦がやばかったんだよ!」
顔が沈んでいたカメルさんが急に私達の話に叫んで割って入って来た。
植物ボールもうんうんと同意するように強く頷いているし…うん、まあ叫びたくなる気持ちは痛いほど私にもわかる。
「はっきり言ってモンスターとは違う次元でやばすぎて…ヒック…怖かった」
少し涙ぐんでいるぐらいなので余程の事だったようだ。
…アンズの運転に慣れていない常人でしかも今回は空の旅だった事を考えるとこの悲劇も妥当な結末だったんだろうなと思う。
「ウメは忠告しなかったの?」
「ソーリー…時間が無かったのもありますが忘れていました」
「そんな大事な事忘れないでくれよう…」
カメルさんの怨嗟が若干籠った声にウメも顔を逸らし始めた。
結局わかったのは、普通なら無事な生還を喜ぶところなのに不幸になる人が出てしまったせいで素直に喜べないという事だった。




