80.物欲の末路
「あのー…ヘリの鍵をいただけないでしょうか?一人で持っていてもいい事はありませんわよ?何事もリスク分散って大事と思うのですよね」
…アンズが珍しくしつこい。
いや、言っている事は傍から見れば正論なんだよね。
言っているのがアンズじゃなくて、こういう状況じゃなければだけど!
サポートユニット経由であちらに残していた人達への合図はもうしたので、三人が来るのを待っているのだけど…遅い!
待たされている間、ウメなんかもうアンズに詰め寄られて困り切った顔をしているじゃない。
ウメの方は私の方を見てきてもう渡しちゃっていいんじゃないかという顔を向けてくるけど…そうした場合責任は取ってもらうつもりだからね。
「Ah…ニミリ…アンズもヘリの操縦ができるなら渡していいのでは?二機に分乗した方がいいと思うのですけど?」
「その場合ウメも同乗してもらうからね!?二機持ち帰るなんてさせないから!」
当然そうなった場合はウメにも地獄へは付き合ってもらおう。
私の鬼気迫る返事にウメは珍しくひいた表情を見せ…こっそりと私に聞こうとしてきた。
「何故そこまで嫌がるのです?」
「そうね…例えばだけどジェットコースターって知ってる?あれの座席を上下反転させた上で安全バーを取っ払って最高速でぶっ飛ばし続ける感じかな」
「アハハ…Joke?」
うん、嘘だと思うよね普通は?
だけどそんなものはこの女には通用しない。
そして今言った例だと物足りないかも?
正確にするには補足が必要かもしれない。
「ちょっと例が甘かったかな?天候を嵐にするとか追加が必要かも…」
「ニミリ―!?さっきからこそこそと何を内緒話をしているのかしら?」
流石にこれ以上の内緒話は無理と判断して何も無かったようにウメと距離を取る。
だけどウメの表情には乾いた笑いと共に若干の怯えが混じっていたのは見逃さなかった。
これでウメにもアンズの危険性は理解できたはずと思いたい。
そしてそんな無駄なやり取りが終わってもまだ来ない…本当に遅いんだけど!?
まさか向こうで何かあったのかな?
しかしそうなるとあの三人は見捨てて先に脱出をはかってしまうのがいいかなと思い始めた時に…ようやく向こうから三人の姿が見えてきた。
ちょっと遅すぎると文句を言おうと思ったんだけど…真ん中にいる他の二人より歩くのが明らかに遅いのを見て思わず言葉を失ってしまった。
スリングを肩に通して銃器を何本もぶら下げて…背負えるものは背中に全部背負っているその姿…古の坊主こと弁慶かそれとも現代の戦士である特売品に突撃するおばちゃんか…
いや、現実逃避はよくないね。
あれは単に物欲にまみれた阿保な男だ。
「何をやってるですか!?」
そのよろよろと重さでまともにまっすぐ歩けない姿に流石にウメからもツッコミが入ってしまうぐらいのひどさにもう私からは言葉が無い。
「ぜぇ…はぁ…だって…ゴホ!勿体ないじゃないっすか」
「限度を考えろと言っただろ!?半分でも多すぎるしもうほとんど捨てちまえ!」
「嫌っす!」
息切れを通り越して体にダメージを負っている姿に、前を歩くカメルさんなんかは呆れを通り越してもうどうでもいいやという表情になってるし…いや、関わり合いになりたくないという気持ちはわかるよ。
まあ何をどうしようが他人に迷惑をかけない限りは…もう迷惑かけてるから駄目だね。
だけどワズンさんに言及して遅くなってしまってはより時間の無駄になるし、それならさっさと進めてしまった方がいいと判断する。
「この先から屋上にでてそこにヘリがあるのでそれで脱出しますよ!先に行きますね!」
「ちょ…階段は厳しいっす!だ…誰かてつだ…」
「だから捨てろと言っただろ!?もういい先行くぞ!?」
うん、そこまで面倒見きれないしね。
私個人の見解としてはもう見捨ててしまっていいんじゃないかと思っているんだけど…まあギリギリの二歩手前までは様子を見てみるという事で保留と決め込むことにした。
そしてなんやかんや問題はあったけど階段を上って金属製の扉を開けると風が流れてくると共に広い空間が広がる。
外に出ると久々に感じられる開放感と風が気持ちよく空が近くに感じられる。
そしてあのNPC達が言っていた通り少し離れた場所にヘリコプターが三機止まっている。
だけど問題は私達が出た所とヘリコプターの間に地面が無い事だね。
…なんで?
疑問に思って割れ目がある所を下へ覗いてみたけどどうやら何かが原因で壊れて…横穴みたいになっちゃったみたいだね。
ではどうやってあのNPC達はここまで来たのかといえば渡るための細長い金属製の板が二つほど橋の替わりに置かれている…多分これを通ってきたんだろうと思う。
まあ距離としては六メートルぐらいしかないしさっさと渡り切れば問題は無いでしょ。
現にウメなんかはさっさと渡り切ってしまって既に向こうで手を振っている。
「ひぃ…ふぅ…何とか上り切ったっす。…どこへ行けばいいっすか?」
「重かった!くそ!あっちだよ!ヘリが止まってるからもう少しだ!」
…結局ワズンさんはブラックさんに背中を押してもらい階段を上り切ったらしい。
ブラックさんに感謝しておきなさいよとは思うけどそんな事は気にせずにワズンさんはよろよろと歩き始めた。
多分疲れ切っていて余裕が無いと思うんだけどふらふらと気力だけでヘリの方へと進んでいき…って周囲確認してなくない!?
そう思ったときにはすでに遅くワズンさんは何も気づかず金属製の板に足を踏み入れてしまう。
「わわおあ!?何で!?揺れ…ふぁ!?」
欲張った分相当な重量があったんでしょうね。
一歩踏み込んだだけなのにガコンという音が鳴り、そのまま板が揺れると共にワズンさんも揺さぶられてしまう。
当然本人も訳が分かっておらず本能的に何かに掴まろうとするもそんなものは存在しないので手は空を切る。
最後にはまあ当然のように変な踊りを踊るようにバランスを崩して…。
「ひ…うぁ…何でぇ―――――!?」
倒れこんでようやく足元にあった金属の板を掴むことができたけど当然自分を含めて人間二人分の重量を支え切ることはできるわけがない。
無情にも金属の板を抱え込んだまま遥か彼方の地表へと落下していった。
…落ちるのはワズンさんの自業自得なので一切同情はしないけど、側で額に手を当てて溜息をついているブラックさんには…まあ苦労したのにこの結果はと流石に同情を禁じ得なかった。




