79.協力すれば悪いようには…
NPCからの投稿受諾の言葉と共に部屋の中から通路へと拳銃が飛んで転がってくる。
そしてそろそろ大丈夫だと確信すると背中のカバンに入れていたサポートユニットへ指示を出します。
「さっき言ってた蔓を大きく揺らす合図をして」
『了解です。死体が音立てて揺れるんで絶対気付くと思います』
…死体がいきなり動くのはだいぶ怖いんじゃないかな?
まああちらがどういう反応するかはわからないけど伝わるなら問題はないはず。
転がってきた拳銃が四つあるのを確認して部屋の中に踏み込むとまあ予中は想通りの光景だった。
『足がぁ―――!俺の足が―――!?』
『いてえ…血が止まらねえよぉ!』
あーもう…うるさいね?
武器はこちらに投げて寄こさせたので危険は無いけど、うるさくて話ができる状況じゃない。
四人いたうちの三人が足を撃たれていて、その内二人が両足を蜂の巣にトッピングされているみたいだけど…まあ文字通り下手な抵抗をしたんだから自業自得だよね?
「シャラップ!聞きたい事以外は口を開かない!治療が必要ならすぐしますけど?」
ウメが銃口を一番重傷者と思われる男の頭に突き付けるとさっきよりは随分と静かになる。
…まあ痛みから来る呻きを押さえろというのは薬品も無しには無理なのでそこはお目こぼししておこう。
こらえているだけむしろ偉いと褒めたい所だけど命がかかっているのでできる限り頑張ってもらいたい。
「痛いのは分かりますけど早くお話しいただいて治療した方がいいと思いますわよ?それでは一つ目ですけど電力はどこで戻すことができるかしら?」
アンズが丁寧に聞くとNPC達は顔を見合わせたので気持ちよくすっきりと答えてもらえるよう私も銃口を向けて撃鉄を鳴らす。
すると無傷のNPCが慌ててせきをきったように口を開き始める。
『電源はこの部屋の奥だが…ベータ分隊が完全に破壊していった!修復は不可能だ!』
なるほど、そういえばさらに奥の部屋があるなと思ったけど電力を管理している部屋がここだったのね。
奥を少しチラ見すると電源装置がいくつも並べられているけど…どれも穴が開いておりバチバチと放電している。
…どうやらさっき襲撃してきたのがベータ分隊で私達を逃がさないように電源を落とすんじゃなくここを乱射して破壊して来たというのが一連の流れだったのかな?
だけどこの状況では電源を復旧してエレベーターから帰るという手段は無いから…そうなるともう一つ、こいつ等の服装から予想出来るけどそうするしかなさそうだね。
「わかりました。それでは貴方達はどうやってここに来られましたか?見た所ここにいる皆様方は操縦士の装いですけれど?」
何故か一つ一つに口籠って話が止まってしまうので私が天井に向けて銃弾を一発撃つ。
するとすぐにNPC達はすぐに混乱し、こちらが望んだことをさえずり始める。
『へ…ヘリだ!この右側の通路から屋上に出た先にヘリが駐機してある!』
まあ予想通りと言えば予想通り…。
空を飛んで屋上から侵入してきて私達とばったり遭遇戦に至ったという事だったんだと思う。
「…ヘリの機種は何でしょうか?」
『ヒューイ…イロコイが3機だ!それよりもだ!ここから出たいんだろ?取引をしないか?ここから出るにはもうヘリしか手段は無い!操縦は我々がやってどこにでも送ってやる!代わりに…』
うーん、確かにエレベーターが使えないとなるとヘリを使うかそれとも長いロープみたいなものを探して屋上から降りるしかないんだよね。
最初のNPCの話によるとここに来るまでに犠牲が出てたという事は…空にも化け物がいるみたいだしロープで降りるのはハイリスクだし、そもそも降りていては時間が足りない。
そうなると消去法でヘリを使うしかないね。
『俺達全員を助けるのと回収した機密データをこちらへの引き渡し!それさえ飲めば見逃してやる!どうだ悪い話ではないだろう』
…あ。
NPCの話が終わると私はこの先の事が予想出来てしまった。
幾らなんでもそれは過大な要求過ぎる。
そして予想通りの事が私の目の前で起こる。
「そうですわね…大変興味深い話でした。それでは私達はそろそろお暇させていただきましょうか?あ…ニミリお願いできる?」
『ま…待て!そもそもヘリの操縦なんてできるのか!?考え直…』
言い終わるまでもなく火薬の破裂する音と共にNPCの眉間に風穴が無く。
残ったNPC達は悲鳴をあげるけど、見逃す理由なんて全く無いので当然同じように射殺されていく。
「勢いで撃ってしまいましたけど…捕虜を撃ってよかったんですかね?」
「いいんじゃないの?ゲームだし、それに条約も何も無いでしょ?そもそも私達捕虜にとったのでも無いし」
そしてそんな死屍累々とした光景を作り出したことを気にすることなく、アンズは困った顔をして頬に手を当てながらため息をつく。
「はぁ…あまりにも愚かでしたわね。ヘリの操縦なんて私がすればいいだけの話なのですから。さあニミリ!ウメ!脱出しますわよ!」
…そうだった。
操縦をするのがアンズになるとわざと狭い所を飛んだり、変な所をくぐったり、宙返りのような奇行な飛び方をするかもしれない…いや確実にやる!
化け物だけでも頭が痛いのに追加でこれはまずすぎる…なので、そうはさせまいと先にパイロットたちの死体をあさらせてもらう。
こういうのは大抵胸ポケットに…。
「ちょ…ちょっとニミリ!?急にがっつくなんてどうしたのです?確かに時間も無くなってきましたけどまだそこまで慌てなくても…」
「ウメ!ヘリの操縦できる!?」
「What's!?」
アンズの問いかけは無視して、私は目的の物を三つ全て差し押さえるとウメに向かって必死に問いかける。
急に問い詰められたせいかウメはうろたえているけど私にとっては…いや、私達にとっては文字通りの死活問題である。
「え!?イエス…ヒューイなら経験はありま…」
「じゃあ任せたよ!お願いだから他の人に任せたらだめだからね!これはウメの仕事だから!」
私はイエスと聞こえた途端、ウメに入手したヘリの起動キーを全て押し付ける。
直後アンズから非難めいた悲鳴が後ろから聞こえてきたけどすべて無視したのは言うまでも無い事である。




