66.八方塞がり
その後たいした問題は何も起きず大量の戦利品の獲得という結果と共に探索は終わった。
終わった後はほぼ全員の機嫌も良く和気藹々とした空気に包まれ和やかにアイテムの分配が行われた。
そりゃあ大したリスクも無くあれだけのアイテムが手に入るなら喜ばしい事だからね。
たった一人しか死なない(死因は不注意による落下死)というあまりにもローリスクハイリターンな結果には何でもっと早くここに来なかったんだという不平のようなつぶやきも聞こえたけど、それは鍵の持ち主の意向から反れていたのだからそこは仕方ないとあきらめてもらうほかない。
さて、その鍵の持ち主はと言うと…
「あーもう!あの木を吹き飛ばせる物が何一つありませんでしたわ!」
そう、いい武器…特に試作または近代的な火器については色々と見つかったのだけれど威力で見れば前回力任せに攻撃した時と五十歩百歩という事で有効そうな物は見つからなかった。
お陰で未だにアンズはご機嫌斜めである。
そして不機嫌なまま私のマイルームに来るのは止めて欲しいのだけどそれを指摘して更に不機嫌にさせる愚策は犯せない。
「私としては色々と銃が手に入ったのでいいですが…弾薬が少ないのが困ります」
そうそう、ウメの言う通り様々な銃器があったんだけど付随している弾薬が少なく長期的に使うには別に弾丸を探さなきゃいけないという課題がでている。
ちなみに鍵付きのケースについては全て破壊して開けることができず残りは後日時間がある時に開けていくという事で合意は取れている。
けどその開けられていないケースに弾丸が入っているかといえば、恐らく入ってはいないと思う。
それでもいろいろな銃器を手にした喜びのせいか皆様浮かれて解散していった。
解散した後で取り扱いがわかるのかウメが心配していたけどそれは私達が気にする事では無いはずだもんね。
それよりも明日からまたアンズに色々と付き合わされることの方が問題である。
もう十分に色々と手を打ったのだから今なら方針転換を促しても自然な流れだと思うし。
「アンズ、あきらめるってすごく大事な事だと思うよ?」
「ニミリは悔しくないのかしら!?」
「まったく悔しくないけど?」
世の中には無理な事、理不尽な事、困難な事は色々とある。
それにぶつかっていくのも一つの手だけど私の場合は簡単な解決方法が無いか考えて、思いつかなかったらすっぱり忘れることにしてるからね。
そういうのに意識を取られるより頭の片隅に置くか置かないかレベルにしておいた方が気が楽だからね。
「確かに私もファッキンツリーは切り倒してやりたいですが手段が無い以上は他に注力した方がいいと思いますよ?」
ウメも同意見なようでおとなしく利益追求に目を向けたほうがいいとアンズを諭す。
「仕方ありませんわね。そう言えば例えばなのですけど…前回のイベントで貰えるものに【W88】や【AMF】や【荷重力弾】がありましたけれど、もしかしたらこういう物でしたら有効なのかしら?」
「何もかも消し飛ばす気ですか!?」
アンズが諦めたよういにつぶやき始めるとウメの顔がひきつらせながらツッコミを入れる。
ひきつっているという事は…まさか交換して持っているとか?
まあそれはどちらでもいいとしてウメには心当たりがある物があるらしいのでついでに聞いておこう。
「ねえ、ウメ。今アンズが言ったものが何かわかるの?」
「Uh…そうですね。【W88】は私の記憶が確かなら核弾頭です。どう起爆するつもりかわからないですが存在するというだけで恐ろしいです。【荷重力弾】は一瞬だけ空間という力場にエネルギーを加えて重力異常を起こして後負荷の荷重領域を作り出す使い捨ての弾という事です。専門家ではないので詳しくはないですが」
うん、そこまで聞ければ十分である。
そんなやばそうな物をイベント景品に…むしろアイテムとして実装している運営はやはり頭がおかしいんじゃないかな?
「ありがと。参考になったよ」
「いえ、…ところで私も一つ聞きたいのですが、どうしてニミリは今日車のパーツばかり貰ったのですか?」
ウメに聞かれて私もそういや何も知らなければ不思議な行動だと納得してしまう。
今日のアイテムの分配で私が貰ったのは分解した車のパーツ類なのである。
カーバッテリーやタイヤや配線やハンドルなどこれ単体ではあまり役に立つように見えないアイテムばかりだから種明かしをしないと分からないからね。
「実は【AMF】というのは…何の略だったっけ?そこは忘れちゃったんだけどマイルームに設置する設備で簡単に説明すると…部品を放り込んでおくと勝手に分解して必要な部品が揃ったら修理や加工をしてくれる全自動機械かな?」
「それはすごく便利ですわね。私も交換しておけばよかったかしら?」
…アンズさんや?
確か私と同じぐらいいっぱいイベントポイント貰ってたよね?
いったいアンズが何と交換したのか今さらながら気になってきたよ。
「うん、だから適当に車の部品を放り込んで何か作れるようになったら加工ができるように表示されると思うから」
「いずれ新品の車が手に入るという事ね?…私の分もニミリに渡してしまった方がいいかしら?」
…しまった口が軽かったかもしれない。
狂人に刃物、チンピラに銃器、アンズに乗り物って言うしこの事は内密にすべきだった。
だけど口から出てしまった以上戻す事は時が巻き戻らない限り無理であり、実質不可能だ。
私はこれ以上余計な事をすまいと無言を貫きつつもやらかした事を後悔しながら【AMF】の扉を開ける。
すると…
『何するんですかご主人様!?この機械生物は入れられないってわかってますよね!?これで二回目ですよね!?いくら温厚な私でもいい加減ぶちきれますよ!?』
目の前から聞いたことがあるような怒声が飛んできてなんでこれがここにいるんだろうと頭をひねる。
そういや人目につかないようにまたここに放り込んだような。
いや、そもそも私そんな事したっけ?
うん、そんな乱暴な事してるわけないからきっと気のせいでしょ…面倒で適当に処理したから記憶がないだけかもしれないけど。
とにかく今は邪魔な事この上ないしまた早急に別の所に放り込んでおこう。
「ニミリ…それは何ですか?」
とうとうウメに見つかってしまう。
見つかってどうという事はないけど…いややっぱり面倒かもしれない。
「これは私が飼っている奴隷だよ」
『ひど!?せめてペットぐらいにしておいてくれません!?』
「もうちょっと可愛げを出してから言いなさいな」
ほら、五月蠅くなった。
やはりもう少しうまく隠しておけばよかったと今さらながら後悔していると背中から大声が突き抜けてきた。
「ああ!?そう言えばニミリが宇宙人を飼育していたのでしたわ!?」
急に大声出されるとびっくりするから止めてほしいんだけど!?
それにしてもアンズはこれを知っているんだから今さら何を驚いているんだろうね?




