64.地下倉庫 -前-
アンズがカードキーを通すとプシュウと空気が抜ける音と共にゴゴゴゴゴゴと重たい金属製の扉が開かれていく。
やはりアンズのブラックカードキーだと開くようだけど…このカードキーが本当に万能すぎて怖くなる。
やはり結構なレアアイテムなのかな?
カードキーは割と数多くドロップしているのだけどブラックカードキーはアンズが持っている一点だけで他には出ていない。
ひょっとしたらここを完全クリアしたら貰えるマスターキー的なアイテム…なんて事はまさかないよね。
まあ何にせよ有用なアイテムなのは変わらないから大事にしてもらうしかないね。
うん、だから。
「じゃあ扉も無事に開いたしアンズは一度帰ろうね」
「いやです!私も中を一番乗りで見たいですわ」
「はいはい我がまま言わないで。一度その黒光りのカードを置いたらまた来ていいからね」
「それですと私が一番乗りできないですし…」
はい、拗ねても駄目です。
それに一番乗りはアンズの仕事じゃないからね?
まあこれ以上不満を漏らされても空気が悪いしそれに…
「ははは、そりゃあ開けた本人が一番に入りたいと思うのは自然な事だろうしな。いいさ、待ってるから早くそれを置いてきていいぞ」
「そうそう、先駆けせずに待ってるからね」
「…と一番信用無さそうな桃さんが言っても安心できないですけどきちんとアンズさんを送り届けてください」
そう、周りが大人な対応をしてくれているためアンズだけ後回しという事は無いのである。
待つ時間が勿体ないとは思うのだけどそこも含めてありがたい事である。
だからこのままアンズは数人に警護されながら一度戻ってからまた来ることになる。
確かにこんな貴重なアイテムをロストすべきでは無いだろうし妥当な判断だと言いたい所だけど…これってどこも抜け駆けするなという牽制の結果でもあるんだろうね。
「ニミリ?エスコートするなら私かニミリが付いていった方がいいのではないです?」
うーん、それもそうなんだけどあれもこれもウメ頼りにするのも何か悪い気がするし結構安全が確保されてる経路だから心配もあまりないとは思うんだけど…だけど安全とは限らないか。
「そうかもね。わかった私が行ってくるからウメはこのまま入口を確保しておいて」
結局私もアンズと一緒に往復させられることになった。
残念ながら呆けながら楽をするという事は残念ながらできなくなりそれから十数分後、とうとう開かずだった地下への部屋に踏み込んだ。
部屋の中は割と広大な空間となっており幸いな事に部屋の中をざっと見た所化け物は一切存在せず、金属棚が何列も設置されている。
そしてその棚の上にはまばらにアイテムが置かれているという事はここは倉庫のような場所という事なのかな?
しかし化け物が一切いないとか、今までと比べて明らかに優しすぎて逆に怪しいよね?
けどそんな私の懸念はどうやら少数意見だったらしく他の全員が目の色を変えて歓声をあげながらあちこちに散らばって行った。
…うん、元気なのはいい事だよね。
できれば先に罠に引っかかってくれると助かるんだけどそういう気配もないというのは逆に心配が残ってしまう。
「ねえニミリ、早く私達も探しませんこと?」
「そうですね。早い者勝ちという事は無いですが働いた方がいいと思いますですよ?」
あまりにも入口で時間をかけすぎたせいかアンズとウメにせっつかれてしまった。
私も言いたい事はあるけど…言ってることはこの二人の方が多分正しいんだよね。
まあ不安は残るけど私の心配のし過ぎと思う。
せっかくなので色々と物色してみよう。
まずは誰も手をつけていない近くの棚にあるアイテムを手に取る。
頑丈なプラスチックの容器のようだけど何だろこれ?
振ってみると液体が中に入っている事は分かるけど外には何も書いていない。
「ええと…このポリタンクは何が入ってるのかな?」
「Uh…この容器ですと灯油やガソリンの気はしますけどわからないです」
「このThermiteと書かれた缶は何かしら?」
「サーマイト?何かの薬品?」
「テルミットですね。加工すれば何かに使えるかもしれないですので持って帰りましょう」
どうやらこの辺りには色々と薬品が置かれているようだけど使い道がさっぱりとわからない。
むしろ一番最年少であるウメの方が分かっている辺り…いや、きっとウメが理系専攻なんだ、うん…そうに違いない。
「これで最後かしら?では次に行きましょう」
棚にあるアイテムの数は少なかったため時間はかからず全てかき集め終わり、次の棚の列に移動する。
するとその先では男達が地面に向かって何やら悪戦苦闘をしているようだけど…。
「タイムリミットがあるからアイテムは一度全て持って帰るんじゃなかったです?のんびりとオープンしてる暇はあるのですか?」
ウメからも冷めた目で見られてサカキさん一同も居心地が悪そうに苦笑いをしていたが、溜息をつくと訳を話し始めた。
「いやな、結構な量の金属製のケースを見つけたんだが…」
「重い大きいで全部持って帰るにはちと多すぎてな」
「だったら中身開けて確認して選別して持ち帰るしかないなと思ってたんだが」
「この金属錠が開かなくて困ってたんすよ」
なるほど、よく見たら床に人の背のサイズはありそうな山が二つは出来上がっている。
自分の身長の半分ぐらいのケースを試しに持ち上げてみると…結構重いね。
けど鍵開けるのに時間がかかってたら結局本末転倒の気がするんだけど…。
「でしたらその悪戦苦闘する分をいさぎよくあきらめて早く運んだ方がいいのではなくて?」
アンズの言う事が正解だと私も思う。
ならここは力仕事を任せて私達は…。
「nn…?これなら私でもオープンできますよ?」
と思ったけどウメがなんとかできるらしい。
本当に万能だと思うけどどうやるのかな?
「開けれるのはありがたいが…こいつは鍵だけじゃなくて8桁のダイヤルもついてるから相当厄介だかぞ?鍵は当然無いし…やっぱり全部運んでから開けてもらう方がいいな」
「NonNon、すぐに終わりますよ」
ウメは気軽そうに言うとアサルトライフルのストックを鍵の曲がっている箇所に合わせるとそのまま
勢いよく体重をかけて振り下ろす。
するとバキンと金属が破裂する音と共に鍵は壊れて飛び跳ねながら床を転がって行ってしまった。
「予想よりもずっと力業だったな…そんな事して銃は大丈夫なのか?」
「軍用品ですから大丈夫なはずです。…が、帰ったらばらしてメンテナンスはします」
まあ照準がずれたり暴発しても怖いだろうし後のメンテナンスはウメにお任せするとして…。
「それよりも中は何かしら?」
「そうだな、早速見てみよう」
まずは開いた宝箱…ではなくケースの中が気になってしまう。
誰もが気になっている中で早速金属ケースを開けてみると中には狙撃銃のような長い銃器が収められていた。
しかし弾倉はついておらず配線がついていて…何だろこれ?
「何だこれは?スナイパーライフルか?」
「No…これはフランス製の試製のレーザーライフルですね」
なるほど実弾ではなく電力供給式のエネルギー兵器というやつかな?
とりあえずなんかすごそうなウメの解説に周りがどっと沸く。
「何かすごく強そうっすね!これは大当たりっすね」
「いや待て、試製という事は何か問題もあるんじゃないか?」
「Yes、確かに対物ライフルに代わる長物としてその威力、精度は十分でした。ですがエネルギー効率があまりに悪すぎたのです。そのためマガジンにあたるバッテリーの重量も重いですし、これで撃てるのはたったの三発ぐらいです」
「…威力は昨日使った対戦車ミサイルと比べてるとどうなのかしら?」
「対戦車ミサイルの方が貫通力も火力も高いです。一概に同じエネルギーが働いているとは言えないですが…」
「ちなみにこれどれぐらい重いの?」
「二十キログラムは越えていると思います」
ウメに聞いていくとパッパッと回答が来て色々とわかって来たけどたった三発じゃどうしようもないよね?
とにかくこの銃がどんなものかはわかった。
しかし中に入っていたのが銃だったという事は…
「この辺りの金属ケースって銃が入ってるのかな?」
「あるいは軍需物資ではないかしら?いずれにせよ有用なのは間違いなさそうですわね」
「そうだといいな…そうなると全部持って帰らないとな?」
そうサカキさんが言うと他の男達が短く悲鳴を上げる。
いや、悲鳴を上げたくなる気持ちはわかるよ?
銃本体で二十キロ…金属ケースでさらに五キロほど重さが加わって…それを多数持ち帰るとなるといくらゲームとはいえ大変だろうし…。
「せめて彼女に全部開けてもらうのは駄目っすかね?流石に全部丸ごと持って帰るのは…」
「ケースに入れた方が持ち運びは楽だと思うぞ?それと桃ノ木の方でも何か呼んでたから行ってみてくれ」
ありゃ?
桃ノ木さんの方でも何か見つけたのかな?
そういう事なら私達はそっちへ行くとしますか。
後ろでは男達が手伝ってほしそうに見ているけど…私も肉体労働をせずに済むならそれに越した事は無いから頑張ってね?




