61.のんびり雑談
「あーやっぱり無理だった…けど、割と頑張った方だよね?」
まあ結果としてやれる分までやったから…後は二人に任せておけばいいかな?
一度死んでしまいゲームとの接続が切れたのでこれを機会にVRマシンを置く。
それにしても毒ガスが苦しい所までリアルに寄せて来るとかとんでもないゲームである。
とりあえずゲームに戻る前に…私は一息入れますかね?
私はそのまま起き上がると隣で寝ているシャーリーを見る。
すると安らかな寝顔なんだろうと思いきや何故か眉間にしわが寄っている。
…杏子の無茶振りに付き合わされて苦労しているとか?
…いやいやまさか人数も二人になって無理もできないはずだから適当な所で切り上げているはずだと思う。
そう勝手に予想しながら台所まで移動すると冷蔵庫から飲み物を取り出す。
そろそろ冷えた麦茶でもいい季節かもと思ってると母が居間から戻って来た。
「あら?今日はもうゲーム終わったの?」
「んー?いや、まだだよ。私が一息つきに出てきただけ」
「そうなのね。それにしても毎晩ゲームというのも…杏子ちゃんに誘われてるのは聞いてるけどシャーリーさんせっかく海の向こうから来ていただいているのだからゲームもいいけどきちんとした所も案内しないと駄目よ?」
…確かに海渡ってまで来てゲームしてるとかあまりいいとは言えないけど、私としては人様に迷惑をかけなければ好きなようにすればいいんじゃないかなって思うのよね?
だから今後もやりたい事はシャーリーに任せよう。
そしてできれば私が楽できる方へと舵取りできるようにしよう。
そんな話をしているとそろそろ十分ほど経過したように思える。
私は母との雑談を切り上げるとゲームへと戻る事にした。
…と、流れで戻る事を決めたのはいいとしてもあまり残り時間は残っていないんじゃないかな?
今確認したところ本当に時間は無く残り三十分ぐらいしかない。
結構時間をかけて粘った上にデスペナルティの時間も使ってしまったせいだよね…それでも締めの前に顔合わせがあるのだから移動する事にした。
まあ後はゆっくりとさせてもらえばいいだけだし今日はこれ以上は特にないよね?
そんな考えをしつつコミュニティールームへと戻るとルームの中には小山に積まれたアイテムの山と…話をしている吸い殻さんとカメルさんがいた。
私が戻って来た事に気付いたのかこちらへ振り向くのはいいけど…何故にそんな驚いた顔をしてるのかな?
「サカキが死ぬのはわかってたけどそっちにも死人が出るのか?」
…吸い殻さんの中で私達はどんなカテゴライズをされているのだろうか?
ひょっとしてプロか何かと勘違いしてない?
「あんなに銃を持って行っても半分死ぬのか。上の方ってそんなにやばい?」
あ、カメルさんが言う通りそれは確かに。
軍が使うような銃火器を持ち込んで死人が出ているんだからこの問いは理解できる。
「上の方に行くほど底意地が悪い仕掛けが多いですね。それに見た事が無い新種もいましたし」
「あーそれについてはサカキからも聞いたぞ?動物園にいそうな獣のような化け物もいたんだって?」
「そうですよ。あれ?先に戻ったサカキさんは?」
そういや私より先に死に戻ったはずなのにこの場にはいない。
ひょっとして懲りずに再チャレンジでもしているのかな?
「サカキさんなら戻ってきて雑談をちょっとしたらまた出ちゃったよ。頑張れば少しぐらいなら物資の回収はできそうだって…がんばるよねえ?」
「どうせならここと変わって行けつうんだ…全く気が利かない」
どうやら想像通りみたいだ。
ギリギリまで頑張るとかたいした勤労意欲である。
「お二人はずっとここに?」
「いや、私はちょうどきりがいいから戻ってきたところだ。吸い殻はずっとここに張り付きっぱなしだけどな?」
「まあ誰かしら残って荷物番は必要だからしゃあねえさ。助っ人を頼んだ手前とこっちが人数は多いからな。今日は俺だったという事だ」
なるほどなるほど。
しかし荷物番なんて必要なのかな?
取って来たアイテムを仕分ける必要がある?それともチームごとに分けておく必要があるとか?
「何か不思議そうな顔をしてるがどうした?」
「いや、荷物番なんて必要かなと思いまして」
「ひょっとしてこういったMMOの経験が薄いのか?そういや手軽なアプリゲーム全盛期の時代もあったし…」
「私はやった事があるから知ってたけど知らない人もいて当然だよな。私等も予想してなかったんだけど今回手に入れたアイテムって今までの効率から考えるとすげえいい物が大量に手に入ってるんだ。だからきちんと管理しておかないと最後にもめちまうんだよ」
「最悪な場合猫糞するような奴が出てくるかもしれないからな。だから一応俺かサカキがここに張り付くって事で桃ノ木さんとアンズさんには話を通してあるんだが…聞いてないか?」
「いえ、まったく」
私が否定すると二人が苦笑しながら話を続ける。
「まあこんな事気にせずにゲームを楽しめりゃあいいんだけどさ」
「だがここで揉めると楽しさが台無しになりかねんからな。もはや労働に近いが誰かがしないとな…ところでニミリさんはもう一回行ってくるか?時間ギリギリまで頑張るなら止めはしないが」
「今から行っても中途半端になりそうだしここでゆっくりしておきますよ」
「そうか、茶は出せないがゆっくりしていってくれ」
「まあこっちとしちゃあアイテムを運ぶの手伝ってほしいとこだけど、これ以上急に物が増える事は無いし問題ないと思うぜ?」
どうやらここに居続けて問題なさそうなのでそのまま空いている椅子に着く。
そうなると後は雑談が続くだけである。
「そういやサカキってどうやって死んだんだ?」
「ターミナルアイに見られてそのまま串刺しですよ」
「あいつ肝心なところで抜けてるからなぁ…」
「そういや上の方はどうだった?サカキさんは新種のやばいのがいたってのは聞いたがその後あんたが死んだって事はもっとやばいのがいたって事か?」
「それはー…いや、後にしよっか?」
危ない危ない。
こちらだけしか知らない情報というのは持ち帰るアイテムと同じ戦利品なのである。
勝手に口外すればアンズから後でねちねち言われる可能性もあるのだからそこらのさじ加減はアンズに全て放り投げてしまおう。
そうなると次の話題が必要になるんだけど…あ、これでいいや。
「アイテムの集まり具合も悪く無さそうね?アイテムが積むぐらいあるとか」
「本当だよな。私達だけだと見つけても毎日数個…よくても小山になるぐらいだしね。山分けしても明らかに大漁だよ。本当誘ってもらって感謝してるよ」
「進入できて対処さえわかってれば楽だからな。それでもちょくちょく確認が漏れてたりして死人が出ているがそれでも収支は明らかに黒字だからな」
そんな当たり障りのない雑談に話を割かせて数十分、きちんと生還してアイテムを持ち帰る人、死んでマイルームから悔しそうに帰ってくる人とどんどん増えていき賑やかになっていく。
わいわいと雑談をしていると今日ももうそろそろ終わりなんだと肌で感じていると最後の人達がマイルームからやって来た。
「ただいま戻りましたわ」
…あれ?アンズとウメも死んだんだ?
という事は私の苦労はどうなったんだろ?




