10.オープン記念イベント -3F展示エリア-
見るべきものはあまりないと思っていたけどそれなりに濃い内容であった2Fエリアを後にして私とアンズは3Fへ降り立つ。
濃い内容になったのは私のせいということは無いはずである。
さて、3Fはオープン記念イベント会場マップのスキル…もうチラシでいいよね?
チラシによると変異生命体の展示場とのことである。
アンズが一番注目してあるエリアと言ってもいい。
展示場に入る前からうめき声、叫び声に始まり奇妙な音が鳴り続けている。
動物園かなとも思ったけど動物園の動物はここまで活きがよろしくない。
それなりに期待できそうである。
アンズと一緒に展示場の入場ゲートをくぐると右手の脇には薄汚れた牢屋が設置されている。
『u-----』
『a------』
うん元気なうめき声と引っかき音も漏れているね。
牢屋の檻の中を覗くと予想通りかなりの数のゾンビが放り込まれている。
男性女性老人中年子供と分け隔てなく様々な種類が詰め込まれており、これだけのパターンを作るのにどれだけ労力を割いたのかがよくわかる。
「ねえ、これここから出てこないかな?」
目をランランと輝かせるアンズに周囲のプレイヤーもドン引きである。
いくらここがVR空間でゲーム内と言えども動物園でライオンを外に出せないかなというのと同じ発言はまずい。
「はいはい、アンズ落ち着いてー。深呼吸しようか、吸ってーー。吐いてーーー。さあ次見に行くよ。」
周囲の視線にさらされながらゾンビに釘付けのアンズを引きずりそのまま次の展示場に向かった。
「もうアンズ、発言には気をつけてよね。子供じゃないんだから。」
「ごめんなさいね。けどそれはニミリにも当てはまらないかしら?」
そう言われると思い当たる点は…忘れよう。
「で、次の展示だけど…」
こちらはガラスケースの中に入っている。
どうやら動物タイプのゾンビであるようだ。
ゲームでおなじみの犬のゾンビの数が多い…そういやさっき研究所であった人は食われたとか言ってたっけ?
他にも鳥や猫なんかのゾンビが展示されている。
「人間のゾンビは動き読めるけどこう言うちっこいのや動きが素早そうなのは厄介そうだな。」
同じ展示物を見ている男の独り言だが私も同意である。
というか既にもう不意打ち食らった上に追い回された経験済みである。
「うーんここは定番の物しか展示されてないのかな?ニミリが倒した蛇の目が生えた猫とかはいないよね?」
アンズーーー!余計な事を言わないで!
ほら、周囲の目線がこちらに集まって来たじゃない。
「はーい、アンズ。ツーアウトだよ次行くよー。」
「え、まだゆっくり見て…ちょっと引っ張る力強いよ?!痛い痛い!」
流石に自業自得と思ってほしい。
「アンズ発言には気を付けて!こんなところで注目されて時間取らされたらまずいでしょ。」
私は展示スペースのはずれでアンズを怒っている。
さすがにゲームで変に注目を浴びるのは勘弁してほしい。
「うん、確かに考え無しで悪いと思うけど…けどニミリのさっきのも大概だったのでお返しですよ?」
…ひょっとしてわざと私に迷惑被るように仕返しされてた?
何という事だ機会があったらまた追撃をしなければいけないようだ。
「わかった報復は近いうちにするから今回のは流しておくね。」
「まだ続けるの?」
当たり前である。
友人とは所詮血塗られた道である。
仕返しを期待して待っていただこうかね。
「まあその話はいったんここで終わりにして続き見に行きましょうか?」
「そうだね、ちょっと飛ばしたのはもったいないけど戻るのは苦労しそうなので順路に沿って行きましょう。」
少し進むと円筒状になったガラス張りの通路があり、そこで人が回りを見回している。
水族館みたいな催しだなと思ったらその通りだった。
通路の周りは水で満たされており、腐り堕ちた体で優雅に泳ぐイルカや6メートルほど巨大になったウツボや骨だけになったピラニアなど各種水棲生物が展示されている。
「ほらアンズ、一緒に泳ぐ子達が展示されてるよ?」
「流石にこれと一緒に泳ぐのはご遠慮いただきたいところですね…できれば一思いにパックンといってほしいものです。」
それは逆に薄い本案件ではないだろうか?
アンズの発言に周りの男性プレイヤーは前かがみになる。
…こんなところでも劣情するようなものなのだろうか?
「けどこれだけ大きい化け物が多いと…釣りごたえはありそうだね?」
なんか力負けしそうな気はするけどそういったものも含めてマグロ釣りみたいなことはできないだろうか?
「釣りというのも楽しそうですわね?けどゆっくり釣れるような環境とかあるのでしょうか?」
…今は無理そうな気がする。
けどいつかはできたらいいなと思いつつガラスの通路を抜けていく。
最後の展示だけどこちらは物凄い人混みである。
展示スペースの前にはNPCのお姉さんが一人立っていて、周囲にスペースの説明をしているようだ。
『こちらはクイズコーナーです。このエリアには変異生命体が何匹か隠れているかもしれませんしいないかもしれません。正解者には発見した変異生命体のサンプルを差し上げております。』
どちらかというと探し物系のコーナーというのではないだろうか?
廃ビルの一部といった感じでガラスは割れて、雑多にデスクや仕事用具が散らばっており廃墟感が漂っている。
周囲の人も必死になって探しているようだが中々声が上がらない。
「あてずっぽうに言っていけばそのうち当たると思うんだけどね?」
そう言った私に探していた男性の一人がこちらに説明のフォローを入れてくれる。
「ああ、間違えるとそこで終わりなんだ。そこのNPCの姉ちゃんが間違えた奴を記憶していてな。間違えた後は何を言っても反応しないように設定されているんだ。」
「なるほど。」
「正解しやすいのは開始直後にみんなすぐに持ってかれたからな。歩いているゾンビとかそのまんまのもあったらしい。もう残っていないんじゃないかなとも思ってる。」
「重要な補足の説明ありがとうございます。」
私は答えてくれた男性にお礼を言うとそのままアンズに振り返る。
「ということだけどアンズわかる?」
私の言葉に既にスペースを見ていたアンズから返事が返ってくる。
「えっとね、明らかに怪しいと思うのはあそこでしょうか?ニミリもちょっと確認してほしいかな。」
アンズは私の耳にそっと口を近づけるとこしょこしょっと怪しい個所をそっと教えてくれる。
理由も一緒に教えてくれたのでなるほどと思う。
「うん私もそれでいいと思うのでアンズ答えちゃっていいと思うよ。」
「そうですね…では回答してみますね。」
「じゃあさっそく、お姉さんこっちの水着美少女が回答するので聞いてもらっていい?」
私の声にNPCのお姉さんがタタタとこちらに近寄ってくる。
アンズの顔はおや赤くなっている、緊張しているのかな?
『はい、本当にここにいると思われますか?いると思うのでしたら回答をお願いいたします。あ、間違えた場合は以降の回答権がなくなりますので慎重にお願いしますね。』
アンズが一度深く息を吸い気持ちを整えると回答を始める。
「まずはその階段と思います。」
『階段のどこにいると思いますでしょうか?染みの部分や割れ目の指摘は今までもありましたので正確にお願いします。』
「いえ、階段自体ではないでしょうか?」
周囲のプレイヤーはこちらを見てくる。
NPCのお姉さんも意地が悪いね。
わざと間違えそうに誘導してくるとは。
『階段自体ですか?』
「はい、確かに周囲の汚れや壊れ具合と同じ見た目なのですが…、階段の汚れは四段おきぐらいで規則的に繰り返されています。すなわち何かが擬態されているのではないでしょうか?」
NPCのお姉さんはうなずくとにっこりとアンズに微笑む。
『おめでとうございます正解です。ではどんな変異生命体であると思われますか?』
「それは…」
「多分機械か虫だと思うけどこの場合は虫じゃないかな?この展示場には機械は展示されてなかったしね。」
私の補足にNPCのおねえさんがうなずくとスペースの方では階段が地響きを立てて崩れ落ち…いや擬態を解いた巨大なゲジゲジが姿を現す。
1階分の階段の大きさはあるので8メートルはあるだろうか?
正直見ているだけでぞわっとして気持ち悪い。
周りからも悲鳴があがっている。
アンズは…平然としている、気絶しているわけでもないし大したものである。
『おめでとうございます。景品のサンプルについてはマイルームに送らせていただきます。』
その声と共にゲジゲジは消える。
周りからは安堵の声があがっている。
「やったねアンズ。けどあんな気持ち悪いのも配置されてるんだね。」
「私はさらにやる気が出てきました!」
…最近アンズの好みのスイッチがよくわからない。
まあ人の気持ちをそこまで理解できるはずもないのであきらめよう。
そして今度は私が不用意な発言をしてしまったことに気が付いた。
聞き耳を立てると周りでメカな敵もいるの?とか話しているのが聞こえる。
展示されていない機械についてうっかり言ってしまったせいだ。
アンズに怒ったばかりなのに私がやらかすとは…
ここはやはり30秒フラットで逃げるしかない。
「アンズ、次の階に行こうか?」
「時間ももう少し余裕がありますしもう一周ぐらい回ってもよくないでしょうか?」
おのれ…やはり途中の展示を引っ張って省略したのはまずかったか?
しかしざわざわがこちらに近づいて来る。
絡まれる前に脱出するしかない。
「次の階休憩エリアみたいだしメインイベントとやらの前に少し疲れたので休みたいなー。」
可愛く言ったつもりだったけどアンズからはかなり哀れみのこもった目で見られてしまった。
「ニミリそこまでお疲れでしたのね。わかりました少し休憩しましょう。」
心配そうに手を添えられそのままエレベータホールまで引っ張られてしまった。
私が可愛くするのはそんなにおかしいことですか…。
私の精神は深く傷ついたのは言うまでもない。




