52.14階 その1
「ぜぇ…今何階だったっけ?」
「ひぃ…ふぅ…た…確か12か13ではなくて?もうそろそろ着いてもいいのではないかしら?」
「…まだ9階ですからがんばってください」
息切れをさせながらも必死に上っていたのに、ウメに言われてまだ半分しか上ってないとわかると精神的に疲れがどっと溜まる。
延々と代り映えの無い景色が続くし聞こえるものと言えば自分達の足音ぐらいなもの。
そんな中階段を黙々と上り続けるというのはちょっとつらい。
これはどうにかならないものかな?
「はぁはぁ…!流石に同じ景色ばかり続いて黙々と階段を上るだけだと疲れも体に来るな。エレベーターが使えれば楽なんだが無理なんだよな?」
「本当は疲れていないはずなのに理不尽ですわ。この機能は無くしていいのでは?」
サカキさんとアンズも同意見なようでこの長い階段に辟易しているみたいだ。
ただしアンズの意見はゲーム上それを許す事は無いと思うけどね。
「そんな事したら全力で走り続ける人だらけの変な光景ができるけどいいの?」
「…それは美しくありませんわね?」
「スタミナの設定はみんな均等になっているみたいですし平等ですよ。それよりも着きましたよ?」
話しながらも足を動かしているとどうやら目的階へとようやくたどり着いたみたい。
目的地の扉もどの階のものとも一緒だし見た感じだけは不自然じゃないけど油断はしないほうがいいはず。
そうなると入る前に情報収集を試みたほうがいい、そうなると。
「さて扉を開ける前にだけど…アンズ、中の音どうなっているかわかる?」
「ようやく私の出番ですわね。ええ、任せてもらえるかしら」
アンズはヘッドフォンに耳を傾けて集中するとコクコクと頷きながら音を拾うのに集中する。
けど時間が経つにつれ自分の拾った音に自信が無いのかアンズは困った顔をして頭をひねり始めてしまった。
どういう事だろうと様子を見ているとアンズがその困った内容を口にし始める。
「うーん?よくわかりませんわね?」
「扉越しだから聞こえないとかか?やはり少し扉を開けたほうが?」
「いえそうではなくてですね。何と言えばよろしいかしら?」
どうも話があやふやである。
こういう時は分かっている情報から吐き出させるのがいいから…一個ずつ確認させるほうがいいよね。
「アンズ落ち着いて。まず音の種類や大きさは一種類だけ?」
「…違いますわね。七箇所から来てる足音はコツンコツンと靴の足音…今までの大きな目玉さんで間違いないと思うのですけど…一つだけ明らかに歩く音とテンポと大きさが違う方がいらっしゃいますわね」
「それだけではわからないです。もっとわかるようにお願いしますです」
ウメはちょっと効率のみ追及しすぎかな?
自分の欲しい情報を端的に欲しがるというのは間違ってはいないけどそれをうまく伝達できるのはその手の訓練を受けた人間ぐらいだと思う。
アンズからもたらされたこの情報だけでも既存のターミナルアイ以外に明らかに違うのが一体混じっているという事はわかるから後はその部分を詳しく拾っていけば明らかになるはず。
「その一体だけ違う個体がどんな足音をしているか…聞いたままの内容そのままでもいいから分かった事を口に出してみて」
私の言葉にアンズはもう一度ヘッドフォンに耳を当てて対象の音を聞き直す。
すると聞いたままの言葉をそのまま私達に伝えてくれる。
「タンタンとリズミカルな足音で…床を蹴る音が他より強いですわね?後は足音は前後から同時に聞こえますわ」
アンズの口からさっきより正確な情報がもたらされるとそれに対し私達の間で憶測交じりの話で議論が進んでいく。
「どういう事だ?あの目玉のモンスターはムカデ競争とか二人三脚でもやってるのか?」
「流石にそんな事は…無いよね?」
いや、あまりにも馬鹿馬鹿しかったのでサカキさんの言葉を勢いで否定したけど事実を確認するまではあり得ない事ではない。
実際にそんな事になっていたらまあ…私だったらそれを見た途端に笑い転げてそのせいで死にそうな気もするけど。
…まさかここのいびつな運営もそんな手で攻めては来ないよね?
そんな話を聞くと私も確認したくなったのでアンズからヘッドフォンを借りて聞いてみる事にする。
…なるほど確かに少し離れた位置で大きな足音が一定の間隔で聞こえてくる。
ターミナルアイはゾンビみたいに不規則に歩いているからこいつは明らかに別個体である。
この足音からすると…。
「可能性としてはそれも捨てきれないですが、それよりもアニマルのように四足歩行という線は無いですか?」
「私も聞いてみたけど前後同時に足を出しているからウメの推測があっているんじゃないかと思うよ?という事は新種がこの先にいると仮定して先にこいつの情報がもっと欲しいよね。方角はあっちの方かな?」
「ええ、私もそちらの方から聞こえましたので間違いないと思いますわ」
アンズも同じ方角を示したことから私と同じものを聞いていたのは間違いなさそう。
これならサカキさんにお願いすればその新種の姿も確認できそうである。
「うん、そういう事なら扉をちょっと開けてからサカキさんに録画モードでデジカメを置いてもらって中の様子を探るというのはどうかな?」
「モンスター以外にもフロアの地形のインフォメーションが必要です。それで行きましょう」
「わかった。じゃあ設置するぞ」
確かにウメの言う通りこの先の地形情報も必要になるよね。
扉をそっと開けてサカキさんにデジカメを中に設置してもらい、私達は撮影が終わるまでの間しばらく時間を潰す事にした。




