50.攻略計画
この集まりも3回目ともなり遅刻なく全員集まったのはいい事である。
だが開始早々既におかしい事になっているのはいただけない。
「それでは始めさせていただきます。攻略対象はE.Uビル。現在明らかになっている進入口は三箇所でして、地下駐車場、1F守衛室のある裏口、2Fの正面ロビーになりますわ。ただし地下駐車場は危険度が高すぎてここからは実質入れないとみています、ここまではよろしいかしら?」
いつの間にかサカキさんを押しのけてアンズが仕切ってるし…。
私達参加順からいっても最後だしあんまり主張が激しいのはどうかと思うんだけど?
「何でアンズが音頭取ってるのよ?サカキさんはどうしたの?」
私の問いに対しアンズは部屋の隅を指差す。
するとこちらに気付いたのか何とも言えない苦笑を浮かべながらサカキさんが小さく手を振っている。
「まあたまには楽させてもらってもいいかなと思ってな」
「ニミリ?このような些細な事で話を折らないでくださいませ?」
いや些細かな?
明らかに下剋上してしまっているような気がするんだけど他の人の反応は…。
「いやむさいおっさんが話を進めるよりこっちがいいぞ」
「そうよそうよ可愛い女の子がいるんだから有効活用しなくてどうするのよ!」
「という事でサカキは次回からお休みでも構わないからな?」
あ、まるで問題ない…というか何故か好評そうである。
けれどそんな事言ってると…あぁ隅っこで小さくなっていたサカキさんがさらに小さくなっていじけちゃったよ。
だがそんな男の事は気にせずアンズの話は続いていく。
「では話を続けます。探索可能な場所は1F守衛室から進入した先および2F正面ロビー付近になります。その範囲でどこを探索したいか分けていきたいのですが、私達はさらに上を目指して…正確には14Fへ進む予定ですわ。他の方はどうされますか?」
アンズが全員にやりたい事を問うと方々から声が上がる。
「私達も行きたいーー!」
「当然行くっすよ!奥の方がいい物ありそうですっすから!」
まあ普通のプレイヤーならそう反応するよね?
あれだけ銃火器などの軍用品を持ち帰れるならこの食いつきは予想できる。
「私は地下の閉まってた所に入ってみたいのだけれど…」
「ご期待に添えたい所なのですけど今の私には前しか見えておりませんのでまたの機会にお願いできますでしょうか?私も気になっているので確認は是非にしたいと考えていますわ」
確か高レベルのカードキーじゃないと開かなそうな部屋もあったよね?
スミノフさんも惜しかったね…アンズが資料を独占して目を通さなければそっちの可能性もあったかもしれない。
「俺等は2F3Fかな?探し残しがあると気になるから可能な範囲で回っていきたくはある」
「こっちも何か手がかりがあるかもしれないしな」
「上の方は聞いた所心臓に悪いから私もできればこっちがいいんだけど大丈夫か?」
男衆3人は堅実に探索範囲を広げていきたいのかな?
こういった地道な活動も重要な事だし是非とも頑張ってほしい。
「はい、出来る限り希望に沿うように進めていきたいのですけども…」
「Fu〇k!ヘイトを集め面倒になりそうな所で私を出さないでくださいです!」
…何故ウメをここで出す?
ムスッと膨れながらもウメは右手をグーにして皆の前に見えるようにしながら話し出す。
「奥へ進むたびに脅威が上がっていくと仮定するとですね。例えばものすごくいいアイテムを見つけて飛びつく方」
「お宝に飛びつくのは当然よね!?」
「指示を聞かないで次々と行動する方」
「任せてっす!ガンガン行動できるっすよ」
指を一本ずつ立てながら話を進めていくウメに対し桃さんとワズンさんが勢いよく飛びついている。
…けどこれってどう見たってねえ?
「…NGです」
「なんで!?」
「リスクを増やす行動をする方を連れて行く事はできません」
そりゃあもう何かやらかしたらあの気違いじみた植物の蔓が飛んでくるらね。
他の場所で行動している人にも迷惑がかかるしウメの言っている事はもっともである。
そしてそれはアンズの極力身内のみで挑戦したいという意図を補強する…上手にウメを利用したものだね。
「桃ちゃんはおとなしくしような?明らかにあっちの方が正論言ってるからな?」
「はいはいあきらめろあきらめろ」
そして他の人もわかっているのか二人を止めに入る。
だけどそんな中部屋の隅から声が上がる。
「あ、俺はついていきたいんだけど可能か?」
「サカキこの流れでてめえよく抜け駆けしようと思えるな!?」
おお?
話に全く加わってないけどこのタイミングで参加してきてこの要望…。
アンズの意図をどう覆すのかな?
「最初に話したろ?今回はイベント用の撮影が目的だって。指示は当然そちらで持ってもらって構わないから撮影だけ邪魔にならないようにさせてもらえないか?」
お、サカキさんは割としたたかに責めて来たね。
自分を参加させることの利点とそもそもの自分の目的を重ねてきたか。
さて、これを拒否するかと言えば…まあアンズでもそれはしないでしょ?
「情報収集の観点からも邪魔にならないならありと思います」
「そうですわね。…もちろん構いませんわ。映像記録が持ち帰れるなら色々と役立つかもしれませんし」
案の定ウメが利点を理解し、アンズはそれに追従する形で認めることになる。
だがサカキさんのこの動きに他の人達も黙ってはおられず色めき立ち始める。
「じゃあ私も課金して買ってくるから…」
「俺も俺も!クレカだからニ十個でも三十個でも!」
「桃ちゃん間に合わないから今回はおとなしくあきらめな?後そこも!そんなに個人専用アイテム買っても無駄だかんね!?」
…正直カメルさんのこの一言は助かる。
あまり大人数で挑戦はしたくないからね。
人数が多いとその分誰かがミスをする可能性が増えていき…それをフォローできるのはウメと…私はできるかな?
何にせよリスクは少ないに越したことはない。
「他になければ説明を続けますわね。エネミーの名前は…ターミナルアイでしたっけ?鈍足な人間と考えれば問題ないですけれど見られ続けるのは非常にまずいですわ。できれば気付かれる前に目を潰してください。もしできなければ…邪魔にならない所で死んでいただけると助かります」
「というと?」
「植物の茎に突き刺されるとそこは通行不可になります。すると道がどんどん潰され他の人が通れなくなってしまいます」
「あぁ…お陰で昨日帰って来るのにだいぶ苦労したらしいな?」
うんうん、確かにあれのせいで何度も帰るのが困難になるし、むしろ生きて帰れたのが不思議なぐらいに追い込まれたものね。
「俺達もとばっちりでやられたから言っている事はわかるけど…咄嗟にそんな判断できるか?」
…この意見はごもっともなんだよね。
私だって死ぬかもしれないというそのタイミングでそんな事気にする余裕があるかと言えば…無理である。
「まあできればでいいんじゃないかな?」
「まだ探索の終わってない場所では無理だしな…極力気を付けるで行こう」
こうして話は進み、大体のグループ分けも終わっていき三日目の攻略が開始されるのだった。




