9.オープン記念イベント -2F展示エリア-
見事にタワシをゲットした私とアンズはエントランスまで戻り、豪華なエレベータルームの扉の前で列に並び次のエレベータが来るのを待っている。
「まさか移動手段がエレベータしかないとか…。エスカレータとかせめて階段は使わせてくれたっていいのに。」
エスカレータは設置されておらず階段は全て「非常階段」となっており使用できないのだ。
いくらエレベータが十基あるとはいえもう少し融通を効かせてくれてもいいでしょうに。
「それで、アンズ下から回っていくけど問題ない?」
「問題ないですよ。配布アイテムは貰っておいた方がいいと思いますので時間になったら切り上げましょう。」
うん、残り時間を考えると本当に少ない。
電子音がチーンとなり開いた扉から私達は丸い箱の中へと入っていく。
各階に降りるので乗っている時間はほんの数十秒である。
まずは2Fである。
通路が二つにわかれており、それぞれ別の会場になっているようだ。
「アンズ、どっちから回る?」
「どちらからでも構いませんが私としては3Fが一番見たいので飛ばしても大丈夫ですわよ。」
それならお言葉に甘えて飛ばしちゃおうか?
けど一度降りた以上はざっと見程度でも回ってみるのもありな気が…。
結局流し見をするレベルで回ることでアンズと合意した。
とりあえずフレミング右手の法則に基づいて今は設定展示会場に来ている。
法則は全く関係ない?
なんとなく気分で言っているので気にしないでほしい。
「それで、ここが設定エリアかな?」
「いろいろと見れるようですが、その何と言いますか…。」
アンズの言いたい事はよくわかる。
開発資料であったものを雑多にぶちまけたというような感じの展示である。
入口の辺りはしっかりとしているのである。
一階の時と同じくNPCのお姉さんが積み上げられたデータベースや書類の山のオブジェクトの前で設定を朗読している。
『そもそもアンノウンディザスターオンラインは難易度でワールドを区切るのではなく。当初は浸食、感染を年度および進行毎に区切る方針でした。ところがそれだとプレイヤーはどこから手を付けていいかわからないのではないかと考え、じゃあ最初から難易度振っていけばいいやと運営チームは決定しました。ですので最初の方の難易度は低いですが「NORMAL」以降については人により難易度の捉え方に差が生じるのかもしれませんね。』
『実はどの変異生命体も工夫次第で力押しではなく勝てるように設定している…はずです。』
と言った裏話的なものはまだ面白い。
開発秘話やメイキングとでも言うべきかな?
時間があるならこういうのをもっと聞いていてみたい気がするがそれを許さないのでとりあえず奥まで行ってみる。
『今日も開発部長が新たなクリーチャー設定を持ってきた。完全にグロテスク表現に引っ掛かるんだけど本当にこれ会議通ったんですよね!?また問題になりそうな気がする…。』
『当社がゲームを公開すると〇〇党の××議員は、子供への悪影響および凶悪犯罪を助長・援助する目的で作成したゲームであると全面批判を展開。テロリストであると連呼し超党派を結成し、会社へのクレームのみならず社員への個人攻撃を昼夜問わず実施し非常に迷惑な事を繰り返します。さっさと消えろよ税金泥棒の害悪共め。』
『今日も徹夜…カフェインこそが我が唯一の友である。』
…これ社員の日記とか書いてあるけどこういうの公開していいもんでしょうかね?
実名まで書いてあるのもあるし。
設定部屋には興味ないのかちらほらと少人数しかいないから問題ないのか、ばれても問題ないのか…。
かなり危ない気がするのでひきつった顔のアンズとアイコンタクトを取りそのまま次の展示エリアにそそくさと移動する事に決めた。
移動してきた次のエリアは…アイテムの展示会場である。
ゲーム内情報に直結しているためか人があちこちまばらにいて展示品を観察している。
アンズとここはどう回ろうか相談してみる。
結果として、この二つの展示場はあわせて環状になっているためここを通過すればエレベータホールに戻ることができる。
ならば、時間も足りないのであれば全部見れるわけはないので何度も往復して全部見るのではなく一本道を決めて回ることに決定した。
→【食料品】
そう言えばさっきの抽選会にコシヒカリとかいきなり投入されていてびっくりした。
食料品の展示場にも缶詰やインスタント食品、挙句の果てに生魚、生肉も設置されている。
説明によると食べることは可能で味も現実のものを再現しており問題は無いとのことである。
では趣味品にとどまるかと言えばそうではなく、後日実装予定の機能に関係してくると記載されている。
また食料品は時間経過で劣化しない仕様らしい。
チーズを発酵させて作るのはだめという事かな?
「カップラーメンやインスタントカレーが食べられるというのは魅力的ですわね。」
アンズに言われて思い出す。
アンズの家はあんなに大きいせいかジャンクフードとか食べる機会が全くないんだよね。
たまに外出しているときは私とこっそり食べているけど付き人がいることが多いのでやはり少ない。
今は普通のプレイヤーには意味がない死にコンテンツかもしれないけどアンズにとっては利点かもしれない。
…そして端に置かれている小麦粉の袋。
お前はここではなく爆発物のエリアじゃないのかね?
→【マイルーム家具】
マイルームに設置するオブジェクトらしい。
ゲームとして利点がある物、あくまで家具としての価値しかない物の二種類に分類されるとのこと。
ホテルの高そうなソファーベッドやマッサージチェアは家具としての機能しかない物に分類されるらしいけど…。
「あぁーこのマッサージチェアいいわぁぁぁー。現実でも一台ほじぃぃぃぃ。」
「ニミリかなじお爺さんくさくなってますよ。」
アンズが苦笑しているが事実なので仕方ない。
横に設置されている顕微鏡や作業台なんかより私はこっちが早く欲しい。
このゲームでの目標ができた実に有意義な展示だった。
→【記憶媒体】
こちらはカメラやビデオやボイスレコーダーなどのレコーダー類とテープやディスクやメモリなどの記録する類の二種類に分かれている。
カメラで撮ったものはスクリーンショット(略称:SS)として公開できたり、ビデオで録ったものは動画として公開できるらしい。
一方記録媒体については記録媒体にセットして使う以外にも?
と説明が最後に小さい文字で書かれている。
こちらの方がどうも重要になりそうな気がする。
とりあえず私が今すべきことは一つしかない。
「アンズ、ちょっと背中借りるね?」
「え、背中ですか?」
私はアンズの回答を聞く前に背中にさっと近寄り後ろから競泳水着のひもを引っ張る。
そして展示しているカメラを間に入れる。
それを見ていた周囲の男性共は大きくどよめきをあげる。
アンズはそのいきなりの行動に完全にうろたえている。
「ちょ、ニミリどういうつもり!?」
「いやーうまく撮れるかなと思ってちょっと実験をね。」
私とフレンド設定をしているせいで触れることを逆手に取ったいたずらである。
安心したまえ、武士の情け?で撮影は三枚までにしておいてあげるさ。
「さあ!おとなしく撮影されたまえ。」
そしてカメラのスイッチを押そうとしたその時である。
顎から上へ向けて衝撃が走る。
「ニミリのばかー!」
切れのいいアッパーが完全に私の顎をとらえ、脳が揺さぶられる。
さすがアンズ…いい腕もってるね。
そして…運営、非交戦状態の設定はどうなってるのよ?
私はしばし気絶してしまった。
→【通信機器】
「ニミリの馬鹿…。」
「うん、ごめんね。」
また絶対やると思うけど謝る。
アンズもわかっていて仕方ないという顔をしている。
「とりあえず時間を無駄にしてしまったのは申し訳ないしさらに時間を切り詰めて見ていきますか。」
「わかったわ。ここは通信機器と書いてありますわね。」
携帯して持ち歩けるようなトランシーバーや無線機、一昔前の固定携帯電話であったりスマートフォンといったものがあったり、
果ては設置型の大型の軍用の無線機や訳の分からない小型のものまで置いてある。
「こんな大きいの使う人いるのかな?というか持ち運びどうするのこれ?」
「ねえ、ニミリこの小さいのどうやって使うのかしら?数字しか入力できないけど?」
わいわい騒ぎながら遊び倒してしまった。
→【乗り物】
自転車やバイク、何故か自動車をすっ飛ばして軍用装甲車が展示されている。
体験で乗ることはできず触るだけにとどまっている。
それでもこの会場の中では二番目の人混みを作り出している。
やはり歩いて移動するより高速で移動できるというのはメリットがあるし、車だと初撃の即死がドアやガラスで回避できるかもしれないのでお得感があるのかもしれない。
「さっきのロボットもこの中に含まれるのかね?」
そんな些細な事を考えつつ、展示物を運転できないなら時間を取っても仕方ないし、そのような時間は私のせいで元より無いので最後のエリアに向かう。
→【武器・防具】
やはりメインはここなのだろうか?
一番人混みがひどく、展示スペースも一番広い。
「アンズはどんなの見たい?」
「とりあえず私でも使用できそうなのは銃器でしょうか?」
引き金を引けばいいだけ…とか考えていそうだね。
実際引き金を引けば弾は飛ぶけど、まあ今ここで考えることじゃないね。
「じゃあとりあえずあっちだし見に行ってみようか?」
私がアンズを案内した先にあるのは各種銃器が雑多に置いてあるスペースだった。
触ることはできるようだがこちらも鎖がついていて持ち運びは不可能になっている。
「まあ、重さを知れるだけでも体験のし甲斐がありますわね。」
アンズさん、それはまあいいのですがなぜ拳銃を素っ飛ばしてアメリカ製の重機関砲を抱えようとしているんですかね?
しかもそれ私じゃなくて男性でも持って撃つのは難しいですよ?
できそうな人は映画の中の人物ぐらいしか私は知らない。
「ニミリ…私はどうやら銃も持てそうにありません。」
「はいはい、冗談はそこまでにしておいて拳銃と散弾銃とサブマシンガンの方触ってみてね。」
私は適当に置いてある銃をアンズに持たせていく。
なんか格好よく構えようとしてへにゃりと銃の重みで態勢が崩れてしまっているのが微笑ましい。
「私には無理のようです。」
そこで私はふと前回のveryhardを思い出す。
ああ、アンズを微笑ましくみてたけど私も全然変わらないじゃん。
「いいんじゃないのかな?どこかの誰かが言ってた気がするけど逃げるというのも立派な戦法な一つだよ。」
そう助言していると何か視線を感じる。
首をまわして周囲をゆっくりと見回すと、こちらを見ているプレイヤーがちらほらいる。
恐らくアンズの衣装が目立ったせいで注意を引いてしまったと思われる。
仕方ない、このフロアの展示は終わりだしさっさと次へ移動してしまおう。
銃が上手く扱えなくて不貞腐れてしまったアンズの手を引いて私達はこのフロアを後にした。




