44.
「は…え?」
予想もしていない光景に私の口から間抜けな気の抜けた声が漏れ出してしまう。
やっとこさ強敵を倒したと思ったらウメが目の前で死んだ。
そう、あの金属のように硬い黒い植物の茎に串刺しにされて…という事はですよ?
私は慌ててゲートの方へと振り向く。
すると目玉の化け物が数体ウメのいた場所を凝視しているのが確認できる…できてしまった。
あれだけ盛大に炊かれていた煙は既に晴れきっており私達との間に視界を遮るものが一切無かったのである。
そう、目の前の強大な敵に集中しすぎてそれ以外の事がおろそかになってしまったという事なんだよね…。
「あ…!?追加のスモークグレネード投げるの忘れてた!?」
「ちょっとどうするのですニミリ!?あいつ等がこちらを見られたらお終いですわよ!」
そんな事言われなくてもわかってるし、それに対応する時間があまりにも無さすぎる。
今から目玉の化け物達を全部排除するというのは…これは無理だね。
これだけ離れた距離をしかも複数全てを倒しきるのは撃つのが下手な私やアンズでは絶望的だ。
となると逃げるしか手はないんだけど…逃げ切れるかな?
こちらもエスカレーターまで距離がかなりあるけど間に合いそうもないし…どっちに賭けるにしても分が悪いんだよね。
けどその中からあえて選ぶんだったら…よし逃げよう!
最悪アンズを犠牲にすれば私だけは行けるかもしれないしね。
「アンズ!エスカレーターまで走って正面から逃げるよ!」
「え?あれを倒せばいいのでは?それよりも荷物が重くて速く走れないのですけれど!?」
あ…そうか荷物は捨てたほうがいいかな?
確かにこれを捨てれば生き残る確率は上がりそうだよね。
私が背負っていたバッグを投げ捨てようと走る速度が鈍った…その時である。
何故か足元からガラガラと破砕音が響いてきたのである。
「え?」
思わず足元を見ると大きくひび割れて床が抜けかけている。
いやいや高層ビルのフロアの床だよ!?
そんな簡単に壊れるわけはない…と考えたけど階段への扉の前に刺さっている大きな茎とつい今しがたウメを貫いた大きな茎…結構近いからその間が壊れて割れてしまったとしてもおかしくはない?
「まず!?ここ崩れるかも…って言うか落ちる!?」
「ニミリ!?ニミリまで冗談のような理由で脱落は止めていただけないかしら!?」
手を伸ばしながらそんな事言われても既に崩れた床を踏み抜いて既にバランスは崩れてしまっている。
仮にアンズの手に掴まって体勢を立て直せたとしても、この状態から逃げるのは無理じゃないかな?
ここはおとなしくあきらめて…。
…あれ?
いやいやちょっと待った…正面から逃げる事しか考えてなかったけど…もしかしたら落ちたほうがいいんじゃないのかなこれは?
落下したら怪我はするかもしれないし、ひょっとすると死ぬ可能性もある。
だけどこのまま走ってもほぼ確実に間に合わないだろうしその場合はあの金属より硬そうな植物の茎が目にもとまらぬ速さで串刺しにされて確実に死ぬんだから…。
うん、落ちれるならこっちの方がいいや。
そうと決まれば後は落下に備えるのと…。
私を助けるつもりで伸ばしている手を掴み…そのまま引きずり込む。
「ちょ…ちょっとニミリ!?わざと私も巻き込もうとしていないかしら!?」
残念ながらそのつもりでやっているので否定する必要はない。
だが今回は珍しく善意なのでおとなしくアンズも一緒に落ちてもらいましょうかね!
「ここまで来たなら一緒に落ちようねアンズ!」
そう私が言ったタイミングで床が裂け重力に任されて手を繋がったまま二人共一緒にフロアを一つ二つと落下していく。
…私が思った以上に下へと落ちたようで最後にばきりと割れる音が鳴り、それと共にお尻に激しい痛みを感じて全身に打ち身の衝撃が駆け巡る。
そして周りが白一色になるぐらいにコンクリートの埃が舞っていて何も見えない。
床が水場ではないから地下駐車場まで落ちたという事は無いと思うけど…そこまで落ちたら落下死しているかな。
まあ逃げ切れたみたいだし生きているし…死ぬよりはましなのでとりあえずはよしとしますか。
時間と共に痛みが若干ひいて動けるようになってきたのでとりあえずコンクリート片をどけながらどうなったのか確認する事にする。
まずは自分の体…痛い事は痛いけど幸いな事に動きに支障が出る怪我はしていないみたい。
そして薄っすらとコンクリートの煙の向こうに見えるのは、倒れたホワイトボードや割れたガラスが散らばっている。
それに散乱している丸椅子やに…お尻の下では割れてしまった木製のテーブルが目に入る。
うーん、これだけだとどこか特定はできない。
他に情報は…。
「いたたたた…ニミリ!どういう事か説明いただけるかしら!?」
背中からアンズの怒りを含んだ声が響いて来る。
どうやら無事だったようで何より、私も巻き込んだ甲斐があったね。
「どうもこうもあのまま走ってても間に合わなかったと思ったから助けてあげたんだけど?」
「それは…そうかもしれませんわね。けれどニミリ?かなり悪い顔をしていましたようですけどその辺りについてはきちんと説明いただけるかしら?」
どうしよ?
いたずら心があったのは事実だしどう言うかな?
素直に認めるのも癪だし…落ちてきた事をどう…あ、そうか落ちてきたんだから上を見ればここがどこかわかるよね。
私は今できたばかりの落ちてきた穴を見上げる。
まず一階層ぶち抜いていて…その上に…げ!?
私はこちらを見下ろしている目玉の化け物に気付きすぐさま拳銃を上に向け乱射する。
けど体の状態が万全でなかったせいもあるし慌てていたせいもあるけど全く当たらない!?
「ちょっとニミリいきなり何ですの!?上に何か?」
アンズも軽く混乱しながらも状況把握し始めているようだけどこれはまずい状況になっていると確信する。
このまま撃っても当たらないし逃げるしかなさそうだね!
どこへ走り出すか辺りを見回していると…
「こういうピンチな時には爆発する物を投げればいいのですわ!とりあえず…えい!」
え、ちょっと待って?
爆発物?
それをノーコンなアンズがえいってどういう事?
思わず振り返ってアンズを見ると何かを投げた体制になっている。
そして上を振り向くと…アンズが投げた手榴弾が上のフロアまで届かず途中の天井に当たって跳ね返ってきてる!?
…ちょっとアンズーー!?
あ…これ死ぬよね?
私は無駄だとは思いながらも両耳を抑えて咄嗟に伏せる事にする。
その直後、背中の方からはまばゆい光と共に甲高い破裂音が響いて来る。
結構近くで爆発したけど生きてるって事はアンズが投げたのはスタングレネードかな?
耳は塞いだけど少し頭がくらくらする…けど動かなければという思いからとりあえずアンズに問いただしの声をかける事にする。
「ちょっとアンズ!投げるならきちんと相手に投げてよ!?」
「目が見えませんし何も聞こえませんわ!ニミリどこへ逃げればいいのかしら!?」
どうやらやらかした本人は何も聞こえないし見えない状態らしくうろたえた声をあげながらジタバタとしている。
…この分だと私の文句は聞こえていないよね、はぁ。
けどいつまで待っても私達が突き刺されて殺されていない事に気付くとふと上に視線を向ける。
そこには私達を見下ろしていた目玉の化け物の姿は無く、床を叩きながら暴れているような音が響いて来る。
よく考えたら視認されて判断されてからあの植物の茎で攻撃されていたから…結果的にあっちの目を潰せたので助かったのかな?
現にこれだけ時間を無駄にしていたにも関わらずまだ生きているし…これはアンズの怪我の功名だったかもしれない。
私はまだ視界が回復せずに暴れているアンズを引っ掴むとそのままひきずって落ちてきた小部屋を後にする事にした。
全く更新できておらず申し訳ありません。
続きについては今しばらくお待ちください。




