20.和解斡旋
地下駐車場での失敗劇から一晩明けて…ゲームの続きをするのではなく、私は今電話をかけている。
「杏子?最近行動がおかしいけどどうしたの?やってはいけない事をやるのはまあゲームの中だからある程度はいい…けど喧嘩腰なのはちょっと問題あるんじゃない?」
当然、杏子の行動についてである。
これがいつものふざけあいレベルだったらわざわざ電話をかけて注意までしない。
昨日シャーリーさんがゲーム終了後に若干顔が曇っていたのが致命的だった。
まああれだけ一方的に突っかかられたら流石にイラっと来るのはわかる。
…そしてそのぎくしゃくが他に伝わった場合どう取られるだろうか?
最終的に私がゲームをするのを許可して喧嘩の原因を作ってそれを放置していたと私の責任に捉えかねられない。
人間関係だから自然解消もあるかなと思ったけどもう釘をさしておくしかない。
言い方は悪いけど自己保身のためにも言う事はきちんと言っておく必要がある。
「それは…理解していますけれど」
流石に杏子にも自覚はあるのか後ろめたく返事が来る。
よし、ここは相手が弱気なうちにたたみこんでしまおう。
「それなら私が何を言いたいか、求めているかもわかるよね?」
明らかに底冷えするように少し迫力がある口調で要求を通すように伝える。
今回は本気だぞという圧迫するような圧力をかける事約数分、最初ははぐらかしていたけどやがて耐えきれなくなったのかようやく杏子からあきらめの声があがる。
「うぅ…わかりましたわ」
よし、杏子の言質を取った。
後は今晩きちんとこれを履行してもらうように目を光らせておけばいいかな?
そもそも何で私がこんな事をしなくちゃならないのよ。
「けど…そもそもニミリが…」
…?
考え事をしていたせいでよくわからなかったけど微かに声が聞こえたような…気のせいだろうか?
私は確認を取るために再度話しかける。
「何か言った?」
「何でもありませんわ」
そういうと通話が切れてしまった。
…まあ些細な事でしょうきっと。
そして数時間後のマイルーム…部屋の中央には渋い顔をして目を閉じたままのアンズとムスッとしたウメが向かい合っている。
まあウメなんか一方的に責められてたからね、ここまで鬱憤が溜まってしまったのは仕方ないというか自然な事だと思う。
けどどうして私はその二者の中間で理不尽にこの重い空気にさらされているんだけど…早く終わってくれないかな?
どうしてこんな事になったのか…原因となった者を問い詰めたくもある。
それにこの数十分前に一悶着あったしね。
『こら!薬液漬けにされたと思って出てきたら誰もいなかったんですけど!?どういう事なん…』
すっかり忘れていた緑色のボール状の生物が言い終わる前に私はベルトコンベアーの存在する部屋に叩き込んで部屋に鍵をかけておいた。
これから始まる事の邪魔にしかならないからね。
少し早めに来ておいて正解だったよ。
部屋の清掃をしたという余談はさておき、ウメに気付かれないようにアンズがチラチラと私へ目配せして来るけど今回は助け船を出す気は一切ない。
非がアンズにしかないからね。
それにしてもいつもなら能面を浮かべて表向きはあっさりと謝罪をするのに時間がかかり過ぎである。
…早く終わってください。
そう願い続けて幾ばくかが経過しやがて観念したのかアンズがかなり苦い顔を浮かべて…そしてあきらめた顔になり、顔から力が段々とぬけていき、最後には若干不本意ながらも申し訳なさそうな顔に変えて頭を下げた。
「私の行いに行き過ぎた点がありましたわ。許してとはいいません」
「え?」
…ウメは納得いってなかったようだけど、杏子が感情を乗せて謝罪するなんて私は珍しい物を見てしまった。
これまでにそんな事何度あったかな?
少なくとも指で数えれるぐらいしかないような…。
まあ私が驚くよりも問題はウメがこれをどうとらえるかである。
…こんなそっけない謝罪を受け入れるのかな?
ちょっとまずいかもと思って見ていたら、ウメはアンズをまじまじと見て…その後、怒りを散らすかのように大きく息を吐いていく。
そして息を吐ききるとウメは困り笑顔を浮かべながら話し始めた。
「オーケー、とりあえず謝る姿勢があるのがわかっただけよかったです。昨日までのマイナスはどこかへ保管しておきますので今日からよろしくです」
…そりゃそうよね?
これでプラスマイナスゼロになるという方がおかしい。
けど、幾分かは今よりはましになるかなと…少なくともこれ以上ギスギスさせようとはしないかなと期待を抱きつつも次の事を考える。
そう…あそこのビルどうやって攻略すればいいのかな?
試行錯誤を繰り返すしかないのはわかるけど方法が力任せだけというのはどうもね…。
考え込んでもいい答えが出ないため、話題転換も兼ねて独り言を兼ねた問いを発してみた。
「さて…どうやって昨日のあそこ抜けようか?」
「全員にトレーニングするのが一番ではないです?」
すぐに返って来たウメの案が最もよさそうな気もする…。
それで通すしかないかなとあきらめているとアンズから平坦に声が返ってくる。
「ええ、その事については大丈夫ですわ。既に手を打ってありますので問題ありませんわ」
…?
いつもなら私が解決している荒事をアンズが解決済み?
ちょっと気になるけどあまりよい打開策は考えていなかったから期待して待たせてもらおうかな。
そう考えながら三人揃ってマイルームから移動した。
いつも誤字報告いただきありがとうございます。
反映しました。
追加で申し訳ないですが、振り仮名およびサブタイトルは必要でしょうか?
振り仮名は難しそうな感じの初回時に振るようにしていますが問題なければ次回以降カットします。
サブタイトルは私のネーミングセンスがないため問題なければこちらもカットしたいと考えています。




