6.オープン記念イベント -エントランス その2-
「…誰?」
至極当然の質問をする。
ゲームが始まってはや二日、知り合いといればアンズの他には先ほど総合研究所で会話したお兄さんたちしかいない。
まさかこんなにぎやかな場所でこんないかれた格好をした女性二人に声をかけてくる男性がいるとは思わなかった。
「おおっと、お嬢様方を警戒させてしまいましたか。失敬、私プリペンとゲームでは名乗らせてもらってます。」
キャラメイクとしては少し色黒で金髪に染めており…一昔前のチャラさというものを感じさせる男である。
軽薄に笑いながらこちらを安心させるような笑みを浮かべながらもしっかりと獲物のように見据えている。
「どうやら、見た目そのままの職業の方に思えますけど何か御用でしょうか?」
私の答えにあちゃーと顔を抑えて男が天を仰いでいる。
何かやましいことでもあったのだろうか?
「そりゃあ失敬しましたわ。確かに仕事は夜の方をやってるんすけどね。しまったなぁ癖が出てしもうてたかー。」
頭を振りかぶるとそのままこちらに再度顔を向けてくる。
今度は目の奥に獲物を狙う鋭さは無い。
「いやね、ばれてしもうたけどこういう職業って話のタネっていうのは大事でな、それの仕入れに来とるわけよ。そこにまあ普通では選ばないような衣装着てる人を見かけたらまあなんかおもろいこと聞けるかな思うてな。」
あー、アンズが競泳水着とかふざけた衣装選択したせいで逆に目をつけられてしまったのか。
アンズめ仕方ない奴め…という視線をアンズに向けると何故かアンズもこちらに同様の視線を向けている。
…解せぬ。
「それにやっぱ会話するんわ女の子のほうがかわええしな。」
最後のそれが本音であろう。
歯を見せながらすっきりした笑顔を向けてきている以上嘘偽りなさそうである。
「そうそうさっきの話の続きやけどたかが蝶ネクタイ、変声器もついてないもんやけどこれだけでもおしゃれの度合いはえらい変わるねんで。」
プリペンと名乗った男がさっと腕を上げある方角を指さす。
指さした方に私達が視線を向けると…え、何あれ?
アンズなんかはプッと噴き出しており少し顔を崩してしまっている。
「御覧の通りこの蝶ネクタイ体のどこに着けるのも可能なんであの人みたいに尻にくっつけるのも可能やねん。いや、どこでもはちゃうな…昼にズボンの前につけた奴がおってゲームマスターに連行されてそれからそこには付けれんようになったな。」
力の入れ先がこちらも誤っているとしか思えない。
しかしおしゃれか…こういうゲームでおしゃれって意味があるのかね?
「まあ、頭にも付けれるし基本おしゃれアイテムとしての汎用性は高いわけや。せやから…」
…しまった話にのまれてしまっている。
ここで会話を続けると結果的にイベントをまわる時間が潰されかねない。
ただでさえ私の用事で時間が潰れてしまっているのに。
「すみません、お話は楽しいのですが遅く来てしまったこともあり時間が…。」
私の返答に男はハッとして会話を止める。
多分職業柄引き込むような会話が得意であり、止まらないのではないかと思われる。
「しもたな、確かにこの後最上階の特設エリアでなんかおっきいイベントあるみたいやし来たばっかりなら時間も足らんやろうし…、すまんな時間取らせて悪かったわ。」
男は素直に頭を下げて謝って来る。
まあ話に聞き入っている私達も問題があるしアンズが笑わせてもらったのも事実だしむしろ楽しませてもらったとみるべきだろうか?
「いえ、こちらも笑わせていただき楽しませていただきましたので問題ありませんよ?」
アンズが適切に回答してくれた。
こういった機微はアンズの方がやはり強くて頼りになる。
「じゃあ一つ俺からアドバイスしとくわ。イベント内容確認すると思うけど、先にこの先まっすぐ行ったところにあるイベントスペースで並びながら確認するとええで。待ち時間も潰せるし一石二鳥やで。」
指さした先は、受付の横の通路である。
確かに奥の方へ向かう人も戻ってくる人も多い。
「ほな、縁があったらまたなお嬢様方。」
そう言うと男は次の何かを探し始めたのだろうか?
また鋭い狩人のような目つきで辺りを見回し始めていた。
「とりあえず言われた通りまわってみませんか?」
他人に言われた通りというのはいまいち面白みが少ない、奥の方がにぎわっているのは確かに気になるので先ほどの誰だっけ…の提案に従ってそちらへ向かってみることにした。