13.釣り その2
ウメのノープランな大声で何が押し寄せて来るかと心臓を締め付けられるように焦りながら待つ。
隣でニコニコとまだかまだかと待っているウメの神経が羨ましい。
アンズも珍しく顔が引きつっている事からこの能天気な行動は想定外だったに違いない。
そして数分が経過すると…暗い穴からお姿を見せたのは私達の身長の半分ぐらいの毒々しい紫色の皮膚をした蛙である。
普通の蛙と違うのはSF映画の宇宙人のような尖った耳がついていて、目が両側にあるのではなく一つ目小僧のように巨大な瞳が中央に一つだけあるという事かな?
…というかこの糞蛙…見覚えがあるんだけど?
「私こいつに足踏まれて骨折られた記憶があるんだけど?」
「奇遇ですわね?私もか弱い女の子を丸呑みにする下種のような気がしますわ?」
うん、結構思い出して来たよ。
あの時は散々こちらを痛めつけて逃げていったからね。
仕返しをできると考えると多少のやる気は出るものだ。
「オー?あれとお知合いですか?」
「うん、アンズの言う通りの糞野郎で間違いなかったよ。だから何をしてくるのかも予想がつくかな?」
既出の化け物が来るというのはこちらが情報を持っているからやりやすいよね。
お知り合いだからこそ対応がしやすいのはありがたい。
紫蛙もこちらの姿を確認し私達を獲物と認識したせいか、人間の身の丈程に大きく口をぱくりと開ける。
そしてそこから緑色の長い舌が飛び出してくる。
「やっぱりこの蛙は舌が主な武器ですわね、二度も同じ手に…あら?」
アンズの言う通りこいつは遠くからは舌でしか攻撃してこないし、反撃したらすぐに逃げ出す臆病者である。
ゾンビと違って知識があるので逆に組みしやすいともいえる。
…最も手の内が明らかでも対応できない人もいたようだけど…。
ぴっちりとしたライダースーツを着込んだアンズがしまったという顔をしながらネバネバの舌にグルグル巻きにされている。
一部の人にはそそられて需要がありそうな光景が目の前で展開され…しまった私もサカキさんと同じようにカメラ買っておけばよかった!?
だけどこのような失敗に落ち込んではいられない。
何せこうなればいいかなと思ってた絶好のシチュエーションが今目の前で展開されているからね!
アンズが蛙のお腹の中に美味しくいただかれる前に私は蛙の長く伸びきった舌を掴むとそのまま綱引きの要領で下へ後ろへと体重を預けて引っ張る。
『Ge!?』
蛙もすんなりと引き込めると思っていたのか足元が揺れてバランスが崩れる。
しめた、蛙がふらついている今が好機!
「ウメ!」
「オーケー!」
私の声に呼応してウメが駆け出す。
蛙が何とかバランスを取り戻そうともがき何とか両足を安定させた次の瞬間、そこには一足に蛙の懐に飛び込んで腰だめに拳を振りかぶっているウメがいた。
「その殴ってくださいと主張しているビッグアイをいただきまーす!」
言うや否やウメの拳は蛙の眼球に突き刺さり紫色の体液を撒き散らす。
『Gueko!?』
潰れたような汚い呻き声を上げると蛙は崩れ落ち、地面でジタバタともがき始める。
ここまで来ると完全にこちらの流れだ。
…掴んでいた舌を地面につけるとそのまま足に体重をかけて踏みつける。
「ウメもこれ引っ張って!アンズはその辺転がって邪魔にならないようおもりになっておけばいいよ」
「私の扱い雑ではなくて!?」
雑に扱われたくなければ最初から見え見えの攻撃に捕まらなければいいのに。
ウメも少し戸惑っていたけど納得したのか舌を掴んで引っ張り始める。
だって穴からまた新手が来ないとは限らないからね。
安全な場所でとどめをさす方がいいと判断し、その判断に従う。
「ぬめぬめして気持ち悪いですわ!」
まだアンズが文句を言ってるけど重要ではないので無視で大丈夫かな。
「我慢我慢!もう胃の中まで経験済みでしょ!?それよりもあいつを引きずるよ!」
「了解です!こちらのフィールドまで持ってきちゃいましょう!」
そう言うと二人でわっせわっせとのた打ち回る蛙を引きずっていく。
苦しそうに呻き、じたばたともがいていたけど視界が定まらずどちらに逃げていいかわからないようで悪あがきと見て取れる。
そしてこちらの手が届く位置まで引っ張り切ると、舌を力強く踏みつける。
『Guxe!?』
踏みつけられた舌から痛みが通ったのか更に苦悶の呻きを蛙があげるがそれに同情する人間はこの場にはいない。
光を失った蛙を見下ろしているのは二人の人間と一人の恨みつらみを持った人間しかいなかったのだから。
その後一方的に念入りに暴力を処方された紫蛙はというと…完全に動きを止めてしまっている。
体はあちこちズタボロであり、これが人間だったら悲惨な現場となっているでしょうね。
状態がいい方が納品でもらえる報酬もいいというのに勿体ない。
まあそんな事より今大事な事はというと…。
「さあ帰ろっか?これを床が光ってた場所まで持って帰ると報酬がもらえるからね」
「これを運ぶのですか?…まあ獲物は持って帰るのがマナーですけど…これ食べるのです?」
「食べないから!」
一狩り終わって息抜きに軽い漫才を終えると私とウメは紫蛙を掴むとハシゴの所まで引きずっていく。
それを唖然としたようにアンズが見送っている。
「あれ?もうよろしいのです?」
「オールライト。出来ればそこで時間稼ぎをしてもらえれば助かります」
アンズはウメが何を言ってるのかわかってないのかな?
いやわかってないねこれは。
私は親切心からアンズの背中を指差す。
「後ろよく見て。お客さんがいっぱい来てるよ?」
アンズが首をかしげながら後ろを振り向くとようやくどんな事態になっているのか理解したようだ。
「ひ!?なんですのこの数は!?」
そう、さっき蛙と暴れたので発生した騒音のせいかそれとも最初のウメの大声のせいかはわからないけど化け物の団体様が御着きなのである。
ぶくぶくに膨れた水死体のゾンビが一番多いけどさっきの蛙や人の手を付けたイソギンチャクのような見た事もない化け物も含まれている。
その数見ただけで軽く十は越えていているし…素手でやり合う気は一切起きない、というか無理である。
それなら三十六計逃げるに如かずである。
「ソー、これどうやって上まで持って行くのですか?」
「私が先に上がって上から引っ張り上げるから…」
「ちょっと!?私を見捨てて話を進めないでくださいまし!」
まあ結局のところアンズが足止めをしてくれなかったせいで私達は仕留めた蛙を持ち帰る事は出来なかった。
その後は時間も押していたのでそのまま解散。
いつも以上に疲れた私は深く眠りにつくことになってしまった。
けどこれでなんとなくウメもこのゲームがろくでもない事を理解してくれたに違いない。
…理解してくれたよね?
誤字訂正および感想いただきありがとうございました。
誤字訂正はいつもお世話になっておりありがとうございます。
感想いただけてまだ続き書いていいんだな・・・と思える事が出来ました。
厚く御礼申し上げます。




