2.キャラメイキング
「ああ、昨日杏子ちゃんが来てたのはそれが理由だったのね?ゲームは別にいいけど九時にはやめなさいよね?うちは電気代、夜の方が高くなるように設定してあるの知ってるでしょ?」
昨日の件を母に話したら見事に釘をさされた。
いや、逃げるためのいい口実を手に入れたと思えばむしろありがたいのか?
晩御飯も終わりお茶もすすりゆったりと時間を潰して部屋に戻ると意を決して眼鏡を外してヘッドギアをかぶる。
そのままVRマシンを起動させると電子的なメッセージが表示され、やがて意識は電子世界と接続されていく。
ゲームへの接続が完了したのだろうか?
そして電子の海のような紋様の流れる速さが穏やかになり無機質な音声が流れる。
『アンノウンディザスターオンラインへようこそ、まずは利用規約への同意をお願いします。』
私の目の前に長ったらしい電子文書が表示される。
他のソフトウェアと大体同じだろうと同意にチェックをつけてそのまま同意するボタンを押そうとすると、警告メッセージが表示される。
他のソフトウェアと違う点として過激な描写に対してショックを受け過ぎた場合には心音判断から直接救急へ連絡が行くことへの同意も含まれるということだった。
確かにこういうの弱い人はそもそもやらないと思うけど私みたいに誘われることもあるだろうしこれは必須かなと思える。
むしろこういうのを組み込んでいたからサービス開始まで時間がかかったのではないだろうか?
再度ざっと見して同意ボタンを押すと、次の音声が流れる。
『次にあなたが実際に操作するアバターを作成していただきます。操作の違和感を無くすため身長の変更はお勧めしません。また、容姿については必ずあなたの顔から離れた設定に変更してください。これは現実でのトラブルを避けるために必要な措置のためご協力をお願いします。』
確かに同じ顔でプレイしていた場合、ゲームの動画に映りでもしたら社会的に影響が出かねないし納得である。
…変更しろと言われたのなら仕方ない、現実ではできないようなスタイルにしてみましょうかね!
髪の色は深緑にしてしまおう、現実では絶対にやらないからね。
そして髪型は…前はカールさせて後ろはロングのツインテールとウェーブにしてしまおう。
長く伸ばすってのもなかなかできないからゲームの中ぐらいではやってみよう。
まゆもネタに走るのも悪くないかも…形をいじれるから一昔前のアニメに有ったたくあんの眉毛とかも面白いかもしれない。
顔が今の私の物からかけ離れていく中で私は体の部分に注目する。
ゲームの中ぐらい…か、そうだよねゲームの中ぐらいはもう少しスタイル良くてもいいよね?
少しぐらい胸を盛っても…、少しぐらい腰回りを細くしても…、少しぐらい腰の位置高くして足を長くしても…。
私の欲望が垂れ流しになったせいであろうか?
予想していたよりもを時間をかけて私のアバターは完成した。
改善を重ねただけあって現実の私では成しえない美人に仕上がって満足である。
『アバターを決定します。これでいいですか?』
確認メッセージが聞こえたためOKを選択する。
『ゲーム内のネームを入力してください。当然ながら本名またはそれを連想する名前はお控えください。』
…うーん考えるの面倒だし愛称をそのまま使用してしまいましょうか。
『プレイヤー名は「ニミリ」でよろしいですか?』
こちらもOKを選択する。
『では初期衣装を選択してください。こちらの初期衣装はデスペナルティで失うことはありません。』
…うん?
デスペナルティですか?
「このゲームはデスペナルティ存在するのですか?」
『はい、それは次のチュートリアルで説明する予定ですが先に少しだけ説明いたします。このゲームでは基本やられた場合は所持している全アイテムをロストします。基本というのはやられた場所に遺品として十分間だけ所持アイテムがまとめておかれていますので優しい人が近くにいれば拾ってくれてひょっとすれば返してもらえるかもしれません、けど返す義務はないので拾った人に詰め寄るのは迷惑行為で規約違反とみなされますので注意してください。また、デスペナルティとして十分間強制的にログアウトしていただきます。これはゲームの内容と健康への配慮のため一度リフレッシュしていただく必要があるためです。』
ふむふむ、その内容だとやられた後に初期衣装がない場合は裸で再ログインになると…。
どこのストリップでしょうそれは。
それを適用したら間違いなくジャンルはアダルトVRMMOですね。
まず下着はほとんどについているようである。
そして肝心のリストを確認していくとブラウスとGパンのセット、カーディガンとスカートのセット、セーラー服、ブレザーとミニスカのセット、OL用のスーツセット等のこの辺りはわかる。
スクール水着、体操服とブルマのセット、メイド服、うさ耳とバニー服のセット、和服、幼稚園服…
悪目立ちどころかどういうつもりで作成したのか理解に苦しむラインナップが勢ぞろいである。
ゲーム中では…とアバターメイクの時には思ってたけど流石にこれを選択するのは…。
「参考までに聞くけど男性は?」
『Tシャツと半ズボンと下着のみです。下着はブリーフとトランクスとおむつから選べます。』
…女尊男卑にもほどがある。
男性にも選択の自由を与えてあげてよ。
『女性をブラジャーとパンツで放り出すのはセクシャル的に問題がありますので当然の措置です。初期衣装以外の衣装に着替えてその衣装をロストした場合も次回ログイン時は自動で初期衣装に戻ります。また初期衣装はある程度破損しますがセクシャルに関わる以上は破損しません。』
確かにそうかもしれないなと納得しかけたけど、男性だけそう言う格好もセクシャル的に問題あるのではないかと私は思う。
それに女性の衣装の力の入れ具合を見て思ったがこの内容のゲームを物好きでやるような女性はめったにいないと思うんですよね。
力の入れ方間違えているのではと思ってしまいます。
…おっといけない、早く決めないと杏子に文句を言われかねない。
どれにしましょうか…お、これなんかいいかもですね、普段男性しか着ないような衣装ですし興味があります。
『初期衣装を執事服(女性用)で決定します。よろしいですか?』
動きやすさでライダースーツかこれでかで悩んだがライダースーツはそう…体の輪郭が全体にくっきりと出て恥ずかしかったのである。
まあこちらも胸元はひらけているし下もズボンではなくタイトスカートなので生足は出ている。
割と五十歩百歩のような気がしなくもないけど…。
細かいことを気にするのを止めた私はOKを選択し、キャラメイキングを進める。
『音声はサンプリングした物を使用しますか?それとも自分の声を使用しますか?』
どうやら声優が収録した音源で発声することもできるようだが、それだと杏子が混乱するだろうからここは地声でいくことにする。
『痛覚設定は十パーセントに固定されており、変更できません。』
痛覚設定を切ることはできないらしい。
確かに感覚というのは今世代のVRMMOの最大の売り文句だ。
お散歩ソフトやお茶のソフトも前者は風の流れや自然の匂い、後者はお茶の温度と味、それぞれ非常にうれしい物だった。
けどこのゲームだと全然喜ばしくない。
痛いのが嫌な人への救いはないのでしょうか。
それはともかく選択肢がない以上は次へ進むことにする。
『ではチュートリアルへ進行します。』
その音声と共に世界が光に包まれた。
おっかなびっくり書き続けています。
書き終わる時間がこの時間だと更新方法を少し考えたく思います。