9.合流
さてと、ここまでは幸運も重なった事により外への捌け口も作る事が出来た。
後はこの爆発しそうな二人をどうにかすればいいだけだね。
…まあ本当に幸運ならそもそもこんな厄介な事になっていないかな?
まずは…落としやすそうな方から落としていこう。
ウメの方へ笑顔を貼り付けて振り向くと私はにっこりと諭していく事にする。
「ウメはそもそも何をしに来たのかな?ゲームをするためじゃないの?そうだとするなら喧嘩をするよりも大人数で遊んだほうが楽しいんじゃないかな?」
「イグザクトリー…ケリがつかないのはもやもやしますけどそもそも遊びに来たのですからそっちのほうがいいですよ?」
私の問いにウメは少しうろたえるけど渋々ながら同意を示してくれる。
まだ納得はいっていないようだけどとりあえずこちらは落ちたね。
後は問題児…ではなかったアンズの方である。
私はまだ怒りでむくれた表情をしているアンズの方へ振り向くと突き放すように言葉を突きつけていく。
「そういう事なので今からサカキさんの所に行ってくるけど問題はないよね?先ほども言ったけど私達はゲームをしに来てるのだから」
「いえ、そうではなくてですね私が言いたい事は…」
わかります、わかりますとも。
こちとら杏子と何年の付き合いだと思ってるのですかね?
アンズが怒っているのは正論とかそういう物ではなく感情論で怒っていると見た。
だから言いがかりに筋が通っておらず情だけになるから喧嘩になっているのだ。
「大丈夫、アンズが皆まで言わなくてもきちんとわかってるから」
その言葉にアンズの表情が陰鬱な物から反転してパッと明るく咲いていく。
どうやら私の考えは正しいみたいだね。
「え、ニミリきちんとわかって…」
「仲間外れにされるのが嫌だったんだよね?」
するとアンズは勢いよく頷いてくれる。
よかったよかったきっとそういう事だろうと思ってたよ。
何せ私を誘ってこんなゲーム始めるぐらいなんだから無断で仲間外れにして遊ぼうとしてたことがショックだったんだよね。
「まあアンズも納得してくれたみたいだし一緒に遊ぶという事で移動するけどいいかな?」
形式上同意は求めているけどこれは話を混ぜ返させないためにもう半ば決定事項として処理は進めてるんだよね。
残念ながらここは私のマイルームなのだ、各人に拒否権はあるにはあるけど方針の決定権は私にあるのだ。
「あのーアンズさんが顔を全然あげないのですけど…これって納得しているのではなくうなだれているだけなのでは?…大丈夫ですか?」
「…っ!?全く問題ありませんわ!それよりも…ニミリのおばか!!」
何かウメが言っていたようだけどそれよりもアンズの遥かに大きいこちらを罵倒する声が響いて来る。
うん、わかってる。
わがままで否を認めるのが苦手なアンズの事である。
いくら私が図星を突いた所で簡単に納得するわけはない事はおりこみ済みである。
だからこそ、この降ってきた絶好の機会を無駄にせずどさくさ紛れにごまかしてしまえばいいのである。
「はいはい、それじゃあ移動するから移動する人は一緒に来てね?」
私はそう言うとサカキさんの作成したコミュニティールームへと接続をして一足先に移動をした。
マイルームの扉から移動した先は既視感のあるプレハブ小屋のような部屋である。
一応話し合いができる最低限のパイプ椅子や長机が設置されているのも変わらない。
変わっているとするならば、その部屋の中にはサカキさん一人しかおらず、服装が変わっているという点である。
「お邪魔しますー?」
私の挨拶に気付いたのかコンソール画面をいじっていたサカキさんはこちらへ振り向くと朗らかに挨拶をしてくれる。
「お、急な話なのに悪かったな。それにしてもイベントのワンツーフィニッシュを決めた二人に参加してもらえるなら心強いな…後そちらの着物姿の人は見た事ないがお友達かな?」
チラッと後ろに視線をやるとサカキさんの言葉通り二人とも付いてきているのが確認できる。
相変わらずアンズは内面が不機嫌そうだけど、外面は笑顔を貼り付けているので問題は無さそうだ。
「その通りですよ。それにしてもようやくTシャツ短パンのガキ大将スタイルは卒業できたみたいですね?」
そうなのである。
パイプ椅子に座っているサカキさんは男性プレイや―の初期衣装であるTシャツ短パンではなく、工事現場のツナギのような作業着を着用しているのである。
「ああ、前のイベント中は「normal」ワールドの学校の下水道でポイントを稼いでいてな。あそこの用務員室から降りた所の地下室覚えているか?あそこで取得できたんだよ。毎日あったというわけではないからこれは完全に運なわけだが…お陰様で恥ずかしい格好からは卒業できたってことだ」
ようやく罰ゲームにも等しい衣装を抜け出せたのは本人たちにすれば喜ばしいのであろう。
満足気に頷きながら答えてくれる。
「なるほど、それはよかったですね。それにしてもサカキさんお一人ですか?」
私の問いに困ったようにサカキさんが頭を掻きながら回答してくれる。
「ああ、まあ俺が提案して始めた事だから調整役をやっていてな…他の奴は下調べに行ってるよ」
「それは今回私達が誘われた事に関係するのかな?」
私の問いにサカキさんは首を縦に振って肯定すると私達を見回して話を切り出した。
「ああ、それについて説明させてもらう為の時間をいただきたいのだが…今から始めても大丈夫か?」
私は頷くとサカキさんへ話の続きを促した。