7.〇〇場
背中から聞こえる地獄の底から響き渡るような声に私はギギギとロボットのようにぎこちなく振り返ると…アンズさんが冷めた目でこちらを見下ろしている。
いや、なんでいるはずのない人がここにいるのよ?
いつの間に来てたのよ?
それよりも…何でそんなに怒ってるんですか!?
アンズの射貫き殺すような圧力に屈しそうになるけど声を震わせながらも答える。
「いや…前にアンズも会ったよね?今うちにホームステイに来ている子だよ?」
私がそう言うとアンズは値踏みをするようにウメへと近寄っていき眺めている。
対してウメはというといきなりの乱入者にびっくりしながら気押されながら少し引いてしまっている。
「ニミリの家に予備のVR機器があるなんて聞いたことがありませんし、買った記録もないはずです。それなら持ち込んだと考えられるのですけど…確かVR機器の規格が違うから入管で持ち込み規制がかかるはずですけれど、どうして持っているのかしら?」
「えーとですね…それは」
…そういやシャーリーさんが出てきたのは海軍基地の中からだったっけ。
入国審査はどこかで処理したようだけど荷物検査をしたのかは誰も知らないし、多分やっていないのではないかな?
痛い所を突かれたのかウメさんも気まずそうに視線が宙を彷徨っている。
「そ…それはですね…あーもう!そんな事、ユーに関係ないじゃないですか!第一初対面なのに詰め寄ってくるなんて税関の人ですか?違いますよね?無関係な人に指摘される筋合いは無いです!」
あ、攻め立てられた事はそっちのけにして逆ギレを始めちゃった。
けどこれは有効な手であると思う。
何せアンズがシャーリーさんの持ち込み物への指摘はしてはいいけど追及する立場にはないからね。
「ファースト!友達と一緒にゲームしようとしているだけではないですか。そんな事ぐらい見逃してくれないユーはいったい誰ですか?」
うんうん、確かにウメの言う事にも一理ある。
流石に攻め方に無理がありすぎると自覚したのかアンズは一歩引いて形だけ丁寧に自己紹介を始める。
「そうですわね、一度会いましたけどゲームでは初対面ですので自己紹介させていただきますわ。私はゲーム内のプレイヤー名はアンズですね。ニミリの友達ですわ。それで貴方のお名前は?」
「ウメ…」
ウメはむすっと頬を膨らませて明らかに機嫌を損ねてしまっている。
そしてアンズはと言うと…ゆっくりとこちらへ振り向いて来る。
「へえ…ニミリってばたった数日なのに随分と仲良くなりましたのね?私にも紹介してくれればよかったのに意地悪ですわね?」
何故だろう…顔は満面の笑みなのに目元は一切笑っていない。
しかも私にも何か含んだものがあるような視線を向けてきてるし…私何か悪いことしましたっけ!?
ごめんなさいと謝りたくなるけどここで謝ればそれはもう私の否を認めてしまう。
それなら私もポーカーフェイスでしらを切りとおすしかない。
「そうだね、毎晩暇だからゲームの相手をしててね。今日はアンズからの連絡もあったからログインしてついでにゲームができる環境があるなら一緒にしようかなって誘ってみたの。流石にこんなゲーム内容だし初めは案内が必要かなと思って待ち合わせをして今から説明する所だったのよ」
私が釈明のような返事をするとさらに目を細めてアンズは追及するように回答してくる。
「へえ…ニミリは暇だったのですね?どうせ暇なら…ではなくてですね、ゴホン!そういう事なら今日だけ説明するという事ですわねそれなら…」
「それはないですよ。ゲームは大人数でワイワイするのが楽しいのですからするのなら一緒にしますよ」
アンズの機嫌が僅かながら持ち直していたのにまた急降下してしまった。
表情がまた能面のような笑みに戻ってしまった事からそれは明らかだ。
…と言うよりもほぼ初対面の二人にお互いの機微を伺って落としどころを探れというのがそもそも無理なのは明らかなのだ。
私が何とかするしかないのかな…いやしないと駄目みたいだ。
私は意を決して二人の間に立つ事にする。
「まあまあ二人とも落ち着いて、きちんと話せばわかりあえますよ」
正論で人の理を説く…これが一番いい。
まずはこの場をおさめるのに最善手の一手を打つ。
さてここからどう話を転がして行こうか…そう考えていた私の思惑はすぐさま瓦解する事になる。
「ニミリがそもそもその子にばかりかまっているのが原因ではなくて?」
「私は悪くないです!売られた戦争はお互い滅びるまでやりあうです!」
…全然止まらない、というか私が悪いの?
何でそうなるのかと思いながら気押されて後ずさる。
だがそんな私へ二人がかりで私を崖っぷちへ追い詰めてくる。
「ニミリは当然私の味方ですわよね?」
「戦争は仕掛けてきた方が悪いので私につきますよね?」
何よこれ!?
こんなの想定してないよ。
そもそも何で喧嘩寸前にになってるのよ?
うーもう胃が痛いよ。
何で私がこんな目に会ってるのよ!?
私そこまで日頃の行い悪くないはずなんだけど…。
こういう時に身代わりになりそうなサポートユニットという名称詐欺の植物ボールはガラスケースの中でのんびりと眠りこけているし…。
役立たずめ。
あーもう誰か助けて!
だが、その願いが通じたのかマイルームの固定コンソールから固定長の電子音が鳴り響いて来る。
…何の音だろうこれ?
私もウメもわからないので首をかしげる。
だけどアンズは知っていたのか口から説明が漏れてくる。
「確か外部のプレイヤーからの通話呼び出しですわね?個人のIDを知っていないとかけてくる事はできないはずですけれど…ただでさえややこしいのにいったい誰かしら?」
…なるほど、これは外部から私に連絡しようとしている人がいるのかな?
こんな修羅場の最中に無神経に鳴り響く呼び出し音に対して私が取る行動なんて一つしかないじゃないですか。
「ちょっとニミリ!まだこちらの話は終わっていないのに勝手に通話にでないでください!」
こんな地獄に垂らされた蜘蛛の糸…掴まないはずはない!
私は二人に背を向けてスタートダッシュを華麗に決めると固定コンソールへ向かって走り出した。
これで今年の更新はこれで終了となります。
多数の面白い小説がある中、本作を拝読いただきありがとうございました。
この場を持ちまして御礼申し上げます。
本作は素人が書いているため、気になる事、感想などございましたらお気軽にいただきたく思います。
それでは皆様良い年を