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アンノウンディザスターオンライン  作者: レンフリー
18日目 海外から来た少女
189/291

19.それぞれの夜

二味家宅 居間 22:14 二味友里


「ウェルカムジャパン――!!」


「センキューセンキュー!」


この正気とは思えないテンションの高さで始まったシャーリーさんの歓迎パーティー。

さっきまでカーチェイスと銃撃戦というアクションをこなして来たとは思えない元気の良さに辟易(へきえき)とする。


私は疲れ切って横になりながら今日の出来事がどうなったのかチェックするのがせいぜいだったのにね?

…まあ調べた結果は、暴力団の抗争と警察の汚職が発覚したとしかニュースでもネットでもその程度だったので羽山さんの言った通りで杞憂(きゆう)だったのかもしれない。

そして寝ていないで私も参加しろと言われて結局強制的にパーティーに参加させられてしまったのが二時間前。

今私の目の前にはあり得ないペースで酒を飲みまくりテーブルに突っ伏して爆睡している駄目な大人が二名いる。


「「 Zzz--- 」」


本当に気持ちよさそうに勝手に先に寝てるし。

シャーリーさんも苦笑いしてるし、私なんかこの場をどうやって収めようか思いつかないし…本当にどうすればいいんだろう?


まあ残った物を少しずつつまみながらシャーリーさんと少しずつ談笑していく。

シャーリーさんについて、私に付いて、今日のことについてとまあお互いに当たり障りのない事を話して時間を潰していると何故かインターホンが鳴り響く。


こんな時間に誰だろ?

…親は起きる気配は一切ないし、私が対応するしかないね。


私は仕方なく玄関ドアを開くとそこには杏子と使用人が立っていた。

…今日来るとは連絡来てないよね?


私が首をかしげていると杏子が穏やかに微笑む。


「こんばんわニミリ。大丈夫今日は時間は取らせないわ。ちょっとした連絡といった所かしら?」


「別にいいけど…そういや羽山さんは今日いないの?」


珍しい、杏子が外出する時はたいてい引っ付いているのに?

私がいぶかしんでいると杏子はクスリと笑いながら答えてくれる。


「爺ならゴミの投棄に少し出かけているわ。たぶん明日の朝には帰ってくるし問題はないわよ」


そして視線が私からずれて…後ろ?

私が振り向くとシャーリーさんも玄関が出てきていた。

そういや杏子とは初対面だっ…!?


何この怒気?

変な気配を感じて慌てて正面へ視線を戻すとニコニコ顔の杏子と困った顔の使用人さんしか立っていない。


…気のせいかな?

今日は昼間にあんな事があったので疲れているのかもしれない。


「貴方がニミリが言っていたホームステイの方ね?初めまして、私、ニミリの友達の湯島杏子と申します」


「イエス、シャーリー=エヴァンスです。ニミリ?…オー、ユリのニックネームですね!アイシー。よろしくお願いします」


そう言うとシャーリーさんは杏子の方へと手を伸ばして握手する。

杏子も拒否せずに手を握り返すと…また!?

どうやらシャーリーさんも感じ取ったらしく驚いた顔で辺りをきょろきょろと見回している。


…どこか近い場所に羽山さんがやっぱりいるんじゃないのかな?

私が邪推をしていると握手を終えた杏子が一歩下がる。


「そうでしたわ連絡がまだでしたわね。今日の出来事は全て処理が完了しましたのでニミリは心配しなくて大丈夫ですわよ。…あらそう言えば花火がまだでしたかしら?」


…敢えて突っ込まないよ?

疲れてるのにこんな所で余計な事に足を突っ込みたくない。

私は同意を示して頷くと杏子は満足したのかそのまま振り向くと止めてあった車の方へと向き直る。


「それでは今宵(こよい)はこれで失礼いたします。ひょっとしたら東の方で花火が見れるかもしれませんわね?」


よし、今日は西を向いて寝よう。

そう覚悟を決めていると杏子を乗せた車は走り去っていった。




??? 高度1万メートル上空 22:52 鹿髏(ろくろ)組組長 鹿髏悪屠滅(おとめ)


何故や?

どうしてこないなった?


たかが小娘一人の攫うだけの何も難しくない仕事のはずやった。

だが、息子と若頭からの連絡が途絶えた後に大量のサツ共がガサ入れに来おった。

しかし、今日起きた事やから証拠がめくれて(ばれて)ないはずや。

あるはずがないから切符(逮捕令状)を見せろと言うたらすぐに提示されてしもうた。


…昨日の今日やぞ?


裁判所が切符発行するんが早すぎる。

何があったんや?


しかも切符が山のように積まれて座布団()高い幹部だけでなく構成員軒並み全員パクられる(逮捕される)

こんなん前代未聞やぞ?


誰かがカタにはめよう(おとしいれよう)としてるんかと思うて裁判所に確認したが…全て正式に発行したもんやと告げられて通話は切られてしもうた。


そしてワッパ(手錠)かけられて何故か空港に連れて来られると片っ端から古い旅客機に乗せられてしもうたわけや。

どういう事や?弁護士に連絡させろと言うても取り合おうとせん。


ただ一言告げられたのは、うちの組の者が(さら)う時にあっちの国の要人を一緒に追いかけて危害を加えてしまい、外交配慮からあっちで裁判をかけられるらしい。


そんな事があったのが一時間前…ようやく四機の旅客機は離陸をして現在は太平洋上空というわけや。


…糞のような弱腰政府め。

主権国家であるのを忘れたんか?

この国の犯罪でこの国のサツがパクったんならこの国で裁判するべきやろが?


…まあいい、あっちの国にも腕のいい先生を用意してるしな。

むしろ陪審員制ならあっちの方が刑は軽くすむかもしれん。

だが、こないなふざけたことをやった連中には落とし前つけたる。

まずは東雲の阿呆共に、小娘のバックレを手伝った連中や。

絶対にひどい目に会わせてタマ取ったるわ…鹿髏舐めたことを絶対に公開させたる。


そう未来の予想図を描いていたその時である。

旅客機の奥から男が二人出てくる。

機長のような服を着ているが操縦を放棄して出てくるはずもないからきっと搭乗員か何かやろ。

そう思っていたが白髪だらけの爺のような男が話す言葉はこちらを唖然(あぜん)とさせるものやった。


「あー、こういう時は何て言うんじゃったかな?…そうじゃ昔の映画っぽくお洒落(しゃれ)に言うてみるかの?ゴホン…それでは今日は皆さんに、ちょっと死んでもらいます」


…何を言うとるんやこの爺は?

そんな犯罪者を裁判もかけずに殺すような無法が許されるわけないやろ?


慌ててもう一人の男が奥から出てきて爺を止めようとしている。

やはりこの爺が頭と趣味が悪い…あるいは痴呆だっただけか…。


「セリフが違いますよ羽山の旦那?昔の映画をなぞるんでしたら今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいますって言わないと」


「だがな菅沼、わざわざ殺し合いさせるような時間を与えるつもりもないぞ?…ところで準備はどうなっとる?」


「あぁ、そっちは大丈夫です。操縦室の溶接は完了しました」


その言葉に機内にいたうちの組員達はざわめいていく。

こいつ等は何を言って…何をしようとしているのだ?


…そういや儂等を連行するサツはどこにいるんや?


おかしい…最初から異常続きやったが何が起こっとる?


「悪いがしょうもない漫才に付き合うつもりは無いんで、脅かすつもりなら余所でやってくれんかの?」


出来る限り威厳と気迫を籠めて相手を睨むと二人の男達は肩をすくめて笑い出し始める。


「いやぁここまで危機感が無いと驚きですね。まさか自分たちの命が漫才のネタ扱いとは…いやはや久方ぶりに笑わせてもらいましたよ?では羽山の旦那、お先に失礼します」


そう言うと菅沼と呼ばれた男が旅客機の扉を開けて…瞬間、空気が機内に叩きつけられるように吹き荒れる。

組員が子供みたいにガヤガヤと騒ぎ始めるがそれには全く興味を示さずに菅沼という男は何かを背負ったままさっさと飛び降りてしまった。

こいつ等正気か!?


そう思っていると爺も扉に向かって歩き始め…いかん!

このまま進めるのはまずいと思い精一杯声に脅しを含めて呼び止める。


「どういうつもりじゃ!儂等は裁判にもかけられてもいない…犯罪者ですらない一般人やぞ!?それをばらすとか法律では許されとらんぞ!」


儂の叫びに爺は少し足を止めると能面のような顔をこちらに向けると淡々と述べてくる。


「確かに有罪判決は出ておらず、被告にもなっておりませんな?」


「ならば!」


「あぁ…儂等にとってはそんなのどうでもいいのじゃよ」


「は?」


この爺は何を言っとるんや?

法治国家の人間とは思えない野蛮人の発言に思わず変な声が出てしもうた。


「お前らのようなゴミは変に逆恨みをするような粘着質の連中が多いからの。動向を監視したり、復讐を防いだり、そんな事に長年労力を使うのはまっぴらごめんじゃ。ならば綺麗さっぱり消した方が後の心配が無くてよいじゃろ?」


こいつ…まさか、儂等全員をバラす(殺す)つもりやと!?

しまったこいつ等はサツと違う…一体どこのモンや!?


「幸い当機は太平洋艦隊の実弾演習の標的となっておる。後五分もすれば色々と飛んでくるからの?短い余生を楽しんでおくれ。ではさらばじゃ」


そう言うと爺もドアから飛び降りていってしまった。


…そんな阿呆な。

儂は鹿髏組組長やぞ?

弱小組織から叩き上げて叩き上げてここまでの大組織に育て上げて、ここからさらに伸し上がっていく存在やぞ!?


こんな終わりがあってたまるかぁ!


儂は子供のように泣きわめき混乱する組員を見捨てて、風が吹き荒れる旅客機の中で命が助かる方法を必死に捜索する。

操縦室は…本当に溶接されておりびくともせずきそうにない。

脱出用のパラシュートは…そんな物は残されていない。

通信設備も念入りに壊されている。


ならば飛び降りるしかないのか?

そう考えて何とか風に逆らいながらあの二人の飛び降りたドアに近づき下を覗くと…暗闇だけでまるで何も見えない。


「ひ…!?」


思わぬ高さに恐怖を感じ、機内の方へとペタンと尻もちをついてしまう。

こんなの飛び降りるのは無理だ。


…何故だどうしてこんな事に!?

こんな事ありえるはずがない!


だが次の瞬間旅客機にはいくつものぶつかる音と共に盛大な爆発音が鳴り響く。

儂の視界に最後に映ったのは赤い炎と爆発に包まれていく光のみじゃった。





東雲家宅 XDAY翌日 1:50 女子高生 東雲咲々楽(ささら)


あの後、別の黒服の人に車に乗せてもらうと丁寧に自宅の前まで送っていただいた。

その時に言われたことはただ一つだけです。


「今日あった事は忘れなくてもいいが、一切口外しない事。それが君の為だ」


そう言うと車は走り去っていく。

車を見送った後にインターホンを鳴らすと心配していた母にギュッと抱きつかれた。

そこで私はようやくホッとして大泣きに泣いたのです。


今日のことについて母もある程度は把握していたらしく私が無事であることを喜ばれた。

父については…なるようにしかならないとため息をついていたけど男なら自分のことは自分でけじめをつけるだろうと考えなくていいと言っていた。


そして私は自分の部屋に戻ると今日は安静にするよう言われてベッドで横になった。


…それにしても今日は波乱に満ちた日だった。

すごく怖かったし、死ぬかもしれない思いもしたけど…無事に今布団に入れているのは幸運であると実感する。


そして布団のぬくもりを感じながらも今日の事を思い出す。


…あの人かっこよかったな。

また会えないかな?


心も体も疲れ果てているはずなのに胸の中はぽかぽかとキュンとしておりなかなか寝付くことができなかった。

本話で本章はこれにて終了です。

ゲーム本編から大脱線してしまい大変申し訳ありませんでした。


また多数の誤字脱字報告いただきありがとうございました。

大変助かります。


次章は準備ができ次第書き始めると思うためお待ちいただけたら幸いです。


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