17.逃走劇の終わりは唐突に
Y市 14:30 二味友里
「ヘイ!もう来ましたよ!ジャパニーズマフィアはネズミのようにたくさんいますね?」
「あーもう、しつこい!そんなにこの子が好きか!?」
前の車がお亡くなりになり、腰が抜けた女子高生をお姫様抱っこして駆け出す事数分後、追いかけてきていた車と同じ車種の車を発見した。
車の周りでは明後日の方向を見ながら隙だらけのヤクザさんの三人組が案山子のように棒立ちしており…鴨がネギを背負っているので即座にネギを奪う事にした。
結果、乾いた音が軽快に鳴り響くと共に三人が道路にお昼寝をしたのを確認すると、お姫様を後部座席に放り込んで私は運転席へと滑り込む。
幸い車の鍵はさしっぱなしという至れり尽くせりであったためすぐにエンジンをかけてと…ドアを閉めようとした時に足元でまだ仲間へ通話を試みていた瀕死のヤクザさんがいたので数発撃ちこんで永眠させてから車を走らせる。
全く、おとなしく寝ておけば死ぬことも無かったのにね?
しかし口封じの効果はあまりなかったらしく、車を走らせているとすぐにまたヤクザの車が後ろから付いてきてそれなりの大名行列が完成して今に至る。
シャーリーさんがやりたい放題撃ち返してくれたおかげで結構脱落しているはずなのにまだ多いよね?
さすがにさっきよりかは車の数は減っているようだけど相変わらずしつこい。
狙いは下手くそだけど後ろから銃弾が飛んでくるのはハラハラするのでいい加減にして欲しいんだけど…。
…まあそれ以上に厄介な事がある。
大通りを左折すると…やはりと言うかパトカーが道を塞いで検問を形成…あれ?
「どうなってるのこれ?」
「ユリどうしまし…ワッツ!?」
シャーリーさんも気付いたようだが、確かに警察の検問はある…いや正確にはあったというべきかな?
廃車となった警察車両の残骸に数人の警察官しかいない。
その残った警察官も無線に何か叫んでいるようでこちらの大騒動には全く気付いていないようである。
…好機!
「このまま検問突っ切る事にする!」
「オーケー!私もそうすべきと思います。…けど誰がこんなひどい事をしたのでしょうか?」
…本当誰だろうね?
まあ私に聞かれてもわからないとしか言いようがない。
私はスピードを落とさずそのままアクセルを強く踏むと、検問の跡地を通行させてもらう事にした。
そしてやはり…後ろのヤクザ達も素通りして追いかけてきている。
まあ籠の中の小鳥の状態からは脱したし後は逃げきる事さえできれば問題はないはず。
そんな考えを否定するようにシャーリーさんの叫び声が耳に入ってくる。
「ユリ、まずいです!あいつ等ショットガンを持ち出して…タイヤに狙いを定めています!」
「なるべく撃たせないように牽制して!」
そう返事をすると拳銃の音がこれまで以上に速いリズムで打ち鳴らされていく。
バックミラーで見ると、次々と打ち出される弾丸のせいで狙いが定まっていないらしく、中々散弾銃を窓の外に出せず躊躇しているようだ。
よし、これなら十分に…
「ユリ大変です!」
「次は何!?」
「弾丸が切れました!」
いや、結構奪ってたよね!?
無計画にも程が…いやしかし、ここでケチったら駄目だしこれはやむを得ないよね。
「ダッシュボードに私のがあるからそれをつか…」
シャーリーさんへ私の拳銃を使うように言おうとしたその時だった。
後ろの方から前の車でも聞いた破裂音が響き渡る。
「あ゛」
…やば。
最悪の事態に思わず裏返った声が喉から漏れ出てしまう。
案の定、パンクした車は運転が激むずモードへ!?
またもや真っすぐに走りにくくなった車はハンドルを切っても思うように運転できなくなっていく。
ブレーキを踏みこみながら制御を戻そうとするけど…こいつのお役目は早くも終わりを迎えそうだ。
幸いこの先はT字路になっている…左右どっちかの道に突っ込んで車を盾にしてその隙に建物沿いに逃げてしまおう。
そう考えてT字路の左に突っ込んだのだけど何故か既に人の列が道路にできている。
「嘘、待ち伏せされたの!?」
慌ててハンドルを戻そうとしたけどすでに手遅れ、車はそのままT字路の先にある建物に突っ込んでしまう。
その衝撃で体中が叩きつけられ、頭がクラっとしてしまう。
けどすぐに行動を起こさないとすぐに物量差で押し潰される。
まずは状況確認…来た道…正面はヤクザさん達の集団。
強面のお兄さんたちがバットや刀や拳銃持ってこちらを睨んでいて…あれ?様子を伺って左右を見ているだけで何故かこっちに来ないね?
そして右手を見ると…何が起こってるのこれ?
迷彩模様のフル装備の兵隊さんがこちらとヤクザさんに半数ずつ銃口を向けている。
何でこんな所にフル装備の軍隊がいるのよ!?
そして反対の左手もすぐに確認すると黒服のお兄さんお姉さんがこちらもごつい銃器を同じように構えて…ってあれ杏子の所の使用人じゃないかな?
うん、見た顔が何人かいるし間違いなさそう。
流石杏子、あれだけしか話してないのに手が早い。
となるとあっちに逃げ込むのがいいね。
うん、そうしよう。
私はぶつけたせいで少し傷む体を動かすとこの提案を言葉に出す。
「あっちへ逃げよう」
「向こうが安全です」
シャーリーさんと180度反対方向を指差しながら同時に発言するとお互いに首をかしげる。
…あれ、そういやあっちの兵隊さんの格好…さっきも見たような…?
私はすぐに確認のために言葉を口にする。
「あっちはシャーリーさんの関係者って事でいい?そっちは私の方の知り合いの関係者だけど?」
「イエス、…そうするとですよ?」
うん、やる事は決まったと思う。
私とシャーリーさんは大きく息を吸い込んだ。
Y市 14:40 鹿髏組若頭 鬼鷹
「やっと追いつめたんか…仕事が遅すぎるんちゃうか?」
小賢しくもちょろちょろとバックレてた奴がようやく壁に衝突して止まったのを確認すると俺はイライラしながら深くため息をつく。
たかが小娘と用心棒二人にこれだけの人数で追いかけて三時間近くもかけるとか…若えのがたるんどるとしか言えんな。
けどこれでここまでコケにしてくれた阿呆共に落とし前を付けてやれるってもんだ。
しかし、これだけやと俺らのメンツは丸潰れ…何より組長の怒りは考えるだけでも恐ろしい。
バックレるだけじゃ飽き足らずに坊ちゃんまで手にかけるたぁ…組長に何て説明すればいいんや?
ひとまず連中は組長の前に引きずって…残りはどうやってけじめをつけるかやな。
まあ連中を締め上げるのが先やな。
若えのが既に得物を持って車から降りとるし…俺も行くとするか。
俺も長年愛用している長ドスを手に取ると車を降りて向かおうとするが…なんだ?
若えのがガキみたいにざわざわわめいて進もうとしねえ。
はぁーこいつ等ほんまにつっかえねえ。
「何晒しとんじゃ!さっさと行かんかい!」
「で、でもよぉ若頭…」
若えのが一斉にびくりと肩を震わせると男らしくもなく言い訳をしようとする。
こいつ等は…。
そして若えのが指差した先を見ると余所の組員と思われる連中と外国の兵隊がいてこちらにもごつい鉄砲を向けているじゃねえか?
「た…多分映画か何かの撮影の途中で状況分かってねえんっすよ?すぐにどけますんでお待ちください」
いや、普段ならこいつの言う通りだろうが…やはり若えのは経験不足だったようだ。
…別組織の連中も兵隊の連中もありゃあ…素人じゃねえ。
目の据わり具合、体格、何だこいつ等?
こいつ等がドラマや映画のキャストなわけがねえ。
こっちの若えのがひよこだとすると向こうは狼のようなもんだ…どうする?
これはこっちがバックレないと確実にばらされるのは間違いねえ。
だがそれだと組長に…。
そう一瞬逡巡してる間に追い詰めた車から女が二人乗り出してきてこちらに向けて叫び始めやがった。
「あっち撃って!あっち!」
「ショットゼム!」
その姦しい大声に合わせて別組織と兵隊の銃口が全てこちらへ向く。
あぁ…これは終わったな。
その予想は正しく、すぐさま幾多の弾丸に身体を引き裂かれ俺の意識は暗闇へと落ちていった。
多数の誤字報告いただきありがとうございます。
また、更新が遅れて申し訳ありませんでした。
後二話ぐらいで終わらす予定です。
ゲーム本編をお待ちの方お待たせして申し訳ありません。