14.衝突
Y市 13:55 強襲装甲小隊『ディープサーペント』 ディケンズ大尉
なんだこいつは…。
合流まで残り僅か…作戦は問題なく進んでいたはずだったのだがシーオーガ2の異常を知らせる無線を受けた。
俺達は即座に装甲車から降車し、状況を確認すべく俺は第二分隊を引き連れて手近なビルの屋上へワイヤーを使用して飛び移った。
そこで目に入ったのは…鉄の鎖で繋がれた空でもがくシーオーガ2である。
犬の鎖のようにつながれて思い通りに飛行できないのだろう。
問題なのは…繋いでいる相手がまるで分らない所にあるのだが…今優先すべきはシーオーガ2の救援だろう。
一撃で切断しないと最悪操縦不能で墜落するだろう…切断失敗はできない。
「ワイヤー切断!」
俺は軍曹に指示をするとすぐさま実施に移される。
パワードスーツ備え付けのレーザーブレードですぐ様にシーオーガ2を縛り付けているワイヤーを切断する。
するとシーオーガ2が辛うじて制御を取り戻しフラフラと飛んでいく。
『こちらシーオーガ2助かった!』
「飛べるか?」
『戦闘継続は困難だが…帰還はなんとかできそうだ。当機はサミュエルに帰還する』
「了解した。ディープサーペントはこいつをここで抑える。シーオーガ1、シーオーガ3は保護対象に付かせてくれ」
『こちらサミュエル。状況の説明を求む。敵は何だ?』
「敵か…」
これは…返答に難しいな。
切断されたワイヤーを急速にからめとるように収容している敵…。
同じビルの屋上に確かにいるはずの…こいつは一体…何だ?
視認で判断しようとすると…装甲車のような大きさに見えるが光学迷彩をかけているせいか姿は明確に確認できない。
さらにサーモセンサーにも引っかからない…こいつは熱も遮断しているのか?
わずかに音響センサーが駆動音を拾う事で…ぼんやりとそこにいると確認できるだけなのだ。
…こんな兵器見た事もないぞ?
「敵はアンノウン!どの国のカタログにも載っていない兵器だ!」
『っ!?了解した。シーオーガは先ほどの指示に従え。ディープサーペントやれるか?』
「ハン、誰に言ってるんですかね?やれと命じればいいんですよ?」
『了解した。こちらも最大限支援する』
「必要は無いと思いますが期待してますよ…聞いたな?こいつを通せば間違いなく保護対象はこいつに確保される。ここで仕留めるぞ!」
「イエッサー!」
そう言うと分隊はパワードスーツ肩部の対戦車ミサイルを連続発射する。
この至近距離からこの数…流石に仕留められるはずだろうがどうでる?
放たれたミサイル群は白煙をひきながら明確に見えない目標へ直進していく。
だが着弾前にミサイルは勝手に爆散していく。
…何が起こった?
パワードスーツが収集したデータと煙の隙間から見えたわずかな光…。
まさか?
「こいつは…レーザー近接防御を装備している!弾頭が重い兵器では撃ち落とされるぞ!」
ならばパワードスーツ用の20ミリアサルトライフルを対象に向ける。
既に対装甲用の徹甲弾に換装済みだ…こいつなら。
「総員射撃開始!」
そう言うと各ビルの屋上や地上の隊員からアンノウンへ射撃が加えられる。
アンノウンの周囲で金属音がはじける火花が散っている事から着弾はしているのだろうが…ダメージになっているかはわからないな。
「隊長!俺が斬り込みます!」
先ほどワイヤーを切り裂いた軍曹が意見具申してくる。
…そうだなこのままでは埒が明かない。
先ほどの防御兵装から見て危険かもしれないがここは打って出るのもありだろう。
「許可するやれ!総員軍曹を援護しろ!」
より一層集中アンノウンに射撃が加えられていく。
その隙間をかいくぐってブレードを上段に構えた軍曹がパワードスーツのブーストを噴かせて急接近していく。
…この感じなら即座に間合いに入って振りぬけるな。
状況を見ていた俺が成功を確信したその時である。
バチンとレーザーがはじける光と共に軍曹が仰け反る。
まさかと思ってよく見ると…アンノウンがブレードを二対構えていて…受け止めた!?
こいつ腕も付いているのか!
まさか宇宙人じゃないよな?
正体が気になる所だが今は体制を崩した軍曹をフォローするのが至急だ。
「カバー!」
「イエッサー!」
備え付けのハンドグレネードが銃撃の合間を縫ってアンノウンへ飛んでいく。
やはり先ほどのレーザーで目標に到達することなく迎撃され、爆破されてしまうが…それでも軍曹への追撃は防げた。
「軍曹立てるか!?」
「問題ありません!サー!」
フォローが成功し少し持ち直したのもつかの間…アンノウンもやられっぱなしではないらしい。
何かこちらをしきりに観察して…何を探してる?
やがて動きが止まるとバチバチと火花がするエネルギー体が収束し始めている。
こいつ電磁兵器を装備しているのか?
いやこの色合いだと荷電粒子…ビーム兵器か!?
そんな物を実戦で…いや市街地で使うつもりか?
「攻撃来るぞ!総員退避!」
総員機敏にビルから降下するなり、遮蔽物で身を隠すなりすぐに退避行動に移る。
だが次の瞬間放たれたビームは俺達が乗って来た装甲車へ着弾する。
二発三発と続けざまに撃たれると全ての装甲車が爆破炎上する。
…装甲車は無人だから人的被害は無かったがこちらの足を奪われたか!?
こいつは戦い慣れしてやがる…どこの組織だ?
「総員!奴の足を奪え!振り切られるぞ!」
俺の指示に反応して隊員が一斉に放火を浴びせる。
この豆鉄砲で仕留めきれるか?
だが奴はこちらの銃撃を巧みに避けるように移動を始める。
意外にも機敏に動くな…。
しかもビルの側面を走るだと!?
奴は透明な姿のまま窓ガラスを割りながらビルの側面を疾走していく…。
穴が残っている所からアンノウンには腕の他に足も付いているのか?
だがそれだけでは終わらずアンノウンは付近のビルにワイヤーを射出する。
まさかと思って見ているとワイヤーを巻き取るように空を飛んで高速移動するだと?
そこでワイヤーの張られた先と地上を比較する。
…まずい!?
「いかん!地上は散開しろ!ブレイク!」
慌てて退避を始めた地上の隊員達のいた場所には多数の機銃弾が降り注ぐ。
間一髪だったが…こっちもか!
「伏せろ!」
こちらへも先ほどのビーム兵器が叩きこまれ、破壊音と共にビルの屋上に設置されていた空調設備が跡形もなく吹き飛ぶ。
…まずいな。
こちらより機動力が高くて火力も高い、おまけに空間の自由性が高いとは…なんてものを作り出しやがった。
…だが相手がいくら強大であろうが一方的にやられっぱなしというのは趣味じゃない。
俺は心の中でやれやれと軽くため息をつくと共に軍曹へ支援を要請するように指示する。
…さっき強がったのにみっともねえけどな。
更に隊員には位置を逐次変えながら包囲していくように指示を飛ばしていく。
加えて狙撃班へはレールガンの使用を許可しておく。
…追い込めればこれで行けるかもしれないがどうだろうな?
全ての指示を終えると俺は腕部のハンドキャノンを装填して別のビルに張り付いているアンノウンへ叩きこみ始めるのだった。
戦闘描写は大苦手