9.完僻な計画
170部分(立夏のお散歩イベントの最終話)としてアーカイブの話を挿入しました。
読まなくても問題はない閑話みたいな話のためお暇な方や興味のある方のみ拝読いただけると幸いです。
Y高校教室 12:10 K県警 苅谷輝雄
「なるほど…その東雲という生徒さんはいかにも暴力団と思われる男についていってしまったと…」
「はい、少し話をすると言っていただけなのですが既に一時間以上経って姿形も見えませんので警察へ相談を…」
全く…こちとら後がつかえているんだからさっさと通報してくれればいいものを…。
預かっている大事な生徒がいなくなったというのにこいつら危機感が足りなさ過ぎないか?
…まあ誘拐の片棒を担いでいる俺が言えた事じゃないがな。
「わかりました、我々もパトロールを増やしてその生徒さんを探すように手配します。ひょっとするとですが生徒さんが何事もなく戻ってくるかもしれませんのでその際はまた連絡をいただければと思います。保護者へは我々から連絡を入れさせていただきます」
そう快活に応えると警備員はホッとした顔で詰所へと戻って行った。
…やれやれ単純で助かるな。
まあ連絡なんぞ入れるわけもないがな。
俺は笑顔を崩さずパトカーまで戻る。
すると個人のポータブルが鳴り響く。
通話か…何々?
空島からか?
何かあったのか?
俺は問題が発生したに違いないと陰鬱になりながらも通話ボタンを押した。
「苅谷だ」
『苅谷さんですか?空島です。気になる通報がありましたのでお知らせをと…』
そして空島から話を聞いていく。
なるほどこれは厄介だ…というかなんで鹿髏の奴等こんな簡単な事をしくじってるんだよ?
どんなに使えない人間を使ったのか…馬鹿野郎共が…俺まで危なくなるだろう。
「状況は大体わかった…それでこれが発生したのはいつだ?」
『大体三十分ぐらい前かと』
あ!?
こいつ何ほざいてやがるんだ?
重要な情報の連絡がこんなに遅れてるとかどういうことだ?
やべえな鹿髏の奴等が使えないだけじゃなくこいつも使えねえな。
「おい、今日の起きる事は些細な事でもすぐに伝えろって言ったよな!?」
『も、申し訳ありません!ですけど今日は通報が多く時間が取れず…』
「そんなもん流しておけばいいんだよ!こっちは身の破滅がかかってるんだよ!わかってんのか!?」
『す、すみません!』
全く少しは危機感を持ってほしいものだ。
こんなのばれたら俺達は懲戒免職待ったなしなんだぞ。
…まあ体しかいい点がない空島と違い、俺は鹿髏への再就職が決まっているから別に構わんのだがな。
「まあいい。とりあえず事故現場には俺が手配した奴を送る。お前は引き続き今まで通りに業務をしとけ…ああ、連絡はすぐにあげるようにな」
『了解しました。失礼します』
ポータブルが切れるのを確認すると、俺の息のかかった同僚に通話をする。
事故現場の確保となるべくうやむやにするよう処理を頼むとため息をつく。
しばらくするとやはりというか予想していた相手から電話がかかってくる。
「…苅谷です。状況は大体聞いています」
『言わんでももわかってるんは助かるな。うちの若いのが下手こいてしまってな。ちょいと骨折ってくれんか?』
どうせそんな事だろうと思ったさ…。
俺は心の中で盛大にため息をつくと続きを促していく。
「具体的には?」
『うちの若いのがやられてしまっている以上こっちで始末つけんとメンツに関わるからな…やるのはこっちで人を使うからお前にはこのクソガキが逃げないように手を打ってほしい』
何がメンツだ、鹿髏の組長め…。
簡単な仕事ができない奴を手配したお前の責任だろうがと心の中で突っ込む。
「あまり派手なのは困りますよ?裏から手を回すのにも限度がありますので…」
『言われんでもわかっとるわ。それにこれが失敗したら元も子もないやろが?貴様も腹をくくって協力しいや』
この糞爺めいけしゃあしゃあと…。
揉み消すこちらの身にもなれってんだ。
だがそんな事は一切おくびも出さず俺は通話を続ける。
「了解です。現場を中心に一箇所を除いて検問を張るよう手配します。場所は…そうですね本部の近いここの道路の検問は敷かないようにしておきますので人員はここから投入してください。周りの警察官は追跡には一切させないよう指示もしておきます」
『よし…極道舐めた奴には痛い目見せんと示しつかんからな…終わったら金弾むから頼んだで』
そう言うとポータブルから通話が切れる音がする。
既に女子高生一人に逃げられてる時点でメンツも糞もないだろうが。
俺はそう思いながらもまあこんな楽な仕事にこれだけの手を打つのだろうからすぐ終わるだろうと気持ちを切り替える。
そして先ほどの話の内容を手配して行くのだった。
逃走車内 12:35 二味友里
全く…気の休まる時が全くない…本当にどうしてこうなった?
ヤクザから車を拝借して運転しながら羽山さんと電話していたらなんか怖そうなお兄さんたちが横付けして来たしね。
ただまあ『車から降りろや』が彼らの遺言となってしまったのは寂しいものがある。
車から身を乗り出して来たお兄さんは助手席に座っていたシャーリーさんによってハチの巣にされて車の中でお寝んねしてしまった。
「ねえユリ?いきなり身を隠さずに近寄ってくるとかこの人達何なのですか?」
相手が馬鹿丸出しで困惑するのはわかるけど今電話中だからちょっと後にしてくれないかな?
トランクから見つけた散弾銃を有効的に使ってくれるのは何よりだけど…他の人には当ててくれるなと思わざるを得ない。
流石にそれぐらいはわかってるよね?
そう思いながらバックミラーをチラッと見た時である。
真後ろから近寄ってきた車の窓から拳銃がしゅっと出てくる。
そして後部座席では呆けている東雲さん…。
まずい!?
ポータブルを投げ捨てて勢いよく東雲さんの頭を押さえつける。
すると頭上を何かがかすめて飛んでいく。
何とかなったと思ったけど車が揺れる。
「ユリ!ハンドル離したらまずいですよ!」
そうだった!
両手で東雲さんの頭を抑え込んだけどハンドル握ってたの私なのである。
その結果は一目瞭然、車は自由に走り回っており揺れに揺れて姿勢がおぼつかなくなっていく。
「東雲さんは頭出さないで!シャーリーさん!急停止するから何かに捕まってて!」
私はそう言うとブレーキを踏みながらハンドルに手をかけそのままハンドルを勢いよくきる。
車は回転しながらも何とか止まり車輪が滑る音共に急停止する。
そしておもちゃの車のような挙動をする私達を回避して、遠回りに追い越していくヤクザの車が見逃されずはずもなく、シャーリーさんに銃弾を叩きこまれ…そのまま車は街路樹に衝突した。
こんな状況でもシャーリーさんは的確に当てれるのか…。
結構撃ちなれているのか…いやそれで説明がつかないぐらいによく当てていくよね?
…頼りになるのはいい事なんだけど一緒にホームステイして大丈夫なのかなと頭をよぎったのはきっと間違いではないはず。
少し考えを巡らせていたけど窓の外からこちらへ近づいて来る車がまた数台確認できる。
こんな人気は無くていいのに…そう思いながらアクセルを踏み、また車を走らせるのだった。