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アンノウンディザスターオンライン  作者: レンフリー
18日目 海外から来た少女
176/291

6.親への電話

事故現場 11:50 女子高生 東雲咲々楽



私は次々と変わっていく状況に理解が追い付かなかった。

いつの間にか私以外はあっという間に射殺されており、次に気が付いた時には私は助かっていた。


そしてされるがままに車を下ろされた私は初めての暴力的な光景に私は呆然自失となり、まだ完全に回復したわけじゃないけど辛うじて頭を動かして考えて、たどたどしく状況を把握していく。


鹿髏(ろくろ)の連中が全員射殺されたという事は…目の前の二人は少なくとも私の敵ではない…はず…はずだよね?


そして射殺した人…外人さんはとりあえず銃口を外してくれたけど…すぐにこちらへ銃を向けられる立ち位置を維持している。

少なくとも私への警戒は一切解いていなさそうです。

もう片方の人は親切に身の上話を聞いてくれたけど…おとなしそうでこういう状況では役に立ちそうにないですし…。


やはりここは安全のために父さんに頼っておいた方がいいのでしょうか?

そう言えばこの二人は警察には通報済みと言っていましたけれど鹿髏の連中は警察も買収済みとか言ってたようですし。


…このままじゃ駄目だと認識すると、ぞくっと背筋を得体のしれない気持ち悪い感覚が走っていく。

まだ危機的な状況は終わっていない。


そう考えると父さんに連絡を取ろうと決意する。

確かに第三者よりもしっかりとした人に守ってもらった方がいいのだけれど…この人達が連絡するのを許してくれるでしょうか?


…思い切って一度聞いてみることにします。

タクシーに逃げられて呆気(あっけ)に取られてるならひょっとするとあっさりとさせてもらえるかもしれません。

私は恐る恐る手をあげて二人に声をかけてみた。


「あの…少しよろしいですか?」


「オウ?何でしょうか?」


タクシーが逃げていった方角からこちらへ二人とも振り返ってくる。

私は決めていた言葉を告げる。


「その…父さんに電話をしても…いいですか?」


そう質問すると二人が少しまゆをひそめて考え始める。


「ンー?家族に連絡するのは問題ないと思いますけど…ユリはどうですか?」


「そうだね…まず連絡方法はどうするの?」


おとなしそうな女性の方は私に問いかけてくる。

私は申し訳なさそうにお願いする事にする。


「そこでなのですが…ポータブルをお借りしても…」


「あ、それは無理。私のポータブルは走り去って行ったので…」


そう言えばこの二人はほぼ手ぶらで何も持っていない。

言葉のままさっき走り去ったタクシーに荷物を置きっぱなしだったのですね。

それなら…。


「それではそこの男からちょっと拝借します。幸い指認証ですので問題なく使えると思います」


「なるほど…現場の物って手を付けないほうがいいんだけどね」


「出来れば早く連絡を付けたいのです!」


私が余裕のなさから強気で出てしまうとおとなしそうな女の人は困りながら許してくれた。


「急ぎか…。通行人もいなくなっちゃったし…自己責任でやるというならまあいいかな?」


私は許可を得られたと受け取り、ゆっくりと車の中へと移動する。

その背中から声がかけられる。


「車の中で妙な真似はしない事!しっかり見ているからね?それとスピーカーモードで私達にも聞こえるように電話する事!それが条件」


私はおとなしく首を縦に振ると死体のポケットからポータブルを物色し始めるのでした。




鹿髏組傘下火輪組事務所 12:00 東雲健固



革張りのソファーに腰をかけ、俺達は今も火花を散らしている。

木製のテーブルの向かい側にはいけ好かない鹿髏組の連中が同じように腰かけている。

その周りにはお互いの構成員が取り囲み一触即発の状況が続いてやがる。

だが状況は俺達に不利な状況なのは変わらねえ。


不利なのは当然だ。

俺達は()められたからだ。


あれは一週間前か…鹿髏の連中が俺達のシマの周りではしゃぎ始めた。

とうとううちにも手を伸ばして来たか…そう判断すると俺達は出入りも視野に入れて準備をした。


その後は些細な事でシマ(縄張り)のあちこちで喧嘩があり、お互いに一歩も譲らなかった。

水面下で火種はくすぶっていき、道具の用意や鹿髏の下っ端が増員されていきその時は近いと覚悟を決めていた。


そんな時である。

事務所に電話がかかって来た。


「手打ちがしたい。こちとら無駄に血を流すのは趣味じゃねえ」


…こちらとしてはありがてえ話だが急にどういう風の吹き回しだ?

条件を詰めたいという事で場所の指定があり、その気があるなら来いという事だ。


…元々構成員も数十倍単位で違うのだ。

だったらこいつ等の為にも手を打っておいた方がいいだろう。


そう決めると俺達は指定された事務所に赴いた。

だが、そこは罠だった。


いざ席に着くと鹿髏の責任者たる顔ぶれが一切無い。

不審に思い立ち上がり窓の外を覗くと…いつの間にやらサツ(警察)に事務所が取り囲まれてやがる。


「これはいったいどういう事でえ!?」


「察しが悪い…見たままの状況という事ですよ」


ここにいる鹿髏の中で最も偉いのか、ひょろっとした軟派な着こなしの男が俺達を挑発してくる。


「お前のようなどさんぴんじゃ話にならねえ!舐め腐りやがって!」


「いえ、私で十分なのですよ?お前らごときと心中するのはな!」


そう言うと鹿髏の構成員は一斉にチャカ(拳銃)を抜きこちらへ向けてくる。

それに呼応するようにこちらも同様にチャカを抜いて相手へ突きつける。


「まだ撃たないように!私達は話し合いをしに来たのです。…みっともなく鼻息を荒げないで落ち着いてよく聞きなさい。今チャカを弾けばサツのガサ入れで全員パクられますよ?そうなると東雲は…誰もいなくなってしないますね?そして私達はここにいるのがお勤めすればいいだけです。残りでシマを安全に手に入れることができますよね?」


その言葉に俺は返すことができない。

確かにここへは責任者の俺や格を合わせようと若頭に、腕の利く奴はほとんど連れてきてしまった。

ここでパクられたら…こいつの言った通り務所にいる間にシマを全て奪われるだろう。


「そもそもこんな喧嘩初めから勝負は見えていたのですよ。そこで話し合いです。お互いお勤めはつらいでしょう?当然組長の為なら私達もやぶさかではないですが…入らないに越した事はありませんよね?そこでおとなしくシマから手を引いてもらえませんかね?当然少しは金も出しましょう」


「こんな舐めた真似してお宅にしか都合のいい話をはいそうですかと聞くと思ってんのか!?」


俺は(にら)み返すが…明らかに分が悪い。

どうする?


「とりあえずチャカは下ろしませんか?話し合いをしたいというのは嘘ではありませんので」


「ち!」


俺は仕方なくチャカを下ろし、それに全員が続く。

ソファーに腰かけるとあちらの男も対面のソファーに腰かける。


そして言葉少なく、お互いに視線で火花を散らしながら今に至るという事だ。


「こんなしけた手を打ちやがって…恥ずかしくねえのか?」


「それで効率よく物事が進むのならその方がいいではないですか?さてお金の話に移りますが…今ならオプションもお付けできますよ?」


「オプション…って何だ?」


俺の返事に対面の男は馬鹿にするように言葉を続ける。


「物…まあ選択の追加と言うべきでしょうか?貴方達に快くシマをいただくために色々とサービスを用意しておいたのですよ。そうですね…東雲さん貴方娘さんがいらっしゃいますよね?」


その言葉に頭がカッと沸騰していく。

この外道どもまさか…。


「てめえらまさか…」


「はい、貴方の娘さん…東雲咲々楽さんですね。私達の招待に応じてもらっていますよ。送っていただいた写真によると、活発そうで凛としていていいそれなのに可愛らしい容姿をしていますね。こういう子をアワに沈めて泣き崩れて壊れていく顔を是非とも見てみたいものでぇ…ぐ!?」


この下種に最後まで喋らせるのは我慢ならなかった。

俺は首を掴んで力を入れて黙らせる。

すると周りの連中は再びチャカを抜き緊張状態に突入する。

そのままこいつを殺してやろうかと思ったが若頭が切実に止めてくる。


組長(おやじ)!気持ちはわかりやすが落ち着いてくだせえ!ここで手を出したらそいつの言う通りになっちまいやす!俺達がいなくなったら誰かお嬢を守るんですかい!」


クソが!

俺は仕方なく下種から手を放す。

すると息苦しそうにしながらも得意気に下種は口を開く。


「ゲホッこの野蛮人め…。まあいい、そこの分別が少しある彼の言う通り、娘さんは私達の気分次第で安全に家へ帰れるという事です。どれだけ安全に帰れるかはあなたたちがどれだけ快くシマを譲ってくれるかによりますね?さて、どうします?シマをただでいただければ五体満足でお返しするのも今なら可能ですよ?」


こいつを今すぐに殺したいが、それでは駄目だ。

何より今までこっちの世界と無縁で生きてきた娘を巻き込むなんて俺自身が許せねえ。

…そしてこいつらも巻き込んでまでやる事なのか…俺は段々と心が追い詰められていくにつれて焦り始める。


このままじゃ大多数が不幸のまま終わっちまう。

…ここからどう手を打てば一番よく終われるんだ?


そう思い悩んでいる最中である。

俺のポータブルの呼び出し音が鳴り響く。


…こんな時に電話だと?


「…出てもいいか?」


「ここで出るならいいですよ?外で話すとかは許しませんけどね」


俺は心の中で舌打ちする。

やはりこっそりと抜け出すの無理か。


「後、スピーカーで私達に聞こえるようにお願いします。内緒話なんかをされても困りますからね」


「…わかった」


俺はポータブルを取り出すと発信元の番号を見る。

…見た事ない番号だな?

いたずら電話か?


…まあいい出てみるか。


「はい、もしもし」


『もしもし聞こえる!父さん!あ、東雲健固の電話で間違ってない!?』


「咲々楽か!?無事か!?」


そのやり取りに事務所内はざわめき始める。

こちらの構成員の目には希望が宿り、あちらの構成員には戸惑いが顔に現れ始めている。


『はい、(さら)われそうになったけど大丈夫です』


「馬鹿な!室生はどうした!」


スピーカーモードのため対面の下種にも聞こえており、親子の会話に勝手に割り込んでくる。


『貴方誰?私を攫おうとした人たちなら死んでますよ?』


「そんなはずは!?」


下種は自分のポータブルを操作するとどこかに慌てて連絡を付けようとし始める。

無粋な事をしやがって…しかし久しぶりに声を聞くな…しかし少し声が震えている気がする。


「何があった?」


『攫われてしまったのですけど…事故を起こして親切…な人に助けてもらって今はその事故現場にいます』


「ここにいる鹿髏の連中がお前が狙ったと聞いてな…そうか…心配したぞ」


『そこに鹿髏組の奴らがいるの?』


「ああ、不覚にも嵌められてな…生憎俺達はお前を助けに行くことはできない」


『そんな…』


「お前が狙われたのは俺達のシマ争いが原因だ。残っている組員を頼ってもいいからどこまでも逃げろ!いいな!」


『けど鹿髏は警察を買収済みって言ってたし…ヤスは裏切って私を売ったたから組員へは信用が…』


「ヤスの奴が売ったのか!?…そういう事ならすまん全く力になれそうにない。駄目な親を許してくれ」


どうして娘の存在がばれて誘拐されたかと思えば…ヤスの奴今すぐにでも殺してやりたくなる。

しかしハキハキした娘の声でその薄暗い情念は吹き飛ばされる。


『わかったとにかく逃げてみる』


「ああ、俺とあいつの娘のお前ならできるさ…そして助けてくれた親切な方というのはまだいるのか?」


『まあいると言えばいますけど…』


「厄介事に関わらせて済まない!しかしできれば娘をどうか…どうか助けてはもらえないだろうか!」


ポータブルの向こうでは何か悩むような声が聞こえてくるがやがておさまって回答が来る。


『えーと…可能な範囲でなら』


「感謝する。では咲々楽、無事を祈ってるぞ」


『父さん?』


そして最後に最愛の娘の声を聞くとポータブルの通話スイッチを切る。

目の前には完全に取り乱した下種が立ち上がっている。


「…つながらない。まさか本当に?」


呆然としているけど今が好機である。

少なくとも誘拐が失敗したという情報は外には流れていない。

それならばここからは俺の戦いだ。


「鹿髏の奴等を叩きのめせ!」


そう号令すると事務所のあちこちで激しい取っ組み合いが始まる。

鹿髏の連中はチャカを抜いてこちらへ向けてくるが、下種がそれを制止する。


「駄目だ!組長へ報告するのが先だ!それまでサツに踏み込ませるわけにはいかない!お前ら何としても時間を稼げ!」


そうだ、お前らが呼んだサツのおかげで今は俺達が有利に暴れられるわけだ。

俺達は倍の人数相手に大いに暴れまくった。


その後数十分にわたる乱闘の末、警察が踏み込み暴行の現行犯で全員パクられた。

恐らく連絡はされてしまっただろうが少しは時間を稼げたはずだ。


俺は自分の無力さを感じながらも娘の無事を祈りながら連行されていった。

誤字報告いただきありがとうございました。

反映しました。

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